温泉の素
ヴァイキングを見送り夕食の片づけを済ませてからお風呂に入ることにした。研究施設でミカが作った温泉の素を試してみよう。手早く体を洗い浴槽の前に集まる。
「よし温泉の素を入れるぞ!」
「温泉なんて久しぶりでござるな。和の国にはたくさんの温泉があるでござるよ。」
「ミッドガルドにも天然泉はあるが数も多くないし特に開発はされていないな。」
「肌がきれいになるって言ってたけど何が入ってるの?」
「硫酸塩とか多肉植物エキスとかそんな感じだ。」
「なるほど、全然わからん。」
「それでは投入。」
温泉の素を入れるとお湯は無色透明のままだったが、硫黄泉特有のいいにおいが広がった。一見すると何も変わっていないが、よく見ると浴槽に使われている木材が新品同様に変化している。
「よし入ろう。」
「浴槽に膨大な魔力が渦巻いているのだが、どんな調合をしたのだ。」
「忍者の勘がなんかやばいと告げているでござるが、これ入っても大丈夫でござるか?」
「大丈夫大丈夫。」
ミカと私は先に湯船につかる。二人の体が一瞬光った気がするが特に問題はなさそうだ。
「平気そうでござるな。」
「我々も入るとするか。」
続いてアカネとフィオも湯船につかる。やはり二人の体が一瞬光った。
「むむむ、模擬戦でできた擦り傷がすっかり消えてるでござる。心なしか毛並みもよくなったでござるな。」
「吾輩は特に変化はないようだ。いい湯だな。」
「二人は体が少し縮んだみたいだねー。」
「ミミルも入ってたのか。うーん?別に変わってなさそうだけど。」
アカネは元々ミカと同じくらいの背丈だったので2人で並んで見比べてみる。ほんの少しだがアカネの身長が縮んでいるようだ。
「背が縮んだでござる!」
「これが本当の若返りの湯だねー。」
「温泉は実際に年齢が若返るわけではないから効能を増幅してもこうはならんと思うのだが、ミカの魔法の効果だろうか。」
「不思議だねー。」
「変な魔法はかけてないはずだし、しばらくすれば元に戻るんじゃないかな。」
「作った本人もよくわかってないのか。」
「お年寄りに人気が出そうな温泉だねー。」
お風呂から上がり1時間ほどたつと二人の身長は元に戻ったようだ。何も変化していないと思っていたが、私も毛並みがよくなったみたいだ。肉体に変化は起きないけれど、汚れを落としたり毛皮をコーティングするような温泉効果は発揮されているようだ。
お風呂から上がり一息ついてから、フィオがアカネに修行をつけるための打ち合わせを始めた。
「まずアカネの現在の能力について、吾輩なりに分析をしたので話しておこう。」
「はい師匠。」
「アカネは吾輩の魔法でも捉えられない速度と海を泳いで渡るスタミナもあるし、魔法障壁を破るだけの腕力も持っている。肉体的な強さは吾輩より遥かに上であろう。これに関しては吾輩が教えられることはないので、身体的な鍛錬は今まで通りで問題なかろう。」
「結構鍛えてるけど最近は伸び悩んでる感じでござるな―。」
「体を鍛えるにも限度があるだろうからな。魔法に関しては風や火、光を使う基本的なものと転移も使えるようだな。」
「拙者は魔力量が多くないので濫用はできないしあまり威力もないでござるよ。搦手や牽制用に使ってるでござるな。」
「ならばまずは魔力量を増やす鍛錬法を教えよう。反復練習が重要だから明日から毎朝やるぞ。」
「はい師匠。」
「次に戦闘技術に関してだが、吾輩は武器を使わないのでそちらは今回考慮しないぞ。エルフにとっては武器を振るうより魔法を放った方が強力なのでな。」
「フィオ殿は気軽に魔法を乱発していたでござるが、魔力切れにならないのでござるか?」
「エルフは元々魔力量が多いのだが日々の鍛錬でさらに増やしているからな。魔力は自然回復するがその回復量は元々の魔力の総量にほぼ比例する。魔力消費量が自然回復量を上回らない限り魔力切れは起こらないので、ある程度鍛えたエルフであれば基本的に魔力切れは起こさないのだ。長距離転移などで莫大な魔力を消費した場合は別だがな。」
「エルフの魔力切れを狙って戦っても勝機はないのでござるな―。」
「わかりやすいので便宜上合気と呼ぶことにするが、吾輩の合気も教えよう。アカネは身体能力が高いので極めれば吾輩よりも使いこなせるかもしれんな。他のエルフ達はあまり接近戦は好まないので教えるのはアカネが初めてだな。こちらも反復練習以外に覚える手段はないので毎朝練習するぞ。」
「了解でござるよ。よろしくお願いするでござる。」
これから毎朝修行するのか。アカネは毎日走り込みをしているみたいだから修行メニューが増える感じだろうか。大変そうだけど強くなるのは楽しそうだし少し羨ましいな。
「ミカは何か教えてあげないの?」
「私は生まれつき強いだけで何も鍛えてないからな。教えるのは下手だと思うぞ。」
「そういうものかな?」
「人間が熊の強さを真似しても強くなれないだろ?」
「うーんたしかに。でも魔法なら教えられるんじゃないの?」
「私は知らない魔法でも見ただけで使えるからな。練習の仕方は知らないぞ。」
「すごいなミカ。」
強すぎると教えるの下手になるのかな?優れた選手が優れた監督になれるとは限らない、みたいな感じだろうか。ともあれミカはアカネに何か教える気はないようだ。
打ち合わせが終わり夜も更けてきたので寝ることにした。昨日と同じくフィオとアカネ、私とミカに分かれてベッドに入った。
明日はミカの知り合いに会う予定だから少し緊張するな。別に私が何かするわけではないけれど、どんな人だろう。




