38 お嬢様、暇だった
わたしは悩んでいた。
冬、すること、ない。
わたしの1日は、ほぼ屋敷と庭をぶらぶらする事で終わる。なのに冬になって、庭に出る事がかなり減った。わたしが風邪を引かないように、と使用人たちに部屋に留められてしまうのだ。
おかげで今まで庭に出ていた時間が浮いてしまった。
それより最悪な事は、運動量が減ったからとおやつも少なくなった事だ。
こんな寒さはわたしの敵ではないので、庭に出して欲しい。そしたらいっぱい運動もするので、おやつを元の量に戻して欲しい。こんな悪循環はもういや……
「うーっ! ぐち、おわり!」
こうやって暇にしているから、ついつい愚痴をこぼしてしまうのだ。何か、何かしなくちゃ。
「本、読んでみる……?」
そういえば秋にマヌエラからおすすめされた本、『ひつじのリンダの大冒険』をまだ読んでいない。
かなりの長編で、ひつじ対人間の戦争という重いテーマに手が伸びなかった。よし、1日丸ごと使って、じっくり読んでみようかな。
「戦争が、はじまる……ひつじのリンダ、こわい!」
でも確かに、結婚前に自慢の毛を刈られて悔しい気持ちもわかる。だからって、人間に戦いを挑むなんて、危険だわ。
「……あぶないっ」
ひつじって、山にも登れるのね。上から石を落とす作戦なんて! このままじゃ人間の国が滅んでしまう。
「……リンダ、あなた、だまされているわ!」
ようやく黒幕が分かったわ。リンダの婚約者が、実はヤギだったなんて……このままじゃ、ひつじも人間も共倒れ。ヤギの世界になってしまう。ああ、早く気がついて。
「……早く! 死んじゃうわ!」
定期的に毛を刈らないと命の危機だなんて!
リンダ、信じて、その毛織職人さんは味方よ。
「ああ、そんな……」
なんて悲しい結末なの。
毛織職人さん、あなたの命は無駄にはならなかったわ。ひつじと人間は分かり合えたのよ。でも、犠牲が大きすぎた……
「ぐすっ……ぐすん。ふう」
こんなに切ない物語を読んだのは初めてだわ。
今後一切、わたしがヤギのチーズを食べる事はないだろう……たぶん。
涙も止まって落ち着いてきた頃に、お出かけから帰ってきたお母さまがお茶に誘ってくれた。
「リディ、目が赤いわ。悲しい事でもあったのかしら」
「いいえ、お母さま。だいじょうぶよ」
「そう……では、何か困っている事は?」
「困っていること……特にないけれど。あ、ひまだわ」
うん、強いて言うなら、暇すぎて困っている。そう伝えると、お母さまは何か考えた後、わたしに優しく微笑んだ。
「では、習い事でも始めてみたらどうかしら」
「習い事? どんな?」
「刺繍、ピアノ、ヴァイオリン、歌、ダンス……何でも。したい事をすればいいわ」
うーん、したい事……
刺繍を習ったら、みんなに贈り物ができるわ。でも、ニーナが針を怖がるから、気をつけないといけないわね。そもそも、わたしにちまちました作業ができるかしら?
ピアノも、指がわちゃわちゃして難しそうだし……でも、できたらかっこいいわね? ヴァイオリンも。
歌も気になる。どんな歌があるのか聞いてみたい。音痴では、ないと思うの。
ダンスは、この中で1番うまく出来る気がするわ。体を動かすのは得意だもの。ふむ?
「悩むなら、全部1回試してみたら? 刺繍はマヌエラが教えられるし、他は先生を招くわ」
おお、全部やってもいいの? 確かに、悩むのよね。どれを身につけても素敵だわ。
「うーん。考えておく」
わたし、どんな令嬢を目指すべきなのかしら? 10年後、どんな大人になっているの?
なんて、ちょっとだけ、将来の姿を考えてみる1日だった。




