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太古の昔から続く笑み途切れる時

 おれはすれ違った大男に圧倒され、同時に自分の体格のみすぼらしさに失望したのだった。これこそが本能だ。デカいものに対する畏怖の念、空間占有率の比較、世界における自分の身体の比率が対象よりも劣っているという解が出てしまった時、男はしょげ返り、対象と目を合わせることすら躊躇ってしまうことになる。ああ、そこでたとえば、思想の愚劣さ、知性の貧弱さ、不可解な倫理、道徳的な不正直さ、などが問題になるだろうか。もし対抗できるとすれば、性的な魅力くらいのものではないだろうか。

 世のちび助諸君。諦めたまえ。きみらがいかに僧帽筋を鍛えようが、三角筋を盛り上げようが、大胸筋を見せつけようが、はたまた横への占有率を稼いでやろうといじましく肥え太ろうが、大股で歩こうが、サングラスをかけようが、刺青を入れようが、なにをしたってデカいものを前にした瞬間の畏怖の感情は無くなりはしない。それこそが本能だ。これに比べれば、三大欲求など去勢された馬に過ぎないのだった。

 おれはオランダに行って、そのことが身に染みた。均質に染みわたった。デカい連中向けにデザインされた社会。おれはまさしく小人だった。なにもかもを見上げていた。

 オランダと言えばアムステルダムだろう。カンナビスだろう。もちろん、こってりとした煙の彫刻を、三日三晩、口から鼻から休みなく立ちのぼらせてやったとも。目を真っ赤に充血させて、ぐらんぐらんに揺れてやったとも。マンチー状態で口にするチョコレイトの芳醇な甘さと言ったら!

 だが帰国して平均的な体格の猿に復帰を果たした時に感じた安堵……これだってなかなか趣深いものがあったのだ。スケール極小の意地悪インケツ国家が支配する土地ではあるが、やはりここが母国である、祖国であるのだと痛感させられた。とは言え、ネトウヨはクソだ。滅ぼした方がいい。当たり前の話だ。


 また余計なことを。おれの悪い癖だ。おまけに言ってしまうと、おれは海外へ出掛けたことなどはない。海外に行ってみたいと思ったこともない。できることなら、この部屋から一歩も出たくないという積極的引き籠もり精神の持ち主だ。その精神が物語の発生を阻害しているのだろうか。それとも本質的な物語への無関心があるのだろうか。妄想するというのもよくわからない。妄想とシミュレーションは計算の有無以外にどんな違いがあるのか。幻想と妄想。欲望、願望、現実。トリップ。サイケデリック。目の前にある物。知覚している物。事象。現象。個人的な体験と心象。じっと観察する者。言語でしか構築できない領域。そうだ。書かなければならない。書くべきだ。今こそ。


 精神内陸への上陸への試みは幾度にもわたった。その試みが成功したのか失敗に終わったのか、それは判断しかねる。喜べるほどの成果はもたらされていないし、嘆くほどの何かが起こったわけでもないからだ。ただ漂っていただけだと言われればそうなるだろう。それでも何か、一瞬でも何か、掴み取ったような気がしないでもない。そんな瞬間が身体的感覚を伴って訪れていたような気が。その瞬間がいつのことだったのかはわからない。振り返って考えられるような代物ではないからだ。

 これはもう感覚としか言いようがないのだが、せっかく文章を書いているのだから、それ以外の言葉で表せるだけ表してみようという態度は見せておかなければならないだろう。

 だが、やめておこう。頭が混乱してきた。今のおれは病人なのだ。熱がある。食欲もない。頭が痛い。寒気がする。喉元が痒い。タバコが不味い。立派な病人だ。

 真っ白な部屋の中で、氷を抱きしめながら寝ている。凍えるように寒い。歯の根が合わない。立ち上がろうかどうしようか、しばらくの間ずっと悩んでいる。決めかねている。それでもいずれは立ち上がるだろう。いつまでもこんな寒いところにいたくない。いずれ凍りついちまう。こんな間抜けな格好で死んでたまるか。先延ばしにできるのなら、できるだけ先延ばしにしたい。永遠にずっと……。それが許されるのであれば。許されるわけがないのだが。なにもかもがいずれ消えゆく運命だ。その運命に従うしかない。特にネトウヨどもはその運命を前倒しにすることをお勧めしたい。さっさと消えろ。目障りでしょうがない。


