第三録:仮初 五節「接敵」
先ほど自分たちが出て来た茂みから音もなく飛び出して来た巨大な物体。
少女が魔物と呼ぶその正体。
3メートルは超えるだろう巨躯に熊と鳥を融合したかの様な見た目、脚は太く
両翼の先端には凶悪な爪を携えた生物、顔と動きは地球で言う梟に酷似していた。
魔物の視線の先は少女だ、獲物を執拗に追うその習性は熊のようだ
そして眼前に立ちはだかる俺を警戒している。
人生で初めての命の奪い合い、手が少し震えた…だが
やらねば後ろの守るべき者が、愛おしい人が殺されてしまう、覚悟を決める。
「回れ右してくれたらありがたいんだが?」
僅かな願いを込めた言葉は虚しく、魔物は右腕を振り下ろした
大振りな攻撃を左に避ける、豪快な音と共に魔物の攻撃は地面を抉る。
人に当たればミンチは間違いなしだ
続け様にその右腕で薙ぎ払いが空を切り裂き襲いかかってくる。
これも難なく回避、俺は駆け出し攻撃を出しにくくする為に
魔物に超接近し魔物の左胸に手を当てた。手からは生きている鼓動を感じる。
魔物にとって不快で不明な行動だったろう
腕が使いにくい距離に魔物は蹴りを繰り出す、読みやすい攻撃だ
俺は回避し魔物の背後を取った、しかし─グルンッ魔物の首が真後ろまで回転
さらにそのまま背骨が折れるような角度をもろともせず顔面を猛スピードで
振り下ろしその凶悪な嘴で俺を啄もうとした。
俺は瞬時に魔物の股下をスライディングで潜り正面に戻る。
「!!」
魔物は予想外のだったのだろう
すぐに体勢を戻し攻撃に移ろうとする魔物だが俺の方が早かった。
魔物の膝を台にして飛び左胸目掛けて
拍動のタイミングを測り全身全霊の拳を叩きこむ。
硬い…まるで弾性のある岩のようだ対して沈む拳はボキボキと嫌な感触が伝う。
「ギョァエッ」
短い悲鳴をあげ崩れるように倒れる魔物、左胸に衝撃を与え心臓を潰した
空刹流剣術「鞘穿ち」本来は刀の鞘で突く技だがそれを無手で再現。
これは戦いではない、殺し合いだ初見の技で一撃必殺が常套手段。
「お前様、大丈夫かの?」
優しく暖かな右手が俺の腕に触れた
身体の心配ではなく心の心配をしてくれる、その優しさが身に染みた。
俺はこれから覚悟をしなければならない
この世界を旅するという事はコレが日常的になる。
今回は弱い敵だったがいつかは強い魔物に当たる事になるだろう、最悪、人さえ…
しかし引くわけには怖気付くわけにはいかない。
「ありがとう、夜天羅」
「お兄ちゃんすごーい!!」
魔物が倒され、安堵した少女が笑顔を見せてくれた
少女は未だ夜天羅の左手を握っている。
夜天羅という人外に対して差別や忌避する感じはない…
このまま大人も同じ認識だと助かる。
「私ねこの道知ってる!私のお家まで案内する!」
少女はやや興奮気味に語る
魔物の恐怖からの解放それに家に帰れる嬉しさもあるのだろう。
出会った時に話したことを覚えていてくれた。
「いいのかい?」
「うん!ママがね、助けてもらったらちゃんとお礼をしなさいって!」
「あっ!お兄ちゃん、魔族のお姉ちゃんありがとう!」
自身で口にした事にお礼を言ってない事を
思い出した少女は慌ててお辞儀をしてお礼を言う。
「どういたしまして」
「良い子じゃな〜」
夜天羅は少女頭をぐりぐりと撫でる。
褒められて嬉しいのか自信ありげな表情の少女、平和な光景が流れる。
「じゃあ、案内よろしくね」
「わしは夜天羅じゃよ」
「うん!私はリリー・カルステ」
遅れた自己紹介をしてから少女リリーの案内により道を歩いてゆく。
終始、上機嫌のリリー。
今が普段のリリーの性格なんだろう明るく快活。
和気藹々と道を進む事歩いて15分、前方から声が聞こえて来た。
リリー!、おーい、リリーちゃーん!!
夜天羅と顔を見合わせた、予想以上に少女が夜天羅に
懐いているから互いに大人の事を半分忘れていた。
それに少女の事情を考えれば村の住人が探しに来るのは当たり前だ。
前方から複数の人影が見える今から隠れる暇もない
ぶっつけだが仕方がない、運に頼ろう。
「あっパパ!」
夜天羅の手をパッと離して走り出したリリー。
現れたのは中年の男性と二人の鎧に身を包だ兵士
中年の男は少女、リリーが駆け出したのをみるや否や走り出した。
「リリー!」
中年の顔は安堵に染まり娘を抱きしめた。
いつから行方が分からなくなっていたかは定かではないがリリーを
親御の元へ送れてよかった、夜天羅と二人顔を見合わせ笑い合う。
「今までどこに!」
「ごめんなさい…魔物が怖くて森で隠れてて」
サァと顔が青くなる父親、それを聞いていた兵士は辺りを警戒する。
「あ、貴方達がリリーを?」
リリーの父親がこちらへ視線を向ける
さて…夜天羅に対してどんな反応を取るのか。
最悪の場合に備えて眼前の3人を警戒する。
「ええ、偶然にリリーちゃんを発見しまして俺達も休める場所を
探せたらとリリーちゃんに案内をお願いしていたところです。」
軽いあらましを説明した、リリーの父親に兵士二人が夜天羅へ視線を注ぐ
あちらも警戒しているのか…?
いやそれなら夜天羅を見た瞬間に行動を起こしているはず
なにか…珍しいものを見る目、リリーの時と同じだ。
「…失礼ですがお二人とも魔族ですか?」
「いえ、僕は人で彼女は魔族です」
そのセリフにさらに驚く3人。




