表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/101

暴力と絶望、目新しいものはなにもなく

 部屋の中をうろうろと動きまわっている。腰を下ろすと貧乏揺すりが止まらない。じっとしていられないんだ。考えが上手くまとまらないどころの騒ぎじゃない。言葉自体がなにも浮かんでこないのだった!

 おれはやっぱりどうにかなってしまったらしい。それか書き過ぎたか。たったこれだけで? たったこれだけだと? 強がりはよせ。作家気分に浸るのは結構なことだが、嘘はよくないぜ。おれはたくさん書いた。九か月もの間ずっと書き続けている。これが書き過ぎじゃなくて、なんだってんだ。

 申し分のない太陽だ。とても気持ちのよさそうな天気。でも外に出れば灼熱地獄だ。それを知っていてなお、外に出なければならない時もある。幸い今日はそうではなかった。だが来週の日曜日は外に出ることになるだろう。またクソ野郎どもがおれの近所に来襲してくるんだ。もううんざりだが、迎え撃たなければならない。連中は趣味でやってることだが、こっちはそうじゃない。ただムカつくだけだ。ムカつくやつらを放っておけないだけだ。喰らわしてやりたいだけだ。連中はなにかに取り憑かれている。こっちはそうじゃない。一緒にしないでくれ。

 おれが暇人だからできること。それはこんな文章を書いたりすることだってそうだった。毎日毎日、飽きもせず。確かに飽きてはいないのだが、妙なところにハマッちまっている真っ最中だ。低速の低空飛行が続く。よく墜落しないもんだ。もうしているのかも。とっくに墜落した後なのかも。海にプカプカ浮いている。助けなんて来やしない。おれはここでくたばっちまうのかも。

 とうとうビールまで飲み出したのだった。良くない傾向だ。まったく良くない。おれは酔いどれになんてなりたくはない。連中はなにしろ臭いし、なにを言っているのかわからない上に、お喋り好きときている。すぐに漏らしやがるし、へらへらしていると思えば、急にめそめそ泣き出して、最終的には怒り狂ったりする。連中などさっさと死んでしまえばいい。


 おれの頭はすっかり調子が狂ってしまったが、それはなにもおれに限った話じゃない。どいつもこいつも調子っぱずれだ。

 一番近くにある、でっかいターミナル駅に行ってみるといい。空港でも構わないよ。ショッピングモールでも。で、そこにいる連中を、ゆっくり見渡してみるといい。おれの言っている意味がわかるさ。

 ビールなんて飲むものじゃない。内臓を痛めつけてまわって、すぐに小便に変わるだけだ。コーヒーだってそうだ。すぐに小便に変わる上に、夜眠れなくなってしまう。なにも飲まなくたってやっていける。メシの時間に水をコップに一杯や二杯、それだけで充分だ。外に出なければ。

 それにしてもパッとしない。まるで死体の書く文章だ。耳の裏が痛痒い。触ってみたらなぜか血が出ていた。寝て起きると、こういうことが起きる。顔に傷がついていたりする。寝ている間のおれはいったいなにをしているんだ? 

 彼は言う。すべては未完結なものの再開。経験の再経験。地獄の形状はまさしく環状。すべてはぐるぐる繰り返す。無窮、反復、永遠こそがその本質であり、まずもって耐えがたい。


 おれはいつも言ってきた。そんな中でも書くことだと。愚かな自分自身を救う方法はそれしかない。おれは生きている人間の言葉には頼らない。虚飾で彩られ、演出過多に陥ったやつらの言葉などには……。いつだって信じられるものは死んだ人間の言葉だ。どこに連れて行かれてしまうのか予想もできない言葉だ。いつの時代でも、どこの国でもいい、死者の言葉が紡がれる様を見ているのは、この上ない悦びだ。すでに骨だけになってしまった手で、死者の書を手に取り、虚ろな闇で満たされたそのふたつの窪みで、言葉をなぞり、連ねる、つまりは書くということだ。

