王都巡り その2
港エリアから隣接する商業エリアへとやってきた。他のエリアにはほとんどエルフしかいなかったが商業エリアには他国からの商人や冒険者などエルフ以外の種族もたくさんいる。しかし人間は見当たらないようだ。
「ここにはいろんな種族の人たちが居るけど人間って見かけないね。」
「そうかマキは転生したばかりだから知らないであろうな。この世界の人間は排他的で独自のコミュニティを形成しているので、基本的には人間の国に籠っているのだ。人間の国以外で見かけるとしたら転生者とその仲間くらいであろう。しかし転生者は主に魔王討伐を目的として活動しているようだから、他国に現れることはまずないな。」
「私のところにはたまに勝負を挑みに来る転生者がいるぞ。」
「ミカは人間たちの間では科学の世界と同様に、危険な怪物である吸血鬼として認知されているようだからな。正義感の強い、あるいは名声目当てかもしれんがそう言った転生者が挑んできたのであろう。吸血鬼は弱点が多い怪物だと思っているだろうしな。」
「和の国では吸血鬼はおとぎ話に出てくるくらいで、実在しているとは思っていなかったでござるよ。」
「国によってミカに対する認識に違いがあるみたいだね。」
「私はほとんど森に籠っていたからな。昔、和の国にも旅行に行ったことがあるけど、エルフと違って亜人たちはそれほど寿命が長くないし忘れられたのかもな。」
「昔ってどれくらい昔でござるか?」
「ほんの300年前くらいだぞ。」
「それくらいなら歴史書に載っているかもしれないでござるが。ミカ殿が和の国で考えられている吸血鬼と違いすぎて同じものと認識されなかったのかもしれないでござるな。」
「観光に行っただけで何かしたわけでもないしな。蝙蝠の亜人と思われたのかもな。」
考えてみれば私もミカが何なのかいまいちわかっていないが、どういう存在なのだろうか。賢者だとか女神と知り合いとか断片的な情報はあるのだが。わざわざ偽名を使っている事もあるし、あまり自分の事を話す気はないのかもしれない。それほど知りたいわけではないので、今は聞かないでおこう。
商業エリアの中ほどにある冒険者ギルド、その向かいにある銀行に立ち寄った。
「この世界の通貨クローネについては昼に話したが、実物も見せておこうと思ってな。紙幣と硬貨があるがどちらも一つ一つ識別子の魔法が付与されているため特定のエルフ以外に製造は不可能だ。同じ魔法でも個性が出るから製造担当以外の誰かが偽造すれば確実にわかるようになっている。エルフはそもそも貨幣を用いていなかったので、国際的に堅牢な統一貨幣を用いるという試みは偽造に悩まされていた諸外国からの要請であるな。」
「良貨が悪貨を駆逐したんだね。」
「そういうことになるな。共産主義思想が浸透すればそもそも貨幣など必要なくなるのだが、多様な思想を持つ他種族に無理強いすることはできないしこれはまた別の話だ。」
「フィオは主張は強いけど人に押し付けないというか、強制しようとはしないよね。」
「革命家たちによる共産主義の失敗で話したように、自ら気づいて学ぶ以外に共産主義者になる道はないのでな。共産主義とはあくまで自発的なものでなければならないのだ。まぁ、知らないものの良さに気づくことはできないから、吾輩は共産主義をサブリミナルのように主張するがな。」
あんまりやると怪しい宗教の勧誘みたいで逆効果な気がするけどね。主義主張が正しいかどうかは別として相手の気持ちに配慮するのは重要だよね。無理やりやらせるのはよくない。
「報酬を振り込むからあとで確認してくれってレオさんが言っていたな。ギルドカードで口座の残高が見られるのかな?」
「魔法が使えないと端末操作ができないので吾輩がやろう。」
フィオが端末にカードを掲げると空中にモニターが現れた。本人しか使えないという話だがどういう仕組みなんだろう?指紋認証みたいになっているのかな?
