吸血鬼のあれこれ
吸血鬼騒ぎが解決してニザヴェリルの街は平穏を取り戻した。ギルド前の広場が爆発炎上したが、地面が抉れた程度だったのでミカが魔法であっという間に直してしまった。急な襲撃で驚いたが街への被害は軽微だったようで何よりだ。アトラが魔法を使わずに剣だけで戦ったのは、街への影響も考慮していたのかもしれない。
緊急事態でクエスト依頼のない事件だったが、吸血鬼を討伐したアトラには報酬300万クローネが与えられた。報酬額が危険度に見合っているのかよくわからないが、一瞬で十数人の冒険者を殺してしまう怪物だったし弱くはなかったはずだ。アルゴノーツも一般人4人の救助で4千クローネの報酬を得た。死んでしまった冒険者達をミカが復活させたが、冒険者間の助け合いに報酬は発生しないようだ。生き返った冒険者達はミカにお礼をしたがっていたが、ミカが断ったのですぐに退きさがった。
フィオとアカネは受付のフラウのところで報酬の受け取り手続きをしてもらっている。ついでにオススメの食事処も聞いてくると言っていた。
吸血鬼に殺された人達が吸血鬼のミカに助けられたというややこしい事態だが、誰もミカを怖がったりはしていないな。ミカとさっきの吸血鬼の関係を確認しておくか。
「さっきの吸血鬼の男は何者なの?ミカとは関係あるの?」
「あれと私は直接の関係はないぞ。吸血鬼という概念自体は私がモデルになっているみたいだけどな。」
「ミカは吸血しないし、むしろあっちが本当の吸血鬼って感じだよね。」
「人の神が私の悪評を流したって話はしたよね?最初はただのよくない噂程度だったようだけど、人々に語り継がれるうちに変質して、私とはかけ離れた吸血鬼が伝承や伝説になってしまったみたいだな。」
「でもそれって創作だよね?さっきの吸血鬼は実在していたよ。」
「作り話だろうが嘘だろうが、多くの人が信じる概念は形になって産まれる事があるぞ。例えばヴァルハラも多くの人の願いや希望から産み出された物の一つだな。」
「なるほど?よくわかんないけど、あの吸血鬼は結局何なの?」
「あいつらがどうやって産まれるのかは知らないけど、創作の吸血鬼と同じ能力や弱点を持っていて、破壊衝動が強くて社会性が皆無な奴ばかりなのはわかっているぞ。どの種族とも共生できず暴れまわるだけの存在だから災害みたいなものかな。滅多に出現しないしここ数百年は噂も聞かなかったけど、どこかに隠れていたのか新たに生まれたのか・・・。」
「伝承と同じってことはやっぱり噛まれた人も吸血鬼になっちゃうの?」
「噛まれて吸血鬼になるのは人間だけみたいだな。なぜかはわからないけど他の種族には影響がないぞ。」
感染しない吸血鬼ってだけで一気に脅威度が下がる気がするな。強いだけの怪物ならこの世界にはいっぱい居そうだし。
ミカと話をしているところにアトラがやってきた。装備を外して普段着に着替えてきたようだ。アトラの服装は全身白で、ギリシャ神話の女神のような格好だ。ノースリーブで太ももが見えているがセクシーな感じではないな。おっぱいがないからかな?
「何か失礼なことを考えている気がするな。」
「なぜバレたし。」
「まあいいや。さっきの吸血鬼の話をしていたんだろう?」
「アトラは吸血鬼を知っていたのか?」
「ああ、何度か倒した事があるからね。最初に冒険者達を瞬殺したから強い奴だと思ったのに、全然大したことなかったね。あれならアルゴノーツに任せてもよかったかな。」
「言われてみれば最初の攻撃だけ何をしたのかすら、私には見えなかったですね。」
「最初の攻撃をした仲間が居たのかもね。私はギルドの中に居たから見ていなかったけど。」
「仲間が居たとしても私やアトラの存在に気付いただろうから逃げただろうな。アトラが倒した吸血鬼も形勢不利と見るやいなや逃げようとしたしな。」
「騒ぎを起こしたら分かるだろうし、探す当てもないし今は見逃していいかな。私はまた温泉に入るからこれで失礼するね。ばいばーい。」
そう言ってアトラはギルドから出て行った。わざわざ着替えてるってことは一度宿に戻ったんだろうに、何をしにギルドに来たんだろう?
「冒険者達を生き返らせるときに、吸血鬼が関わることだから今回は助けるって言ってたけど、あれってどういう意味なの?」
「私がモデルになっているせいで力を持ってる節もあるし、吸血鬼が起こす事象に関しては私が一定の責任を取る事にしているんだ。私が気づいた範囲だけの話だけどな。」
ミカは別に悪くない気もするけど止める理由はないな。
「そういえばミカはどうして吸血鬼って名乗ってるの?話を聞く限りだと別物だよね?」
「私はヴァンパイアとは名乗っているが、吸血鬼と名乗ってはいないぞ。これには海よりも深く山よりも高い理由があるけど内緒だ。」
「あっはい。」
創作の存在であっても実際に現れるって言うのは危険な感じがするな。ヴァルハラのようにポジティブな存在ならいいけれど、怪獣や宇宙人・UMAなんかも現れるのかな?どんなに危険な存在でも私はどうせ死なないし会ってみたい気もするな。そう考えるとそこまで危機感持たなくてもいいか。
話がひと段落したところでアカネとフィオが戻ってきた。
「おいしいお店を聞いてきたでござるよ。早速行くでござる。」
「吸血鬼騒ぎで少し遅くなってしまったが、ドワーフ達は夜遅くまで飲み歩くから、レストランも遅くまで営業しているとのことだから大丈夫だ。この国の伝統的な料理を出してくれる店という事だぞ。」
「せっかくの旅行だから現地の味を知りたいよね。行こう行こう。」
一行はフラウに紹介してもらったレストランへと向かうことにした。




