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ヴァンパイアとパンダ  作者: 怪獣大熊猫
ドワーフの国ニザヴェリル
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エルのお手軽朝ごはん

 空を飛ぶ練習を切り上げて地上へ降りると、エルが荷物を抱えて歩いてくるのが見えた。着替えを取りに行ったので、フィオに借りた服からいつもの服装に戻っている。両手に大きな荷物を持っているが軽々と歩いているな。特に強化魔法等を使っている様子もないし、ドワーフは見た目以上にパワーがあるようだ。

「おかえりエル。これからホームに向かうところ?」

「うん、そうだよ。マキとミカも外出してたんだね。」

「昨日の続きで空を飛ぶ練習をしてたんだ。結構飛べるようになったよ。」

 かなり魔力の制御ができるようになったので、静かにふわりと浮いて見せる。

「もう飛べるようになったの?昨日は浮き上がるので精一杯だったのに、上達が早いね。」

「夢の中でも練習してたからね。」

「夢の中で?そんなことができるの?」

「うん。ミカが私の夢に入って教えてくれたんだ。」

「賢者の話は聞いていたけど、ミカは本当になんでもできるんだね。」

「まあ大体の事は魔法でできるよ。魔法は全能じゃないけど万能だからね。」

「あれ?でもユグドラシルの植物を操る力は使えないって言ってたよね?」

「あの能力自体は使えないけど、魔法で疑似的に植物を動かしたり、魔法生物として植物を改造して動かすことはできるよ。あとはマキが持っているユグドラシルの杖みたいに、ユグドラシルの枝を材料に使えば魔道具も作成できるし、方法は違うけど結果は同じ事ができるって感じだね。大体の事は魔法で代替できるなんてね。」

「なるほど。潜水艦を使う代わりに、バリアで深海に潜る事ができるのと同じようなものか。魔法すごいな。」


「立ち話もなんだし、ホームに戻りながら話そう。私も荷物を一つ持つから貸してエル。」

「うん、ありがとう。」

 エルから本が入った手提げ袋を預かり首にかけて運ぶ。四足歩行だと荷物が地面についてしまうので空を飛んで行こう。パンダの体は人と比べて不便も多いけど、空を飛べると少しは解消されそうだ。


「昨日はクエスト中だったから聞きそびれたけど、マキの持っているユグドラシルの杖はどうやって手に入れたの?」

「これはユグドラシルの試練を突破した記念に貰ったものだよ。」

「え?ユグドラシルに会ったことがあるの?」

「うん、ユグドラシルはミカの知り合いだからね。旅行に出かける前に挨拶しに行ったんだ。」

「マキが今持っている本にも登場するんだけど、実在するんだねユグドラシル。私も会ってみたいな。」

「そのうちまた会いに行くって約束したし、エルも一緒に行けば会えるよ。」

「ユグドラシルに会ったら、ソールの伝説の事とかいろいろ聞いてみたいな。」

「ユグドラシルは結構忘れっぽいというか、周りの事をそんなに気にしていないから覚えていないって言われちゃうかもね。私たちが会ったときも、フィオが伝説の事を聞こうとしたらそんな感じだったし。」

「そうなの?ユグドラシルは物語でかなり重要な役割を果たしていたし、ソールに深く関わっているはずなのに。」

「あいつは気に入った相手にしか力を貸さない性格だし、ソールの事なら覚えているかもな。」

「そういえばミカもソールを知っているんだよね?」

「私はユグドラシルとソールが一緒に居るところを見たくらいで、直接は関わっていないから細かいことは知らないぞ。」

「そっかー。やっぱりユグドラシルに聞いてみるしかないね。」


 話をしているうちにホームへと戻って来た。玄関の鍵を開けて荷物を運びこみ、一息ついてから話を続ける。

「ところでユグドラシルの枝と言えば。昨日話に少し出てきたたグングニルの素材にできるよ。」

「たしかオーディンの武器だね。製造方法は伝わっているって話だったけど、グングニルも作る事ができるの?」

「その本の中ではオーディンの事はヴォーダンって呼ばれているけど、たぶん同じ存在なのかな。それで、グングニルもミョルニルと同じで必要な材料が特殊だからすぐには作れないんだ。でも材料さえ集めれば作ることができるよ。ユグドラシルの枝の入手方法がなかったから、実績はないけどね。」

