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狂気のスウィーニー

 バナナがあっても、ズボンを履いても、はにゃ? 最近はそんな感じだ。こうしてなにかを書こうとしても、はにゃ? というわけだ。こんなことは珍しくもなんともないが、それでもこの抜けの悪さは如何ともしがたい。払拭したい。駆逐したい。膠着した精神を打擲して、声なき声に忖度する倒錯しきったおれ自身への破壊工作。サボタージュだ。おれの人生はサボタージュなんだ。おれはそういう戦い方しか知らないんだ。たとえ人から怠け者だと後ろ指をさされようとも、これしか方法を知らないのだから仕方ないだろう。舐めた態度をとってくるやつは木靴でケツを蹴り上げてやる! ったく。おれはご機嫌ななめだぜ。くだらない。つまらない。付き合っていられない。そんなことばかりだ。イライラするぜ、楽しいことなんぞありゃしない。

 外ではシジュウカラが、ツピツピジュジュジュと楽しそうだ。鳴き声の感じから推測するに、少なくとも三羽はいますね。おれの友だちは野鳥だけだよ。おれはグレン・ボルケンの峡谷の川べりで水を飲み、オランダ芥子をついばみ、巨木イチイの葉陰でまどろんでいたいよ。ハシバミの実、りんごにスグリ、木苺、山査子の実も、またよきかな。


 それでも今のところのおれに不満はなにもなかった。そうだ。砦に籠もっている限りはなにも不満などはない。ただ問題なのは、この砦が陥落寸前だということだった。もとより難攻不落の鉄壁の砦というわけではない。雨漏りや隙間風が肌に沁みる安普請のボロ砦だ。それでも落とされずにここまで持ちこたえていたのは、ひとえにおれの強靱な精神力のなせる業。投石、火攻め、水攻め、兵糧攻めも、なんのそので耐えてきた。ぎりぎりではあるが、余裕をもって踏みとどまってきた。籠城、サイコー。そう叫んで豪快に笑っていた。

 しかし……なぜだか知らんが、おれはいささか疲れた。なんちゅうか、もうどうでもいいや、っちゅう感じだ。

 さっさと降ってしまおうか。命までは奪われまい。仮に奪われたとしたって、それがなんだというのだ。いっそひと思いにやっちまってほしいくらいだ。おれを奈落の底へと突き落としてくれたっていいんだ。亡者どもとそのまま仲良く泥濘の中で暮らすさ。それくらいはお手のものなんだ。負の順応性はバツグン。セレブ気取ってどす黒い歯茎に陶器みたいな歯を並べて邪悪な笑みを浮かべているよりは、ガタガタの歯の隙間から絶え間なく煙を吐き出していた方がよっぽど性に合っている。

 クソっていうのは英語でShitだろう。おれたちがクソッ! って言う状況では連中だって、Shit! そう言うわけだ。なにが言いたいのかというと、すべてはクソってことなんだ。グローバルにクソだってことなんだよ。共通認識でクソなんだよ。世界はクソでリンクしている。いつだってクソはユニバーサルな感覚として普遍的にあって、おれだけがその病に骨の髄まで冒されちまっているわけではないということだ。みんなクソだ。あとは自覚があるかないかだ。自覚のないクソが悪いってことじゃないし、自覚のあるクソが良いってことでもない。同等にクソだ。だからもう、仲良くしようぜ。おれたちゃ人間、クソたちの悪い害獣なんだからさ。


 毎週末、ショボくれた連中がどこかから来襲してきやがる。クルド人は日本から出ていけえ~って。おまえらはとっとと地球から出て行けよ。大気圏で燃え尽きていろよ。どうしておまえらはそんなにダサいんだ。髪型、ファッション、表情、姿勢、体型、すべてがだらしない。いつだって醜い笑顔を顔に貼り付けて、だらだら歩いて、か細い声を上げて、みっともないったらありゃしないんだよ。パトリオットがこの体たらくって、日本は大丈夫なのか? 大丈夫なわけがない。大概終わっちまってるよ。クルド人とおまえら、どっちが周辺住民に迷惑を掛けていると思っているんだ?