「口座には20万クローネがちゃんと振り込まれているな。冒険者は基本的に国籍が関係ない職業なのでどこの国に行っても税金はかからず報酬は満額受け取ることができるぞ。ギルドがあることで冒険者が旅行者として国を訪れたり、危険なクエストを依頼できたりと所属国にとっても恩恵が大きいので非課税でも問題ないのだ。ギルドのある街に居つく冒険者も居るから平時の防衛面でも有効であるしな。ちなみに報酬は加盟国による基金から支払われるのでギルドへの依頼はかなり格安で可能だ。一般人でも気軽に使えるのだが、簡単な依頼ならば自分でやったほうがいいくらいの価格設定であるな。」
「ギルドを通さないで個人から依頼を受けたり、自由に冒険している場合はどうなるの?」
「個人との取引は禁止されていないが問題が発生した場合は自己責任になるな。依頼なしに自由に冒険する場合でも、何かしらの成果があればギルドに報告書や成果物を提出することで査定してもらえるぞ。」
「フィオは冒険者について詳しいね。ミッドガルドではあまり必要なさそうな知識だけど。」
「両親に若いころの冒険の話を何度も聞かされたからな。自分でも調べたからいろいろ知っているのだ。」
フィオが冒険者になったのは父親の影響ではないと言っていたけど、やっぱり影響は受けているみたいだ。前世の記憶が鮮明にあってもちゃんとエルフのこどもとしての人格が形成されているんだな。こどもと言っても100歳越えてるけど。
「次はマキの旅行バッグを見繕いに行くか。吾輩もこのエリアの店舗には詳しくないので、どこで売っているかは分からないのだがどうするかな。」
「私が知ってるから案内するよー。知ってるというか図書館の地図に店舗情報があるんだけどねー。」
「ミミルって便利だね。」
「正しい地図情報があるのはミッドガルド領内くらいだからあまり過信しないでねー。」
ミミルに案内されてとある商店に入った。ドワーフが営む雑貨屋のようだ。
「お邪魔しまーす。」
「はい、いらっしゃい。エルフが来るなんて珍しいね。見たことない動物もいるし亜人に妖精まで、なんだか不思議な組み合わせだね。」
「拙者達は冒険者パーティなんでござるよ。」
「その話し方は和の国出身かい?あの国にも優れた鍛冶師がいるんだってね?」
「そうでござるなー。拙者の武器も和の国の鍛冶師が打ったものでござるよ。」
「見せてもらっていいかな?」
「いいでござるよー。」
「どれどれ・・・こいつはいい鋼を使っているね。鍛冶の技術も高いようだしいいものだね。だがかなり使い込まれて痛みも出ているな。そろそろ買い替えた方がよさそうだぞ。」
「手入れはちゃんとしてたつもりでござるが、海を泳いで渡ったのが悪かったでござるかね。」
「海を泳いで渡るとはすごいなあんた。しかしまあ普通の武器じゃそんな使い方してたら長持ちはしないだろうな。ドワーフ製なら話は違うんだが。」
「ドワーフの作る武器は何か違うんでござるか?」
「特殊な精錬技術と鍛冶方法を取っているからね、俺は革製品が専門なんで鍛冶にはそんなに詳しくはないんだが、ドワーフが作るものは壊れないって有名なんだよ。興味があるならドワーフの国ニザヴェリルに行ってみるといいよ。」
普通に話しているだけかと思ったらいつの間にか自国の宣伝に変わっている。さすが商人抜け目ないな。壊れない武器って言うのも気になるしドワーフの国にも行ってみたいな。
「武器の話は置いといて、今日は何を探しているんだい?」
「マキの旅行用バッグを探しているんだ。」
「マキってのはその熊っぽい動物かい?」
「パンダですよ。私も冒険者です。」
「しゃべるのかあんた。冒険者ってのは変わった奴が多いが、あんたはそれとは違う意味で一風変わってるな。」
しゃべるパンダにまともに驚いたのこの人が初めてな気がする。パンダがしゃべってても気にしない人は、私が思うより多いのかもしれない。
「それで旅行バッグだったか。あんたちょっと動き回ってみてくれるか?」
言われるがままに立ったり座ったり歩いたりしてみる。
「熊みたいに二足歩行と四足歩行を使い分けてるんだな。それと見た目のわりに手が器用みたいだな。となると自分で出し入れできる位置に装備できるバッグがいいだろうな。腰に巻くポーチタイプのバッグで、四足歩行時でも中身が落ちないようにファスナー式がオススメだな。サイズはどのくらい必要だい?」
「ギルドカードの収納ができて、あとは遠出の時にお弁当が入るくらいですかね。そんなピンポイントな商品あるんですか?」
「なければ作るのがドワーフ流だよ。ちょっと待ってな。」
―――20分後
「できたぞ試着してみてくれ。」
「忍者もびっくりの早業でござるな。」
早速装着してみることにする。革製のポーチにベルトがついていて、ベルトを腰に巻いて金属製のバックルをカチッとはめ込む形式だ。
「おー、すごいぴったりだ。採寸もしてないのに。」
「目検討って奴だね。」
多分本来の意味と違うと思うけどすごい精度だ。
「火牛の皮を丁寧になめして、雪蝦蟇の油で加脂してるから火にも水にも暑さにも寒さにも強いよ。バックルもファスナーもニザヴェリルの職人謹製品だから壊れない事請け合いさ。気に入ったかい?」
「着け心地もいいし気に入ったけど高そうですね。おいくらですか?」
「本来なら10万クローネってところだけどニザヴェリルに届け物をしてくれるなら半額でいいよ。」
「ミカの知り合いに会いに行く予定だから、ちょっとすぐには行けないですね。ニザヴェリルにも行ってみたいとは思いましたけど。」
「急ぎの用じゃないから別にすぐじゃなくてもいいよ。実は俺ニザヴェリルの観光部長をやっていて、ミッドガルドでは観光客誘致の営業活動含めて雑貨屋をやってるんだ。それで届け物って言うのが鍛冶工房の親方への手紙なんだが頼めるかい?」
「拙者は行きたいでござるなニザヴェリル。武器の新調もしたいでござるし。」
「吾輩もドワーフたちがどのような社会を形成しているのか興味がある。」
「私はどこにでもついていくよ。」
「それじゃあミカの知り合いに挨拶したら、次の目的地はニザヴェリルにしようか。支払いはギルドカードでお願いします。」
「はい毎度あり。手紙よろしくね。」
「ポーチタイプのバッグだとミカとおそろいだね。」
「拙者も忍具入れは腰に巻いてるでござるよ。」
「吾輩もポーチを付けた方がよいのだろうか。」
「いや、別におそろいにしなきゃいけないわけじゃないけど。」
思わぬところで次の目的地が決まった。ドワーフの国ニザヴェリルとはどんな場所なのだろうか。職人が多いようなのでミッドガルドとはまた違った土地柄だろう。新しい目的地に思いをはせながら、フィオの家への帰路についた。




