第二録:異世界 二節「招来」
考えを巡らしているとおかしな事に気がつく。
騒がしかった周りの騒がしさがおかしい、喧騒からどよめきと混乱に変わっている教室内に視線を向けようとするが────
窓ガラスに映った自分を見て驚く、瞳の色が左目だけ変わっている
「!?」
この学校で妖霊関連のかなにかが起こっていてそれは自分にも作用している、解魔ノ瞳が反応しているのが何よりの証拠だ。
そして突然、床が光を放つ。
「─ヤバイ!!」
声を出して行動を起こそうとするも時すでに遅しクラスメイトと共に光に包まれる───この日、1クラスが集団失踪という大事件が起こった。
────同時刻 書院
わしの旦那様が学舎に向かってしまった。
寂しいが致し方あるまい、人の生活はどうにも生業や学業を中心にしすぎておる現代は特に。
などと心の中で寂しさの愚痴を言いつつ備え付けられた簡易的なキッチンに向かい今し方食べ終えた弁当箱を洗う、少ない洗い物を迅速に片付けて手を拭いて一間の様な構造になっているので少し歩いてこたつに戻る。
こたつの上のスマホを手に取り旦那様の母上、義母様にビデオ通話をかけると短いコールののちに画面に義母様が映る毎度思うが現代の技術とはすごいもんじゃ
妖術より吃驚な代物、妖術とは違う便利さを探求した叡智の結晶。
「おはよう〜夜天羅ちゃん」
笑顔でこちらに手を振る義母様は明るく、鬼であるわしを分け隔てなく接してくれる。
「おはようなのじゃ義母様、今日も朝ごはん美味しかったのじゃ」
互いに挨拶をしてまずは感謝を伝える、毎日美味しい食事を作ってくれる義母様、何も返せない今が歯痒い。
「いいえ〜私も作り甲斐があるわ〜ねぇそれより縁嗣とはどう?あの子ったら奥手だからね〜」
食い気味で旦那様がワシの前ではどうしているかを問うてくる、年頃の息子を持つ母とはみなこうなのかのう?
「良好じゃ、旦那様はいつも優しく寄り添ってくれてのう、まぁ義母様の言ったとおり少々その面はあるがわしは満足じゃ」
「あらー!!!!」
義母様はもうにっこにこで上機嫌…なんか旦那様に悪い気がするが間違った事は言っとらん…よな?
「あの子ったら私達の前ではツンケンしちゃってねぇー!やっぱり恥ずかしいのかしら?」
そうなのかのう?遠慮なく睦み合えば良いと思うのじゃが…。
※夜天羅は覡両親側の思考である。
「人前ではやはり─」
圧倒的な悪寒が夜天羅を襲う、たまらず周りを見るが何もないしかし何か…よくない事が起こると言う確信。
「夜天羅ちゃん?」
急激な様子の変化にビデオ通話越しのにも緊張が伝播する。
「…なにか、すごくよくない予感がするのじゃ」
居てもたっても居られない、しかし今は日中で外には出れない、その様子を察したのか義母様は立ち上がる。
「…ちょっと外を確認してみるわね」
ビデオ通話を繋いだままパタパタと早歩きで外に向かい玄関を引く音がし義母様の顔と外の風景が映る。
「私の目からは普通ね…」
内カメラから背面カメラに切り替えられ外の風景がより広く見える義母様はぐるっと周りを一周したその
瞬間、信じられないものを目にして一目散に部屋を飛び出した。
靴も履かずスマホを持たず陽光が降り注ぐ外へわしにとっては死地に等しい白昼の中を走る、陽光が自分を苦しめる、焼ける様な感覚が体に伝わる、がしかしそんなものより怖い事が起こっていた。
がむしゃらに走った、寺の本堂前には義母様が立っており驚いた様子でこちらを見る。
「や、夜天羅ちゃん!?」
義母様が慌ててわしに駆け寄り着ていた薄いカーディガンを被せてくれた、義母様のおかげで影ができ痛みが和らぐ邪気が太陽に焼かれ霧散した今なら自分に近づくことができる。
「ダメじゃない!?、っいやどうして!」
心配が先行し叱りを受ける、無理もないそう言われても仕方がないことをしている、義母様はわしの肩を掴み書院の方へ誘導しようとするが義母様を見てその手を止める。
「だ、旦那様が!いなくなってしまう!」
あのカメラで写ったものそれは旦那様が通う学舎の方向に光の柱が現れたそして決定的なのはわしと旦那様を繋ぐ姻縁が薄くなっていっている事。
「!!ついに来たのね…!」
ついに?義母様から予想外の言葉がでてきた。
「義母様、それはどう─
「私もその時が来るとしか聞いてないの!詳細は夫しか知らないけど今が多分その時よ!」
義父様しか知らない、それは来空の文献のこと文献には伝えて良いことダメなことその全てが記載している、ならこれは─
「夜天羅さん、息子は大丈夫ですよ」
寺の階段を上がってきたのは義父様。
「あなた!」
「柳子も心配かけたね…」
ニコッと義母様に柔らかな笑顔を向ける義父様
「ぎ、義父様、いったい!」
「…来空さんからの言伝です、”私が起こした波紋は今終わりました、鬼よ恐れずに私という過去の未来を信じなさい”です」
未来を信じろ──時を超えた友の言葉に少しだけ落ち着きを取り戻す。
「詳しく説明している暇はありません、一つ邪気の事は気にしないでください」
「アイツを…息子を追ってくれるならその指輪に想いをこめてください」
義父様の想いを聞いたわしは一、二もなく旦那様への想いをこめていく離れたくない、一緒にいたい、愛してるその為なら─
必死の願いを、想いのその全てを指輪へぶつけたすると──ヴゥン…良いしれぬ音と共にぐにゃりと空間が捻じ曲がり裂け目ができた、義母様とわしはその光景に驚愕する。
「…こ、これは」
「それは、息子がいる場所に繋がっている。」
「夜天羅さん」
「私達の息子をよろしく頼みます。」
「私からもお願い」
深く頭を下げた義父様と義母様、表情はわからないだがわしや旦那様を想っているのは痛いほどわかる
腹が据わる、邪気の事が尾を引くしかしわしは─
「行ってくるのじゃ!旦那様を連れて帰ってくるのじゃ」
ここに飛び込み必ず、必ず─
カーディガンを義母様に手渡し勢いよく裂け目に飛び込んでいく。
「行ってらっしゃい」
最後に柔らかな二人の声が聞こえた。
フッとそこに何もなかった様に空間が元に戻り残された覡夫妻、不安を表すかの様に夫に寄り添う妻、夫はそれを受け止め法衣の袖から古い書物を取り出す。
「これで文献は終わり、後は若人次第だ」
来空の文献、それが役目を終えた様に一人でに塵になっていく…ここまでは来空の手のひら、しかしもう未来を知る必要はない。
人は不確定で未知だからこそ未来と言う暗闇に勇気を出して歩んでゆく踏み出した者が、暗闇に立ち向かった者が自分の未来を掴み取る。
「…少しの間寂しくなるわね」
「なに、ちょっと早い独り立ちと思えば良い久々に夫婦生活を楽しく送っていればそのうち帰ってくるさ。」
冗談を交えつつ妻を励ます夫その冗談には息子達は必ず帰ってくると言う確信を感じる、夫の言葉に妻はふふっと笑い。
「じゃあ、帰ってきたら美味しい物を用意して二人を迎えてあげましょう」
そう話しながら仲睦まじい夫婦は寄り添い空を見上げた。




