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ヴァンパイアとパンダ  作者: 怪獣大熊猫
ドワーフの国ニザヴェリル
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緊急クエスト―悪い吸血鬼―

 受注可能なクエスト情報を確認しようと端末の操作をしていると、カウンター付近にたたずむアトラを視界の端に捉えた。銀色の甲冑に青いスカーフ、腰の両脇には鞘に納められた長大な剣を1本ずつ計2本装備している。剣も甲冑も他の冒険者とは一風変わった意匠が施されており、ニザヴェリルで作られたものではなさそうだ。それはともかくあんな長い剣どうやって抜くんだろう?見たところフル装備でこれから戦闘にでも向かうような雰囲気だが、街に被害が及ぶような緊急クエストでもないと受けないと言っていたはずなのに妙だな。


「何か来るな。」

 ミカが呟くと同時に、ギルドの外から悲鳴と爆発音が響いてきた。

「どうやら街が襲撃されたようだな。外に巨大な魔力が現れたぞ。」

「一大事でござるな。現場に急行でござるよ。」

 私たち4人はすぐさまギルドの外に飛び出し状況を確認する。ギルド前の広場には炎が上がり、倒れている一般人が何人もいる。とりあえず救助しなくては。アカネが倒れている一般人を退避させフィオが回復魔法をかける。意識を失っているが爆発の衝撃で気を失っただけで大怪我はしていない様だ。


 爆発の中心と思しき場所には黒衣に身を包み、蝙蝠のような翼を生やした男が立っていた。顔面は蒼白で不気味な笑みを湛えた口元には鋭い牙を覗かせている。まるで伝説通りの吸血鬼のような風貌だ。私たちとほぼ同時にギルドから飛び出してきた冒険者たち十数人に囲まれているが、黒衣の男が動じる様子はない。

「何者だ貴様!何が目的だ!?」

 冒険者の一人が定型的な文句を叫ぶが黒衣の男は意に介していない様子だ。


 しばしの沈黙を破り、黒衣の男は翼を広げながら冒険者たちに右手を向けた。

「血を寄越せ。」

 男の一言とともに冒険者十数人の首が飛び、血の雨が男に降り注ぐ。まさに全身に浴びるようにして血を吸収し、同時に男の魔力がより強大に変化していく。おそらく人間だった頃の私なら気を失うような恐ろしい光景なのだが、不老不死になった影響か恐怖心が薄くなっているようだ。不当な暴力によって命が奪われたことに怒りを感じはするが、同時に疑問を感じる。あの男にとってこの行為がただの食事だとしたら、私たちが他の動物を殺して食べる事と何が違うのだろうか?パンダになったせいで精神構造が変化したのか、あるいは元々私が人でなしなのかは分からないがそんな思いが頭をよぎった。

 そんな私を他所に、義憤に燃えるアカネとフィオは今にも男に飛び掛かろうとしていた。しかしギルドから出てきたアトラに制止され踏みとどまった。


 アトラは男の前に立ち腰の剣を抜いた。力を加えると鞘が開く仕組みになっているようで剣を抜いたというよりは鞘が開いたのだが、ともあれアトラの身の丈に合わないほど長大な双剣は抜き放たれた。薄く光を放っている刀身には何か文字が書かれているようだが角度的によく見えないな。

「魔物の領域であればまだしも、人里での故意の殺人なら言い逃れはできないぞ。大人しく罰を受けるがいい。」

「人風情が吸血鬼たるこの私に指図するつもりか?」

「指図なんかじゃないさ、これは宣告だ。お前はここで殺す。」

「やれるものならやってみるがいい。」

 吸血鬼と名乗った黒衣の男は翼を広げて飛び上がった。アトラの実力を感じ取ったのか警戒しているようで、なかなか攻撃しないな。膠着状態を見ていても仕方ないし死んでしまった冒険者たちを何とかしよう。


「フィオの復活魔法であの冒険者達を生き返らせることはできるの?」

「そうだな、今はそちらが優先だ。復活は可能ではあるがあの人数だと時間がかかりすぎる。あまり時間をかけると魂が現世から離れてしまい、そうなってはもはや蘇生不可能だ。」

「復活には時間制限があるのか。リユニオンを使えば全員まとめて復活なんてことできないかな?」

「彼らとは信頼し合った仲間ではないし、そもそも意識のない相手では発動できないから無理だな。半分くらいは切り捨てることになってしまうが、悩んでいる時間もないし端から復活させていくか?」

