第1話 運命の誕生日パーティー
8月8日より、句読点を入れて編集していきます。
途中から文書が変わると思いますが、どうぞ温かい目でお読み下さい。
王都の王城は、祝宴の熱気に包まれていた。
今日は、第一王子アレク殿下の十歳の誕生日。
王国中の有力貴族が集まり、盛大なパーティーが開かれている。
その会場の一角で、レオン・ノルディアは作り笑顔を浮かべていた。
「辺境伯閣下のお身体はいかがですかな?」
「北方の魔獣被害は落ち着いておりますか?」
「今年のレッドボアは、とても美味だと聞きましたぞ」
次々と飛んでくる質問に、レオンは丁寧に答える。
「父は療養中です。御心配いただき、ありがとうございます」
「領地は落ち着いております」
「今年は脂が乗っている個体が多く、とても美味しいと思います。ぜひ父の領地である辺境まで足を運ばれた際には、ご賞味ください」
病に伏せる父、グラニウス・ノルディアの代理として出席している以上、失礼は許されない。
それは分かっている。
(疲れた……)
レオンは心の中で呟く。
十二歳のレオンにとって、社交は苦手なものだった。
特に、大人との会話が苦手だ。
相手が何を考えているのか分からない。
言葉の裏を読まなければならない。
笑顔を浮かべながら、神経をすり減らす。
辺境の魔獣を相手にする方が、まだ気楽かもしれない。
そんなことを考えながら、最後の挨拶へ向かう。
相手は今日の主役、王国第一王子アレク。
金髪に蒼い瞳を持つ、十歳の少年だ。
「ノルディア辺境伯家嫡男、レオン・ノルディアです」
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
レオンは頭を下げた。
すると、アレクは柔らかく微笑んだ。
「来てくれて嬉しく思う。辺境伯にもよろしく伝えてくれ」
その瞬間だった。
ズキリと、頭の奥に激痛が走る。
「ツッ……!」
視界が揺れ、音が遠ざかる。
知らない景色が脳裏に流れ込んでくる。
疲れ切った顔、帰り道のコンビニ弁当、婚約者の冷たい声。
『もうあなたとは無理……だって、貴方、つまらないもの』
胸の奥が痛む。
忘れたはずの記憶。
忘れたかった記憶。
神谷光一、二十八歳。
それが前世の自分の名前だった。
真面目に働き、真面目に生きてきた。
だが、婚約者から見れば、つまらない男だった。
婚約解消の記憶、そして、実家のリビングでゲームをしている妹。
『お兄ちゃん、この悪役令嬢みたいに婚約破棄されたの?』
『いや、こんな大勢の前で罵倒されて振られてないぞ』
無理をして明るく返した台詞。
その後、悪役令嬢がどうなったのか気になり、妹から借りた一本のゲーム。
タイトルは【ノルドレア・ロワイヤル】
そこで知った〝筋書き〟では、悪役令嬢のクラリスは、どのルートでも必ず断罪される。
(ここは……そのゲームの世界だ)
確信した瞬間、足元がぐらついた。
あまりにも多くの情報が、一気に流れ込んできた。
目の前には、攻略対象であるアレク・エルグランドがいる。
全ての記憶が一気に蘇る。
「レオン?」
アレクの声で我に返った。
王子が心配そうな顔をしている。
「顔色が悪いぞ……大丈夫か?」
レオンは慌てて笑顔を作る。
「だ、大丈夫です……少し緊張しただけですので……」
「そうか?」
「はい」
なんとか笑顔を作り、誤魔化した。
だが、頭の中は混乱していた。
(ここは……ノルドレア・ロワイヤルの世界なのか……?)
とても、この場にいられる気分ではない。
「申し訳ありません。少し風に当たってきます」
アレクに一礼し、レオンは大広間を後にした。
外に出ると、夜風が頬を撫でる。
冷たい空気が、少しだけ頭を冷やしてくれる。
王城の庭園には、遠くから祝宴の音楽が聞こえてくる。
レオンは石畳の小道を歩きながら、記憶を整理する。
【ノルドレア・ロワイヤル】
主人公、エリシア。
攻略対象は四人。
エルグランド王国。
第一王子 アレク・エルグランド。
ヴァルハイト帝国。
第二皇子 ルーカス・ヴァルハイト。
セレスティア教国。
枢機卿 セリオス・セラフィス。
レイン魔導国家。
第一王子 カイン・レイン。
悪役令嬢。
ローゼンベルク公爵令嬢 クラリス・ローゼンベルク。
その名前を思い出した時だった。
ふと、視線の先に人影が映る。
月明かりに照らされた庭園。
そこに、一人の少女がいた。
金色の縦巻きロールは、まだ幼さを残す身体には、あまりにも華やかすぎた。
月の光を受けて揺れるその髪は、まるで完成された貴族令嬢の象徴のようで、年齢との不釣り合いさえ感じさせる。
だが、少女の表情は不安そうだった。
遠くから聞こえてくる音楽に合わせ、何度も何度もダンスの練習を繰り返している。
右、左とステップを踏み、回ろうとした瞬間に転倒する。
その姿は、ゲームで見た高慢な〝悪役令嬢〟とはまるで違った。
ただ必死に頑張る、一人の少女だった。
レオンは思わず足を止めた。