 ははあん、なるほど。今回はそういう形式でいくわけですね。そう思われただろうが、それは的外れもいいところだ。確かにおれはイタズラ心を出した。舌を出して憎たらしい顔をしながらお尻をペンペンした。おれにはそういうところがある。イタズラ好きな妖精なんだ。久しぶりに思い出したけど、そうだったんだよ。

 もうなんでしょうね、ネトウヨって書くだけで、ちょっと笑えるんだ、おれが。それくらい今のおれは弱っているということなんだ。

 実際の話、おれはネトウヨが大好きなんだ。はた迷惑な存在だけど、愛おしいと思う。馬鹿な子ほど可愛いって言うじゃない。まあそんな感じでは全然ないんだけど、だって大体が青瓢箪かオッサンオバハンでしょう、連中ってば。まったく救えないよね。でもやっぱり、観察対象として研究対象として魅力的だとは思ってしまうんだ。人間はどこまで馬鹿を究めることができるのだろう? どこまで醜悪に恥を知らずに勘違いができるのだろう? 賢しらぶったクズ! クズ! ゴミクズ! アホ。どうなったらそうなるの? おれはそれが知りたいんだ。本気で理解できないものってやっぱりすごく興味出ちゃいますよ。


 不条理だ。あまりにも不条理だ。不浄なものが増殖してゆくのを、都合がいいからと放置し、あまつさえ暴力装置に守らせている。単純に駄目だろう、って事例がそのまま何事もなかったかのように目の前を通過してゆく。単純に駄目だろう、そう言ったって、そんな小さいことでいつまでギャアギャア抜かしてるんだ、と冷ややかな目を向けられる。そしてエスカレートしてゆく。肥大してゆく。根腐れは止まらない。抑止力が働いていない。悪者が悪びれもせず隠しもしていないのに、勝手に良い方に解釈してくれるのだから、悪者も笑いが止まらなかろう。こいつら馬鹿じゃねえの、そう言われているぜ。嗤われているぜ。

 あれからずっと、こんなだ。あれからずうっと、だ。少なくない数のやつが狂っている。大きな勘違いをしている。とても悲しいことだが、もうどうにも。

 もう好きにしてくれ。おれはもう飽きた。怒るのも悲しむのも、もう飽き飽きだ。諦めたっていいことはなにもないが、諦めなくてもいいことなんてなにもないのだから、どうしようもない。なにも変わらず地球は回るのみだ。ならばせめて意識を遙か遠くに、宇宙の彼方、精神の彼方に飛ばす手段を方法を探ってみよう。クソみたいな現実にはノーを突きつけて、翼ある言葉で遊ぼう。

 こんなものは永遠に信じたくないね。おれは新しい見通しを立てて、燃料に火をつけてやるんだ。この期待感には野暮な連中がなにを言ったって無駄なんだぜ。このどん詰まりから抜け出し、帆に順風をはらんで、もっと遠くに、もっと遠くまで――


 きみの目からのぞいているのは囚人の脅えだ。余計なことをしでかしちまったら鞭で打たれるって、そう考えているんだね。かわいそうに。いったいどこでそんな考えを植え付けられたんだい? なにも言いたくない? 怖くて仕方がない? かわいそうに。とことんかわいそうなやつだな、きみは!

 いいさ、許しが出るまで(そんなものがあったとして)そこで震え上がっていればいいさ。さよなら。

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