 もはや蕨と川口はクソ野郎どもの観光地だ。断りなくカメラを向けて、咎められりゃ恫喝されたって騒ぎ出す。転び公妨も真っ青なマッチポンプだ。こいつらはいったいなんなんだ。どこまで人間性をクソ塗れにできるのかって競争でもやっているのか? 動機を教えてくれ。なにかあるんだろう? 理由が。目立ちたいとか、ヒーローになりたいとか、そんな感じの理由が。

 そりゃまあ、一億人以上の人間が住んでいるんだ。クソ野郎だってそれなりの割合でいるだろうさ。でもそういうやつらがまとまって可視化されるのは、かなりキツいものがある。精神にくるんだよ。そこらのホラーよりもよっぽど怖いし、なにより気味が悪いぜ。なにかのボタンの掛け違いで、おれもこんな風になっていたのかもしれないって考えると、心底生きているのが嫌になる。生き続ける自信がなくなっちまう。それでも必死に耐えて生きている人たちもいる。おれはもうわけがわからなくなってしまう。不条理すぎる。この、ユニバーサル・クソ・ワールドにはこの手の話がゴロゴロしている。これ以上に胸クソ悪い話にだって事欠かない。マジでなんなの?


 おれの狼狽など風にすらならない。なにも関係なしに列車はダイヤ通りに運行する。労働者たちは出勤時間になんとしても間に合ってやろうと早めに家を出る。ムクドリが電線に連なっている。自殺者は自分を殺す。若者は大人を殊更に嫌い、大人は若者を恐れて機嫌を取ろうとする。そしてまた繰り返す。地獄のルーティーン。ムクドリは関係ないけどね。

 やっぱりあれだな。おれは小説なんて書いている場合ではない。もう憎しみですよ。憎しみだけが人生ですよ。どうしてこんなに憎たらしい連中が存在するのか? そんなことをぼくと一緒に考えてみませんか。嫌ですか。そうですか。それもいいでしょう。だって生きるだけで精一杯だもんな。おれのように暇を持て余しているやつなんてそうそういない。みんな忙しそうだもの。社会を維持しようとすると、そんなにみんな忙しくしないといけないのかね。おれにはどうもそうは思えないのだが。労働を作るための労働みたいなものが多すぎると思うのですが。そのあたりどうなんでしょうね。マイナンバーカードと保険証の統合とかも人々の苦労を増やしているだけじゃないですか。普通にクソだと思うんですけどね。おれなんてマイナンバーカード作ってないからね。だって面倒くさいんだもん。役所に行って手続きするのでしょう? 書類とか書くのでしょう? ヤダヤダ、勘弁してほしいよ。役所、まあまあ近所にあるんだけどね。歩きで五分くらい。でもそういう問題じゃないんですよ。手続きが大嫌いなんですよ。本当に嫌なんだ。それに役所って高確率でキチガイみたいなのがいるじゃないですか。ギャーギャー喚いているやつが。ああいうの見ると心が傷つくんですよ。でもよくよく聞いてみると、役所側が普通に悪かったりする場合も多いから、おれなんかはマジでもうよくわからなくなってしまうのでした。


 このユニバーサル・クソ・ワールドには、リブートもリランチも存在しないのであった。神も仏もおそらく居ないし、いたとしてもとっくに感心をなくしていると思われる。そんなことは関係なしに、ただただ一本の長~いクソが途切れずにひり出され続けている。

 おれはもう、グレン・ボルケンの峡谷の川べりで水を飲み、オランダ芥子をついばみ、巨木イチイの葉陰でまどろんでいたいよ。厭わしいのは人の世の空疎なる饒舌。麗しいのは耳に心地よい野鳥のさえずり。煩わしいのはクソなる存在、おまえらなんだよバカヤロウ。

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