第1話 運命の誕生日パーティー
王都の王城は 祝宴の熱気に包まれていた
今日は第一王子アレク殿下の十歳の誕生日
王国中の有力貴族が集まり 盛大なパーティーが開かれている
その会場の一角でレオン・ノルディアは作り笑顔を浮かべていた
「辺境伯閣下のお身体はいかがですかな?」
「北方の魔獣被害は落ち着いておりますか?」
「今年のレッドボアはとても美味だと聞きましたぞ」
次々と飛んでくる質問をレオンは丁寧に答える
「父は療養中です御心配ありがとうございます」
「領地は落ち着いております」
「今年は脂が乗ってる個体が多くとても美味しいと思います 是非父グラニウスの領地である辺境まで足を運ばれた際はご賞味ください」
病に伏せる父グラニウス・ノルディアの代理として出席している以上 失礼は許されない
それは分かっている
だが
(疲れた……)
レオンは心の中で呟く
十二歳のレオンにとって社交は苦手なものだった 特に大人との会話が苦手だ
相手が何を考えているのか分からない
言葉の裏を読まなければならない
笑顔を浮かべながら神経をすり減らす
辺境の魔獣相手の方がまだ気楽かもしれない
そんなことを考えながら最後の挨拶へ向かう
相手は今日の主役王国第一王子 アレク
金髪に蒼い瞳を持つ十歳の少年だ
「ノルディア辺境伯家嫡男、レオン・ノルディアです」
「本日はお招きいただきありがとうございます」
レオンは頭を下げた するとアレクは柔らかく微笑んだ
「来てくれて嬉しく思う 辺境伯にもよろしく伝えてくれ」
その瞬間だった ズキリ と頭の奥に激痛が走る
「ツッ……!」
視界が揺れ音が遠ざかる
知らない景色が脳裏に流れ込んでくる
疲れ切った顔
帰り道のコンビニ弁当
婚約者の冷たい声
『もうあなたとは無理 だって貴方つまらないもの』
胸の奥が痛む
忘れたはずの記憶
忘れたかった記憶
神谷光一 二十八歳
それが前世の自分の名前だった
真面目に働き真面目に生きてきた
だが婚約者から見ればつまらない男だった
婚約解消の記憶そして
実家のリビングでゲームをしている妹
『お兄ちゃん この悪役令嬢みたいに婚約破棄されたの?』
『いやこんな大勢の前で罵倒されて振らてないぞ』
と無理して明るく返した台詞
その後悪役令嬢がどうなったか気になり妹から借りた一本のゲームタイトルは
【ノルドレア・ロワイヤル】
そこで知った“筋書き”は悪役令嬢のクラリスは どのルートでも必ず断罪される
(ここは……その世界だ)
確信した瞬間足元がぐらついた
あまりに情報が多すぎる
攻略対象アレク・エルグランドが目の前にいる
全ての記憶が一気に蘇る
「レオン?」
アレクの声で我に返った
王子が心配そうな顔をしている
「顔色が悪いぞ大丈夫か?」
レオンは慌てて笑顔を作る
「だ…大丈夫です 少し緊張しただけですので……」
「そうか?」
「はい」
なんとか誤魔化した
だが頭の中は混乱していた
(ここは……ノルドレア・ロワイヤルの世界なのか……?)
とてもこの場にいられる気分ではない
「申し訳ありません 少し風に当たってきます」
アレクに一礼し レオンは大広間を後にした
夜風が頬を撫でる
冷たい空気が少しだけ頭を冷やしてくれる
王城の庭園には遠くからは祝宴の音楽が聞こえてくる
レオンは石畳の小道を歩きながら記憶を整理する
【ノルドレア・ロワイヤル】
主人公エリシア
攻略対象は4人
エルグランド王国
王子 アレク・エルグランド
ヴァルハイト帝国
第二皇子 ルーカス・ヴァルハイト
セレスティア教国
枢機卿 セリオス・セラフィス
レイン魔導国家
第一王子 カイン・レイン
そして悪役令嬢
ローゼンベルク公爵
公女 クラリス・ローゼンベルク
その名前を思い出した時だった
ふと視線の先に人影が映る
月明かりに照らされた庭園
そこに一人の少女がいた
金色の縦巻きロールは まだ幼さを残す身体にはあまりにも華やかすぎた
月の光を受けて揺れるその髪は まるで完成された貴族令嬢の象徴のようで
年齢との不釣り合いさえ感じさせる
だが少女の表情は不安そうだった
聞こえてくる音楽に合わせ
何度も何度もダンスの練習を繰り返している
右、左とステップをして回ろうとした瞬間に転倒している
その姿はゲームで見た高慢な"悪役令嬢"とはまるで違った
ただ必死に頑張る一人の少女だった
レオンは思わず足を止めた




