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なにがどうなって空虚

 汗ばむ肌が不快だ。過ごしやすい季節などはない。いつだって何かが気に障る。でも素晴らしい季節はある。嵐の季節。打ちつける雨、風、どかんと落ちる稲妻。空が荒れれば荒れるほど、人間が静かになる気がする。煩わしい騒音に悩まされることがなくなる。ただ息を呑んで落ち着かない夜を過ごしたい。

 不意に暗くなってゆく空、ほら、向こうの方なんてもう真っ暗だよ。生ぬるい風に髪を崩されながら、埃っぽい空気を胸いっぱいに吸い込みたい。急いで家に帰りたい。間に合わなくたって、それはそれで。


 網戸の隙間からタバコの匂いが流れてきて、このマンションでタバコを吸っているのはおれだけじゃないってすこし嬉しくなった。こんなことを書いたってしょうがないけど、無限のように思える文章の中にはこんな部分だってあるのはしょうがないことだ。雷の音だと思っていたら、宅配業者の台車の音だったっていう感じで。小さな波のように寄せてくるこの焦りは、いよいよ少なくなってきた金のせいか? それとも文章を思うように書けていないせいか? 朝に余計なことをしたおかげで、おれの調子はすっかり狂ってしまったのだった。

 それでもスッキリしたからまあいいんだ。目障りな邪魔物を片付けてやった。タイトルだけはすごく気に入っている。夜光性の少女。小説のタイトルに使えばよかった。もったいない。ものすごくもったいない。しかし少年やら少女やら、気味の悪い男だな。でも手放したくはない。少年、少女という文字に心がざわつくこの感じを。とっくに少年と少女の旅立ちを黙って見送る側になっているとしても。見送られる瞬間が来たとしても。

 好き勝手にやればいい。がんじがらめに囚われる必要なんてない。思いっきり煌びやかに飾ればいいと思う。ガッコにどんな禁止令を出されようがシカトだよ。当たり前だよ。臆病で馬鹿な大人は勝手にびびっていりゃいいんだ。ガタガタ震えて布団でも被ってりゃいいんだ。


 小説ってこんな感じでいいんだっけ? おれはもうなんだかよくわからなくなってきたよ。なにを書いているのか、誰が書いているのか、どうして書いているのか、それでもなぜか書かれてしまうおれの文章。書かれてはいるけれど、恐らくはおそろしくピントを外しているに違いない。おれが書いている小説はすべてが間違っていてピンとこないと思われる。一向に出口も見えないし、同じようなところをぐるぐる廻っている。

 それでも前にか後ろにかは知らないが、書き進むことはできる。一応だろうがなんだろうが書き進めるだけで誰かは救われる。それはおれかもしれないし。摩天楼の少年かもしれないし。これを読んでいるあなたかもしれないし。

 いらんことは考えなくたっていい。放っておくと余計なことばかり考えてしまう。余計なことを考えると人生は疲れる。だから暇や退屈って嫌いなんだ。考えたってなにも出てこない。というかしっかり考えようとしたってなにも考えられない。不真面目にことに当たっているわけでもないのに、考えがまとまろうとしてくれないんだ。文章の欠片たちがぴくりとも動いてくれない。こいつはなんとも……手が掛かりそうだ。気分がどんどん沈んでくる。頭がやんわり混乱している。どこかでなにもかもがぴったりと合うはずなのに、手応えがまるでない。ただ手応えを感じたとしても、大抵の場合それは気のせいであると後で気づくのだった。


 悪意をばらまくやつってのは本当に救えない。実の子ども三人を手にかけた母親が懲役23年を求刑されたことに対して、女だから刑を割り引かれている、女だから死刑にはならない、そんな風に抜かしている連中がいる。こういう道徳を盾にしているつもりの単純馬鹿がはしゃぐだけで、どれだけの人間が傷つくことか。介護疲れ殺人とかにだって寛刑は見られるだろう。もちろん被告が男であろうともだ。今回は育児疲れが極限に達していたと判断された。どこかおかしいことあるか?

 なにもわからないのなら、それくらいのことが想像できないのなら、ただ黙っていればいいのにそれができない。自分自身をもう少し疑ってみたらどうなんだ。馬鹿。雑魚。弱虫。マジでいい加減にしてほしい。その臭い口を閉じろ。吹き上がるな、調子に乗るな。どれだけマッチョ気取ろうが、おまえらが臆病者なのはバレバレなんだよ、クソ野郎どもが。そんなだから弱者男性なんて言われちまうんだ。みっともない。恥ずかしい。おれは大嫌いだよ、おまえらのことが。なにが物書きだ、クソが。

 しかし、どうにも腑に落ちないのだが、連中は馬鹿の弱虫のくせに追い詰められたことがないのだろうか。そんなことは絶対にないと思うのだけど。毎日が崖っぷちだろう、絶対。それなのに、なんで追い詰められている人間への共感とか一切ないの? もしかして、確かにボクは男の中では最低ランクかもしれないけど、でもでもでもでも、女や身障者が相手なら、おさおさひけはとらないモン、筋トレしてるからねムキムキッ、とか考えているのか?

 まあいいか。雑魚どもの考えていることを想像してみたってしょうがない。連中はとことん馬鹿にして蔑んでやるに限る。


 まったく。書くことがないからって、またクソみたいなことを書いている。しゃーない。世界はいまだにマッチョな差別気分が蔓延している。無視はできない。だからといって小説の中で書くことはないじゃないか。おれだってそう思わないでもないけれども、おっ死んだあいつを見習って、まあいいじゃん、の一言で済ませたいね。たまにはあからさまに書いたっていいじゃん。遠回しに書いたって馬鹿には通じないし、おれだってスッキリしたい時がある。叫びたい時があるんだよ。それにどうせこんなんで不愉快になるようなやつは、そういうやつなんだから、そんなやつに阿部千代の文章を読んで欲しくないという気持ちがある。バルサンを焚くみたいなもんだと理解してくれると嬉しい。


 というわけで、退屈だ。サガエメは相変わらずおもしろいが、所詮はビデオゲームだ。こういう言い方はよくないな。でも本当のことだ。まわりが見えないほど熱くなってすべてを賭けるってほどじゃない。いや本当におもしろいんだよ。オススメ。

 腹が減ってしまった。空きっ腹でコーヒーばっかり飲んでいるもんだから、パンパンに張っている。せり出している。やめてくれ。まるでおれがデブみたいじゃないか。まだデブって言われるほどじゃない……と思う。でも腹はつまめるようになった。やれやれだ。ここで食い止めておかんと。目つきの悪い童顔の長髪デブ中年なんて最悪だ。でももう鍛えるとかはしたくない。筋肉は麻薬だ。ギラギラした目で自分の身体に夢中になっちまう。それってなんだかちょっとキモいよ。かと言って緩みきったデブになるのもやっぱりごめんだから、あまり食わないでいると逆に腹が膨れてくるのだから、参ってしまう。走るくらいはしてもいいかもしれない。走るのは別に嫌いじゃない。決して好きというわけでもないが……。

 もうこんなだ。文章作成筋肉がだれきっている。どうしても気合いが入らん。こんな日だってあるよ。こんな日ばっかりだと、おれはもう文章を書くのはやめたくなると思うが、日をまたげばまた違う風が吹くってもんだ。いつだってそうだった。行ったり来たりの繰り返しで文章は書き進んでゆくんだ。

 今日はたまたま。そういうことにしておこう。誰も困りゃしないよ。

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