森林浴とサバイバル
ユグドラシルに会うためにミッドガルドを出発し西の森にやってきた。王都の近くはエルフ達が手を入れているのだろう、藪が切り拓かれて歩きやすい道ができている。
「昨日も来たけどなんかきれいな森だね。」
「王都の近傍は獣が住み着かないように定期的に見回ってるからねー。昨日の猪騒ぎはちょっとしたイレギュラーだねー。もっと奥に行けば手の加えられていない鬱蒼とした森になるよー。」
「この辺にはたくさん果物がなっているね。食べられる実はどれかな?」
「このあたりは食べられる果樹ばかり植えられているからだいたい食べられるよー。」
「誰かが植えたものなの?勝手に食べてもいいのかな?」
「別に誰かの所有物ってわけではないから、個人が食べる分くらいは自由にとって大丈夫だよー。一応ミッドガルドの国有みたいな扱いになってるから、他国の商人には森の生産物を集めて売るみたいなことは控えてもらってるけどねー。」
「それじゃあ一つ食べてみようかな。」
私は木に登り洋梨のような果物を一つ取ってみる。木登りは簡単にできたが、果物を持って片手で木がら降りようとしたら途中で落ちてしまった。パンダは木登りは得意だが木から降りるのはそれほど得意ではないようだ。
「大丈夫かマキ?」
「びっくりしたけど平気だよ。」
「拙者達も一ついただくでござるか。」
アカネとフィオは身軽にジャンプして、ミカは空を飛んでそれぞれ一つずつ果物を取った。わかっていたけどみんな動物の私より身体能力が高いな。
「この実はなんていうの?」
「それはデュコミスだねー。」
「へー。知らない果物だけど香りもいいし甘くておいしいね。」
「和の国の梨とは違ってシャリシャリしてないでござるな。」
「梨は普通にあるんだね。」
「あちらの世界の植物や動物とよく似たものはこの魔法の世界にも結構あるぞ。まぁ細部が異なったりはするんだが。人間は二つの世界でまったく同じ姿のようだな。」
「人間は何か特別なのかな?」
「詳しいことはわからんが、他の種族とは少し異質なのは確かだな。」
一行は食べられるキノコや山菜を採取しながら森の奥へと進んでいく。森が少し険しくなってきたところでウサギのような生き物がいるのが見えた。まだこちらには気づいていないようだ。
「あれは食べられるが、どうする?捕まえるか?」
「タンパク質は大事だよね。」
「よし、拙者に任せるでござるよ。」
アカネは素早くウサギに近づき素手で捕獲した。野生動物をやすやすと捕まえる身体能力があるなら、無一文でのサバイバルの旅も簡単そうだな。捕まえたウサギは日本で見かけるサイズよりも大きく大型犬ほどもある。無口なのか話すことができないのかウサギは黙って捕まっている。
「せいっ!」
アカネが力を込めるとゴキっと音を立ててウサギの首が折れた。私から見るとかなりショッキングだがこの世界で旅をするには普通の事なのだろうか、他の2人は特に気にしていない様子だ。フィオは元軍隊所属だしそっちで経験があったのかもしれないな。
「そろそろ昼時だな。肉も手に入ったことだし昼食にしようか。吾輩が調理を受け持つぞ。」
「料理なら私もやるぞ。」
「それなら拙者は薪を集めてくるでござるよ。」
「私も薪拾いを手伝うよ。」
私とアカネで薪を集めている間に、ミカとフィオが食材をさばいている。風の魔法を使いあっという間にキノコと山菜がカットされ、薪を集め終えるころには既に下ごしらえが終わっていた。
集めた薪に火の魔法で着火し、水の魔法で水を出して鍋で沸かす。カットされたキノコや山菜を鍋に投入し、小さな木の実をすり潰したものを加えている。おそらく味付け用だろう。
ウサギは毛皮を剥いで内臓を取り出し丸焼きにしている。内臓はおいしくないので捨てるが、鳥や他の動物が食べるので問題ないらしい。
調理工程のほとんどが魔法で行われているので私はまったく手が出せないな。