「へー、それならアカネの忍具に使う魔法鉱石探しとは別に、ミョルニルとグングニルの素材集めもしたいね。」

「鉱山とかで見つけたら私が集めておくよ。同じ材料でも純度や硬度で使えるかどうかが変わるから、ドワーフじゃないと目利きできないしね。」

「うん、よろしく。」


「そろそろ朝食の準備をしてくるね。」

「私も手伝うぞ。」

「それなら私も手伝おうかな?」

「そう?簡単レシピだし手伝って貰うほどの物でもないんだけど、せっかくだからお願いしようかな。」

「どんな料理か気になるし任せてー。」

 3人そろってキッチンへと移動して、買ってきた食材を広げ内容を確認する。エルが買ってきたのはレモンやリンゴ、バナナなどのいろんなフルーツ。コーンフレークやドライフルーツ、オーツやナッツが混合されたシリアル。そして1リットルくらいのヨーグルトと1瓶の蜂蜜だった。

「このシリアルはミューズリーって言うんだけど、ヨーグルトや牛乳をかけるだけで食べられる健康食品だよ。主に女性のドワーフに人気なんだけど、栄養たっぷりで簡単に作れて食べるのに時間もかからないから、冒険者にも人気みたいだね。」

「蜂蜜とフルーツはどうするの?」

「ヨーグルトを掛けるだけでも食べられるから、男性のドワーフ達はそのまま食べちゃうけど、それだとあまりにも味気無いからね。味を調えるために蜂蜜とおろしリンゴ、それとレモン汁をヨーグルトに混ぜて、カットフルーツも添えるのがオススメの食べ方だよ。」

「なるほど、生のフルーツで酵素的な物が補給できそうだし、栄養バランス的にも大正解ですよ。」

「私はフルーツのカットをするから、二人にはおろしリンゴとレモン絞りをお願いしようかな。」

「なら私はレモン絞りをするぞ。」

「おっけー私はおろしリンゴの準備だね。」


 3人それぞれに食材を持ち出し、調理を始める。ミカはレモンの皮を剥ぎ取り、素手でレモンを絞ってコップに注ぎ、あっという間にレモン汁を作った。私はおろし器を使ってリンゴをショリショリとおろしていく。エルはズボンのポケットから小さな果物ナイフを取り出して、フルーツをカットし始めた。私はリンゴをおろしながらエルの様子を見に行く。

「かなり年季の入ったナイフだね。」

「このナイフは私が鍛冶を習って初めて打った物だからね。あまり出来は良くないけど、愛着があるからずっと使っているんだ。」

「エルの処女作なのか。見た目はたしかに粗削りな感じだけど、切れ味はいいみたいだね。」

「何度か研ぎなおしているからね。むしろ新品の時より切れ味は上がっているよ。」

「エルの技術と一緒に成長したナイフなんだね。」

「うん。」

 何も口には出さなかったが、エルは嬉しそうな笑顔を見せた。特別な材料を使わなくとも、愛着を持って大切に使えば、道具は応えてくれるんだな。道具にも心が宿るとエルは言っていたけど、本当にそうなのかもしれない。


 エルが簡単朝ごはんと言っていた通り、調理はすぐに終わった。

「食べる直前に混ぜた方がいいから、ここまでで調理は終わりだよ。」

「本当に簡単だね。この国では珍しく肉を使わないんだね。」

「肉ばかり食べ過ぎるドワーフの健康のために作られた料理だからね。朝はヘルシーに、夜はしっかり食べるって感じだよ。」

「健康に気を遣ってもやっぱり夜は肉を食べるんだね。」

「健康にはバランスが大事だよマキ。肉だけ無くすとか炭水化物を取らないとか、極端な食事はむしろ体を壊すからね。」

「私は食べる必要がないんだけど、結局バランスのいい食事が一番美味しいよね。」

「そうだな。同じものばかりだと飽きるしな。」

「2人が帰ってくる前に食卓の用意もしちゃおう。」

「おっけー。」

 その後、食卓を拭いて人数分のボール型の皿を用意して、先ほど用意したカットフルーツ、シリアルを盛りつける。ヨーグルトとレモン汁とおろしリンゴをテーブル中央に配置して朝食の準備は完了した。

「ヨーグルトと味付けは好みに合わせて調節したほうがいいから、混ぜないでおくよ。」


 2人が帰ってくるまで少し時間が有るので、エルの持ってきた本を読みながら待つことにした。

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