第二録:異世界 一節「二人の距離」
─現在。
「今日のお弁当もおいしいのう」
「………」
俺の横にピッタリとくっついて弁当を食べる、これは毎日の恒例
…まぁ…両親へ愚痴なんて言えないよなぁと思うが辞める気はない。
「毎日…大丈夫か?外に出れないっつーのはしんどいだろ?」
夜天羅を苦しめる邪気、それのせいで
彼女はろくに外に出れない、太陽を拒む邪気は夜天羅を夜に縛る。
寺の結界内なら半径10メートルぐらいで抑えれるが一歩外に出たら
際限なく広がり邪気も強まっていく両親すらマトモに近づけない…。
「大丈夫じゃ、お前様が毎日来てくれるし
お前様のご両親もわしを気遣ってくれる」
「そっか…ならよかった」
夜天羅の問題解決の道は夫婦になる事。
しかし俺はまだ17、後一年は不自由を強いてしまう、申し訳ない…
これは籍を入れると言う単純な事ではなく婚姻とは儀式。
愛する者が式をあげ啓白文や誓詞を読み誓杯の契りを交わす
そうして二人は初夜を迎え肌を重ねて儀式が終わる。
この一日かけた儀式を行い夜天羅は神のから
堕落し神の資質である善悪の側面を失う、これで晴れて彼女は解放される。
しかし現代の法的な事情で婚姻ができない、超常の存在である
半神半鬼の夜天羅に法を守ってもらう理由それは─
「お前様こそ妖霊管理機構の方は大丈夫かの?」
妖霊管理機構、現代じゃ眉唾な妖怪、幽霊、神様を
管理、維持、討伐する国の極秘機関。
そんなものがいるのも驚きだがここでもすごいのは
千里眼のご先祖さん未来が見えるゆえ先手を打っていた。
この機関が出来たのは約200年前、しかし前身である陰陽寮に
契約書を交わし夜天羅の件を俺の一族に一任されるように仕込んでいた。
その契約で夜天羅に戸籍等を与える事が盛り込まれており
おかげで法を守り俺が18まで待つことになった。
契約書だけなら妖霊管理機構がなんとかして
俺の一族から夜天羅を奪っていっただろう。
しかし契約の一部に妖霊管理機構の心臓部とも言える部分を握っているらしい
流石に詳しくは教えてはくれなかったが…恐れ入るよ…ほんとに。
ただ、妖霊管理機構に月の報告書と面談が俺に義務付けられた
まぁこれは些細な事だそれに給料も発生してる。
「問題ない大丈夫だ。」
「…あやつらはどうにも好かんのじゃ」
眉を顰める夜天羅はそう言うと卵焼きを頬張る
これは妖霊管理機構とのファーストコンタクトがよくなかった。
来るなり寺を包囲されたからな…。
「ご馳走様」
夜天羅は食べ終え箸を置く、弁当箱を重ねて蓋を閉じる
この1年間で夜天羅は現代の道具や常識、言葉をかなり覚えた。
最初はかなり目を回していたが今では支障なく生活が出来るほどだ
特にスマホを普通に扱えている、これにはかなり驚いている。
しかも最近はお袋とよくビデオ通話をしている
変な事を吹き込まれないといいんだが…。
「また後で義母様に礼を言うかの」
お茶を飲んで一息つく、緩やかな時間が流れる、好きな時間だ
隣の夜天羅は俺の腕を抱きしめている。
これもいつもの光景だ…将来、本当に両親みたいになりそう…。
朝食時の両親が頭によぎる…血は争えないってやつか?
「最近、お袋とよく話してるけどなに話してるんだ?」
「んー?世間の話題じゃったり、この時代の常識だったりじゃな」
よかった…普通に会話をしてる様で、お袋とも中良さそうで安心する。
うちでは小姑問題はなさそうで将来の心配はなさそうだ。
「それとお前様の昔話」
前言撤回、絶対ろくな事言ってないだろお袋
「あと─」
まだあるのか!?朝からカロリーの高い情報は勘弁してくれよ?
「お前様の好みじゃ」
「!?」
ニヤリと笑い唇に軽いキスをされる、たまに不意打ちでキスをされてしまう
不意のキス以外にも夜天羅はよくキスをする
最初の夜以来キスが好きになったらしい、要はキス魔だ
「ふふっ」
いたずらっ子の様な笑みを浮かべコロコロ笑う
恥ずかしくなり彼女から目を逸らす。
まぁ…その…いや…だって恋人だし…キスくらい
などと自分に言い訳をしてみる。
ふと時計を見てみるとかなりいい時間になってしまった。
「お前様はもうすぐ学舎にいく時間じゃな…」
「そうだな、そろそろ出ないと」
夜天羅も時間に気がつき俺の腕を離す
名残惜しさを感じるも立ち上がりカバンを持つ。
続いて夜天羅も立ち上がり一緒に扉まで行く。
「じゃあ行ってくる、学校が終わればすぐに顔を出す」
「気をつけての、ハイ」
そう言うと満面の笑みで両手を広げる夜天羅
…これはまぁそういう事です。
俺は両手を夜天羅の背中へ回す、彼女も呼応して俺を抱きしめて
ほんの少しの間ハグをして互いの温もりを感じ合う。
短いハグを終えて夜天羅は手を振り俺を見送る
手を振りかえし書院を後にして歩道に向かうため寺の階段を降りた。
「と、その前に」
歩道に出る前カバンから手鏡を取り出して目を確認
夜天羅から出る邪気はこの解魔の瞳で防げるが色が変わってしまう
後で聞いた話産まれた時と今で色が変わったのは幼さゆえ
妖霊関連に敏感になってたらしい、距離を開けた今の瞳の色は茶色だ
それを確認してから歩道に出て学校へ向かう
俺が通う高校は家から近い
歩いて20分くらいで自転車なんかを使えば半分ほどで着く距離
特段変わり映えしない風景が過ぎ去り、俺が通う慧山高校が見えてくる。
登校時間帯の為、俺と同じ生徒が正門へ入っていきそれに
混じる、下駄箱に向かい上履きへ変え自分のクラスへ向かう。
階段を登り目的の教室に到着ガラガラと音を立てて引き戸を
開けた、中にはもうほとんどのクラスメイトがおりガヤガヤと賑わいを見せる。
しかし俺に関わってくるクラスメイトはいない、いわゆるぼっちだ
自分の席に着いて外を眺め適当に過ごす。
これに関してはまぁ…半分くらい俺が悪い。
しょうもない理由だが入学してすぐにイキリ散らかした同級生に
しつこく絡まれ適当に躱わしたら勝手にキレて手を出してきた。
かなり暴れて先生が止めようとしたものの近くにいた野球部から
バットを奪い止めるに止めれない状況から仕方なしに俺が止めた。
もちろん殴ったりではなくバットを奪い床に組み伏せたそこからは先生任せる。
まぁ…後始末がかなり大変だったが仕方がない
そこからおひれはひれ噂がついて今に至る。