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49 お嬢様、悪い遊びを覚えた2

 

  手足はもにょもにょ。

  マントはひらり。

  華麗なステップを刻むわたしが、ふいに口をぱかりと開くとーー


「ギュウウッ!」


  お腹さまが声を出す。面白すぎる!


「ふふっ変なのっ。ゴゴゴゴッ」


  今この瞬間、エグランテリア王国内でわたしより鳥っぽいやつがいるだろうか。いや、いない。

  考えてみたら今日は朝からバタバタしていて、おやつはチェーリ先生とのお茶会で食べたクッキー2枚だけ。お腹さまの鳴き声も絶好調なわけだわ!


  ああ、木の上でやってみたい。きっと、もっと極楽鳥っぽくなる筈。うきうきと計画を立てていると、ノックの音がした。ニーナかな?


「リディ、入るね」


  違った、お兄さまだ!


「待って、お兄さま! 入っちゃだめっ」

「え?」


  ニーナには喜んで見せようと思っていたこの一芸も、お兄さまに見られるのかと思うと血の気が引いた。

  お兄さまはとっくに気がついているとも思うけれど、わたしは完ぺきなお兄さまの妹として、にじみ出るポンコツっぽさは仕方がないにしても、こういう面白リディはなるべく見られないようにしたいのだ。


  呆れられたら困る! と大急ぎでマントを外そうとするけれど、固く結んでしまったようでなかなか解けない。嘘でしょ!?


「リディ? 1人で何してるの? メイドを呼ぼうか」

「えっと、ええっと……」


  扉の向こうから、訝しげな声が聞こえる。

  とりあえず、わたしが鳥っぽい事をしなければ、ただスカーフが解けなくて困っているリディアにしか見えない筈。よし、入ってきてもらおう。


「もう平気? ……どうしたの?」


  不思議そうな顔をするお兄さまを、直立不動で出迎える。わたし、何もしていなかったよ! スカーフに苦戦していただけだよ!

  全身で訴えるわたしを見つつ、お兄さまが首を傾げてサラッと言った。


「やましい事があります、って顔をしているね? リディ」

「グゴケッ!? ……あっ」


  何でお兄さまはいつも分かっちゃうの!?

  驚きのあまりパカッと口を開けた瞬間、駄目押しのようにお腹さまが喋った。うう、うかつなやつめ。


「その、えぇと……エグランテリアの極楽鳥ごっこが面白かったの。それで……」


  言葉が続かない。『優秀なユーリウス様』の妹はどうしてこんなにポンコツなのか? お兄さま、呆れているかしら。


  ちらっと仰ぎ見たお兄さまは、なんだか難しい顔をしていた。何を考えているのかしら。わたしもお兄さまみたいに、心が読めたらいいのに。


「あの、お兄さま……あきれている?」

「いや、呆れてはいないよ」


  そう言ってわたしが解けなかったスカーフをさっと取り外してくれたお兄さまは、ソファーに座ってわたしを抱き上げた。


  肩に顔を乗せたお兄さまが、静かに唸るのが聞こえて固まる。いつもなら、わたしを見ながら頭を撫でてくれるのに……何故?


「お兄さま……おこってる?」

「いや……怒ってないよ、大丈夫」


  でも、いつもと違うのだけれど。うう、とっても気になる。表情が見えなくてもわたしの困惑は伝わったのか、お兄さまが少し迷ったように歯切れ悪く話し始めた。


「父さまも母さまも僕も普段から、リディの面白い発想や言動に癒されているよ。それは他にはない魅力だから」


  ……ありがとうございます? ここからお説教が始まるのかしら。 上げて落とす感じ?


「父さまと母さまは、リディをのびのび育てていこうって話していたけど……」


  3人で集まって、リディア育成計画を立てているのかな……お、お疲れさまです。


「でも僕は、リディのうっかり加減を見ると心配なんだ。のびのび育つのは良いけど、うっかり何処かへ行ってしまいそうで……」


  まあ、うっかり者なのは否定できないわ。

  うんうん頷くわたしの肩から顔を上げたお兄さまが、ジッと見つめてくる。


「誰にも取られないように隠しちゃいたいくらいだけど……そうもいかないしね。なんだかリディを見ていると、うっかり王様に気に入られてうっかり王太子様と婚約させられていた、なんて事になりそうな気さえしてくるよ」


  わたしの頭をそっと撫でながら、お兄さまはへにょりと眉を下げた。お兄さまの困り顔! 珍しいわ。

  レアな表情に目を奪われつつも、お兄さまの言葉を噛み砕く。つまり、急に不安になったのね。


「分かるわ、お兄さま。わたしも前に、お兄さまが美しすぎて王宮にとじこめられているんじゃないかと思ったの。王さまと王太子さまが、お兄さまをめぐって戦っているにちがいないって」


  わたしもお兄さまも、王さまと王太子さまを悪役として想像しているのが面白くて笑ってしまう。全然似ていないのに、こんな所は似ているなんて。


「ふふ、そんな事あり得ないよ、リディ」

「そう、あり得ないの。でも心配しちゃうんだよねぇ」


  顔を見合わせて、笑い合う。良かった、いつもの空気に戻った。

  メイドさんにお茶をお願いして、お兄さまとのんびりする。


「お兄さまを心配させちゃうなら、わたしのうっかりも直さないとなぁ」

「心配だけど、そんな所も可愛いから。 それに、僕が不安になったのは、」


  ゆったりお茶を飲むお兄さまが、ハッと顔を上げた。


「お兄さま?」

「不安になったのは……王妃様がリディに会いたがっているって聞いたから」

「ええ? 王妃さま?」

「そう。僕もレイモンド様から聞いたから、詳しくは知らないけれど」

「ふうん」


  聞き間違いじゃないかなぁ? 王妃さまがわたしに会いたがる理由がないもの。


「あ、そうだ。リディ」


  ぼうっと考えていたわたしの横に、お茶を飲み終えたお兄さまが立った。

  顔をくっと持ち上げられて、お兄さまの笑顔で視界がいっぱいになった。頬をそっと撫でられる。


「リディ……」


  甘く優しい声にふわっとした気持ちになる。

  でもわたしは知っているのだ。


「リディ……僕のお姫さま。わざとお腹を鳴らすのは、もうやめようね。女の子でしょう?」


  にっこり微笑むお兄さまに、秒速で頷き返した。

  ここで対応を間違えると、この世の苦しみと哀しみと非情さが詰め込まれた悪魔の実(ピーマン)がわたしの口に入る事となる。

  お兄さまは優しいけれど、お行儀に関しては厳しいのだ。わたしはそれを知っている。


「いい子だね、リディ」

「えへへ」


  笑って見つめ合いながら、なんとかピーマンおやつの危機は脱したのだとそっと息をついた。

  極楽鳥ごっこ、楽しかったのになぁ……やっぱり悪い事はできないわね。



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