09 お嬢様、公爵家を窮地に追い込む2
厨房での初戦を見事な勝利で飾ったわたしは、ニーナとマヌエラを連れて部屋に戻った。
本当はニーナにお願いされたから、メイドたちの休憩室にそのまま向かうつもりだったけど……グレおじさんが厨房の棚のおやつを全部くれたから、3人の腕いっぱいのおやつを、ひとまず部屋に仕舞いにいったのだ。
休憩室のメイドたちにあげればいいじゃん、とか言ってはならない。戦はそんなに甘くはないのである。
わたしは、グレおじさんを討ち取ってこのおやつを手に入れたのだ。もしかしたら、わたしが討ち取られてしまう可能性はあった。そう、このおやつは、命懸けの戦いの末の戦利品。わたし以外のなんびとも、このおやつを口にすることは許されないのだ。仕方がない。
ああ、勝利ってなんて素晴らしいのだろう!
かつてない戦いの高揚感と、かつてないおやつの量に、もうわたしのテンションはとどまる所を知らない。上がりっぱなしである。
頰が熱いから、きっと顔は赤くなっている。がまんしようとしても、締まりのない緩みきった表情は隠すことができない。なんだか足まで軽やかに、勝手にスキップをしはじめた。あれ、さっきから聞こえるこの歌って、もしかしてわたしの鼻歌?
そんな傍から見てもご機嫌であろうわたしは、今度こそメイドたちの休憩室に向かって、まるで絵本で見た女神さまが地上に降り立つ瞬間の再現かのように、堂々と階段を降りていた。
わたし的には、王さまにも引けをとらない階段の降り方だったと思う。4年間の人生でいちばんなのは間違いない。その筋の人が見たら、きっとわたしに後光が差して見えたに違いない。その筋の人っていうのがいるのかよく分からないけど。
そんな風につらつらと考えていたから、わたしは敵襲に気がつかなかった。
そう、わたしは、浮かれていたのだ。
戦はそんなに甘くはない。いつでも準備万端に敵と向かい合えるわけじゃない。わたしの戦いは、これからだったのに。
「リディ! 僕のお姫さま! 玄関でずっと待っていてくれたの? 寂しい思いをさせてしまったかい? ごめんね、今日はもう離れないから!」
玄関で鉢合わせたお兄さまに、一瞬で抱えられて、気がついた時にはお兄さまの部屋に居た。もちろん、ニーナもマヌエラもここには居ない。
そう、わたしは油断していたばかりに、お兄さまに奇襲をかけられたのだ。
こういう時はなんて言うんだっけ……? ああ、そうだ、
(かって、かぶとのおを、しめよ……)