「拙者は食器を用意するでござるよ。」
アカネは小刀を取り出し倒木からスープ用の皿と木のスプーンを人数分、それと盛り付け用のお玉を彫り出した。すごいスピードだけどこれも忍者の必須技能なんだろうか。
料理が完成したので盛り付けて食事にする。メニューはキノコと山菜のスープ、それとウサギの丸焼きだ。今までになくワイルドな料理だ。
(一同)「いただきます。」
「拙者一人でサバイバルするときはほとんど焼くだけでござるから、ちゃんと調理するのは新鮮でござるな。」
「この赤い木の実はトマトのような酸味と甘さがあるから覚えておくといいぞ。キノコは美味いが毒持ちも多いから気を付けた方が良いな。エルフに毒はほとんど効かないが。」
「ウサギは初めて食べたけど結構淡白だね。鳥っぽいけどちょっと硬いかな。」
「そのままでもいいがスープに付けても美味いぞ。」
談笑しながら食事しているとガサガサと茂みが揺れた。ウサギの内臓を捨てたあたりだが動物が食べに来たのだろうか。しばらく様子を見ていると茂みの奥から巨大猪が現れたが暴れる様子はない。アカネとフィオは動物とは話せないので私とミカで相手をすることにする。
「昨日の連中じゃないか。こんなところで何やってるんだ?」
「昨日のってことは暴れてた猪?そっちこそ何やってるの?森の奥に帰ったんじゃないの?」
「ああ、おかげさまで彼女とは仲直りできたんだがリンゴが食べたいと言い出してな。ちょっと取りに行こうかと思っているんだ。」
「王都の方に行ったらまた冒険者が撃退しに出てきちゃうんじゃないかな?」
「しかし森の奥にはリンゴの樹はないんだよなぁ。ちょっとくらい入ってもばれないだろ。」
「エルフの管理してる森は結界が張られているから、お前みたいなでかいやつが入ったらすぐにわかるぞ。」
「それじゃあ私たちで取ってきてあげようか?何個くらい欲しいの?」
「彼女と一緒に食べる分で100個くらい欲しいんだが。」
「勝手に持ち出すには100個はちょっと多いんじゃないかな。ミミル、王都の近くの森でリンゴ100個とっても大丈夫かな?」
「10個くらいならいいけど100個はちょっと厳しいかなー?」
「そっかー。やっぱりだめそうだね。」
「どうするかな、俺もエルフに退治されたくないしな。」
「ユグドラシルは樹になる果物なら大体なんでも好きなだけ出せるぞ。あいつは樹の王みたいなもんだからな。」
「そうなんだ。すごいなユグドラシル。それなら猪も一緒についてくる?」
「願ってもないぜ、リンゴが手に入るならついていくぞ。どこに行くんだ?」
「森のさらに奥の山のふもとの樹海だね。歩いていくから3日くらいかかる予定なんだけど大丈夫?」
「あの大樹林か。俺の住んでる森との間には最近壁ができて入れないんだが行けるのか?」
「壁?ユグドラシルが何かしてるのかもな。まぁ私が行けばなんとかなるだろ。」
「それならお前たち俺の背中に乗れ。3日も待たせたらまた彼女に振られちまうからな。俺の脚なら半日もあれば着くぜ。」
「おーすごいね。それじゃ乗せてもらおうか。」
アカネとフィオとミミルに事情を説明して昼食を足早に済ませる。そして焚き火の始末をしてからみんなで猪の背中に乗った。
「それじゃあ出発するぜ。しっかり掴まってろよ。」
「よろしくね。」
「動物と話せるのはなかなか便利でござるな。忍者は小さいころから育てた犬や蝦蟇なら言う事聞かせられるでござるが、さすがにそこらの野生動物は無理でござる。拙者もその能力覚えられないでござるか?」
「私は自力で覚えたわけじゃないから分かんないな。」
「私は生まれつきだ。」
「そんなー。」
巨大猪に乗せてもらえることになり、ユグドラシルのいる大樹林への行程は大幅に短縮された。思ったよりも早くユグドラシルと会えそうだ。行く手をさえぎる壁というのが気になるがミカが何とかしてくれるようだから任せよう。