 おれはもう四十年くらい前に死んでいるべきだったんだ。あの日、巨大なバスに撥ねられて粉々になっっているべきだった。でも、そうはならなかった。運転手の反応がよかった。あの時はお互いに肝を冷やしたな。いや、きっとおれなんかより運転手の方がよっぽど冷えきったに違いない。おれにはまだ笑う余裕があった。どうなるかすら想像できていなかった。おれの気まぐれが人の人生を左右するかもしれないなんてこと、なにもわかっちゃいなかったんだ。巨大な鉄の塊を操縦するすべての人たちに敬意と畏怖を。

 おれには到底無理だ。そんな責任は背負い込めない。曲がり角の向こうにどんなキチガイが潜んでいるかなんてわかったもんじゃない。


 こうも暑すぎるとなにもかもがどうでもよくなる。冷房をつけていたって暑いんだ!

 設定温度は27度。これよりも下げると寒くてしょうがない。でも27度では暑いんだ! 汗が滲んでくる。首がべたつく。シャワーを浴びたって同じことだ。むしろもっと汗が噴き出すだけだ。だっておれは熱いシャワーが好みだから。汗の引かない身体に髪が纏わりつく。ちくしょう、このクソ長い髪をどうにかしてくれ!

 昔はガス代が払えなくて夏の間は真水のシャワーを浴びていた。時には電気すら止まって、真っ暗の中で寒い思いをしていたんだ。どうしてこうもすべてが上手くいかないのか。最高じゃなくたっていい。調和がとれていて、なんだかイイ感じっていう、そんな一日があったっていいじゃないかってことをおれは言いたいだけだ。いつだってなにかが不快で、なにかが邪魔をしてくる。天候、人間、身体の不調、頭の電撃……もうたくさんだ!


 おれが疑問なのは。どうして昔はパンツ一丁で眠ることができたんだろう、ってことだ。今となっては信じられない。それにタンクトップだけで外に出たりもしていた。これ見よがしにチンケなイレズミを見せびらかしていた。そんなに自分が馬鹿野郎だってことを知らしめたかったのだろうか。

 今でもたまにそういうやつを見かける。おれはそんなやつはじっと見てやることにしている。睨むわけじゃない。ただ見てやるんだ。恥と慎みってやつを知って欲しいだけなんだ。おれってもしかして老害ってやつなのかもしれない。確かに善良な人間とは言えないかもしれない。だけど眠るときはパジャマを着るし、ちゃんとベッドに行って電気を消して眠るぜ。

 ここでひとついいことを教えておいてやろう。なにも老いたから害になるんじゃない。そんなやつは最初からクソ野郎なんだ。クソ野郎は叩き潰して二度と立ち上がれないようにしてやればいい。とにかく増長させないことだ。おまえ、嫌われ者のクソッタレだよ。面と向かって言うこと言って、きっちりと解らせてやればいい。アホだから言葉の意味がわからないかもしれないが。

 でも、そもそもが、老害って言葉を使っているやつら自体がクソ野郎な場合が多いってことが、この問題をややこしくしている。おまえらは老いていない害だ。いや、もしかしたら老いているのかもしれない。もうメチャクチャだ。芯から腐っているクソ野郎もいれば、アホな小僧みたいな老いぼれもいる。この世の中にどれだけクソッタレが潜んでいるのか。そんなことを考えると気が滅入ってくる。都会の植え込みの中を一度覗いてみるといい。ゴキブリがうようよいるぜ。そんな感じだ。


 なんとも言えない気分だ。これを気分と呼ぶならば。平坦で起伏がない。騒ぎ立てるものがない。燃え上がるものがない。身をよじらせたくなるくらいに、沸き立たせるものがおれには必要なんだけど、確かこの辺にあったはずなんだけど、魔法みたいに消えてしまった。きれいさっぱり。そのくせ身体はちっとも落ち着いてくれない。カタカタ、コトコト、うるせえよ! 歩き回るのもよせ! キチガイみたいだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