 珍しくフィオが焦っているな。私は魔法が使えないし何か打開策はないものか。


「今回は私が全員まとめて復活させてあげるよ。そもそも最初から私があれの相手をすれば誰も死ななかったわけだしな。」

 ミカが首を落とされた冒険者達に近づき、魔法を発動した。

「大復活魔法グレートリヴァース。」

 膨大な魔力が冒険者達を包み込み巨大な卵のような形で固まった。しばらくすると卵を破って生き返った冒険者たちが出てきた。首も繋がり、出血した分の血も戻ったようで、まるで生まれ変わったかのように完全復活している。

「吸血鬼の出現は特殊だから別だけど、いつでも私が助けるなんて思うなよ。何でもかんでも復活させていたら世界が崩壊してしまうからな。」


 アトラと黒衣の男はいまだ膠着状態を続けていたが、ミカの魔法を見た男は動揺して余所見をした。

「なんだあの膨大な魔力量は・・・。」

 その隙を見逃さずアトラは飛び上がり男に斬りかかった。男の翼は2枚とも両断され、地面に蹴り落された。

「ちっ油断したわ。しかし翼を持たぬものが安易に飛び上がったのは悪手だったな。空中なら身動きがとれまい。死ね!」

 男は両腕から無数の血の刃をアトラに向けて放った。しかしアトラはこれをすべて双剣で迎撃した。剣に触れた血は弾かれることなく消し飛んでいるが、魔力を纏って光っているし特殊な剣なのだろう。先ほど両断された翼も消滅している。

「人にしてはなかなかやるじゃないか。ならば私の本気を見せてやろう。大魔法メテオスォーム!」

 男から魔力が立ち昇り、天高くから5個の隕石が落ちてきた。ユグドラシルとの戦いでミカが召喚した隕石に比べれば小石のように感じるが、これでも街が壊滅してしまう程度の威力はあるだろう。

「本気でこの程度か。」

 アトラは隕石群に向けて左手の剣を一振りすると、剣に纏わせていた魔力が真空刃のように飛んで隕石群をすべて空の彼方へと吹き飛ばした。


「想像以上に弱いなお前。次の一太刀で終わらせるが、名前くらい聞いておこうか?」

「クソ!化け物め!」

 男は追い詰められたのか斬られた翼を再生して逃げようとしている。しかしアトラは背中から魔力を放出して落下方向を変えつつ加速、再生したばかりの男の翼を再び斬り落とした。

「悪あがきするから最後の一太刀じゃなくなったじゃないか。予告を破ってくれたお礼に千の斬撃を以って消滅させてやろう。」

 アトラが右手の剣を一振りすると男は魔力の痕跡すら残さず完全に消滅した。私には一振りにしか見えなかったが、今ので千回斬ったのだろうか?


 戦いを終えたアトラは剣を鞘に納めて戻ってきた。結局あの男は何だったんだろう。ミカ以外に吸血鬼は居ないと以前は言っていたが、さっきの男は偽物なのだろうか?

「相手も相当な怪物だったと思うのでござるが、アトラ殿は恐ろしく強いでござるな―。」

「魔法は一切使っていなかったようだが使えないのか?」

「使う必要がなかったから使っていないだけだよ。」

「手加減してあれでござるか。」


「そういえばアトラさんは襲撃が発生する前に装備を整えていたけれど、さっきの襲撃が起きることを知っていたんですか?」

「マキは見かけによらず鋭いね。私は占いが得意なんだよ。正確に何が起こるかわかるわけじゃないけれど、今夜何かよくないことが起こるって占いが出たから準備していたのさ。」

「それじゃあ襲撃が発生した時私たちや他の冒険者より遅れて出てきたのはなぜですか?」

「なかなか細かいところを突くね。あの時点では敵の脅威度がまだ分からなかったからだよ。君たちや他の冒険者が対処できる問題なら私が手を出すつもりはなかったしね。私が静観していたせいで犠牲が出てしまったけれどミカがなんとかしたから結果オーライでしょう。誰も死ななくてよかったよかった。」

 なんか引っかかるけれど筋は通っているな。アトラが私たちに嘘をつく理由もないしただの杞憂だったかな?


 アトラとミカの活躍で偽吸血鬼襲撃事件は犠牲者を出すこともなく早期に解決した。アトラの実力は本物で、今の私たちでは手加減してもらっても話にならないレベルのようだ。私からすればアカネもアトラも見えない速さで動くのは同じことなのだが、さすがは冒険者ランキング1位と言った所か。アカネは超えるべき目標がどんどん増えていくな。偽吸血鬼の話もミカなら何か知っているだろうし後で聞いてみよう。

 何はともあれ死人が出なくてよかった。結果的にミカの正体がばれてしまったので、目撃者や生き返った冒険者への説明に少々時間を要したが命には代えられないな。

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