第四録:平穏な村 三節「安らかな時間」
「…俺は尊敬しますよ、それだけ奥さんや
リリーちゃんを思っての事だと思いますし」
確かにリグレさんはやり方を間違えたと思う、だけど妻子を思う気持ちは本物だ。
「ありがとう…でももしヨリツグさんも
家族を持つなら私を反面教師にしてください。」
ハハと自嘲気味に笑うリグレさん。
反面教師にか…実際ちゃんと働いた事がない身からすると実感がない
しかしこのやり取りは胸に刻んでおこうと思う。
ガチャリ、帳場の奥の扉が開かれた。
「お前様ー上がったのじゃ!」
風呂上がりの夜天羅が姿を現した。
服装はラフな格好でセイナさんが用意をしてくれたんだろう。
「リグレ殿もありがとうなのじゃ」
「いえいえ」
「ヨリツグさんもどうぞ」
「お借りします」
「お前様、こっちじゃ」
入浴室を先に使った夜天羅が案内をしてくれる
扉の奥は一段高くなっており玄関の様に床も木材に変わっていた。
「では私はリビングでお待ちしております。」
リグレさんも店側からこっちに入って来てリビングへ向かう。
店の奥、生活圏は一階の半分が作業場もう半分が居住スペースになっていた
2階が寝室や浴室、空き部屋で階段を上がり廊下奥の入浴室に辿り着いた。
「助かったよ」
「じゃあわしはリビングで待っとくのじゃ」
夜天羅としばし別れ俺はすぐに服を脱ぎ浴室へ
使い捨てだろうか、簡易歯ブラシにカミソリまで準備されていた。
浴室の見た目はアンティークな感じでシャワーはホースで動かせるものではなく
固定された頭上から降ってくるタイプ試しに蛇口を捻ると暖かな温水が出る。
それを確認してから体を洗い清めていく20分ほどで
入浴を終えて用意をしてくれた服へ袖を通す。
上着の着た感じはTシャツ、ズボンもGパンに近い履き心地、しかし─
「なんでサイズぴったりなんだ…?」
仕立て屋の勘…とか言わないよな?だとしたら普通にすごい。
入浴室を後にしてリビングへ向かうとリグレさんがお茶を用意してくれていた。
「お風呂、ありがとうございます」
「ヨリツグさん、どうぞかけてください
お茶をどうぞ、この村の特産品です、美味しいですよ」
「お前様、このお茶美味しいのじゃ!」
先にお茶を飲んでいた夜天羅の隣に座る
ティーカップには透き通ったやや赤みのある琥珀色のお茶が
キラキラと光を反射していた、りんごに近いよい匂いが鼻腔をくすぐる。
「そう?じゃあ俺も、いただきます。」
お茶を一口飲む、スッキリした甘さと少しの清涼感が鼻に抜ける
甘茶とジャスミンティーをうまい具合にブレンドした感じだ。
暖かな飲み物が体と心をリラックスさせる。
「美味しい」
「じゃろ?じゃろ?」
なぜか少し得意げな表情になる夜天羅。
「その…気になっていたんですがお二人の関係はもしかして…その…」
リグレさんはおずおずと問いかける。
「わしの旦那様じゃ!」
自慢げに胸を張り堂々の発言。
「…正式な婚姻はまだですが恋人です」
信じられない、そういった驚愕の表情をみせた
「…私どもの世界では信じられないですね」
この世界で夜天羅は魔族に分類される、恋人関係はさぞ珍しい事だろう。
まぁ…元の世界でもかなり稀有だったが。
するとリビングに呼び鈴のような鈴の音が響く
それは店側からではなく、リビングの奥から聞こえてきた。
恐らく裏口、住居側の玄関があるんだろう。
リグレさんはその呼び鈴の対応に席を外した。
束の間、夜天羅と二人きりになる。
「わしらは幸先の良い出会いをしたのう、またコイスケに感謝じゃな〜」
夜天羅は足元でゴロゴロしていたコイスケを
おもむろに抱き抱えて顔を突き合わせる。
んんーにゃん?
俺は不思議そうにしているコイスケの頭を撫でる。
「そうだな…ここに来てからコイスケには驚かされっぱなしだ」
にゃんにゃー
なんだかよくわからないがとりあえず撫でられて気分が
いいそんな感じなんだろうか
持ち上げられたままゴロゴロと喉を鳴らす。
裏口側の扉が開きリグレさんと─
「ファスさん!」
入室してきたのは兵士のファス。
こちらへ視線を向けて軽く会釈をした。
「どうも、ヨリツグさん、ヤテンラさん
今回の件、村の兵士を代表して感謝致します」
言葉の後に今度は深いお辞儀をした。
顔を上げたファスはこちらへ一つ問うてきた。
「それで魔物なんですが素材はどうされますか?」
あぁ…そうか、倒した俺に権利があるから手を出せてないのか。
しかし、どうしていいのかわからないのも事実で肉に骨に皮
全て何かに使えるかもしれないが頼む伝手もなければ
自分で捌く事もできない…ここは引き取りか売却だな。
「そうですね、売却─
「すみません、私が口を出すのはおかしいですがヨリツグさん
羽毛と皮を引き取っていただけませんか?」
リグレさんから突然の提案、あの魔物の体毛は珍しいのだろうか?
特段、断る理由もない、夜天羅と目を合わせると彼女も頷いた。
特に異論はない様だ。
「じゃあ、皮と羽毛は引き取ります、あとは売却か引き取りでお願いします。」
「了解しました!では売却になりますが解体料を引くとこの金額になります」
事前に用意していたのか、ファスは一枚の紙をこちらに見せてきた。




