34 お嬢様、射抜かれた
「ようこそ、リディ。待っていたよ」
「お兄さま! おそくなってごめんなさい、これ、お兄さまのお花だよ」
お兄さまの部屋に入ってすぐに、お花を渡す。どうかな? 気に入ってくれるかな?
「これは、薔薇だね。凄い、リディの目の色と同じだ……僕が大好きな色だよ。ありがとう。ふふ、花言葉は……リディは僕を愛してくれているってこと?」
「ぶっぶー! ちがいます!」
引っかかったな! ふふん、これはただのバラじゃないもんね。
困ったような顔をして首を傾げるお兄さまに、得意満面に主張する。
「これは、ユーリディ・パープルローズって言うの! こんなむらさきのバラ、見たことないでしょう? わたしが、お兄さまのためにつくったの!」
「ユーリディ? もしかして、僕とリディの名前をくっつけたの?」
「そう! これは、お兄さまとわたしのお花だから!」
両手を振り上げて、胸を張って、全力で褒めて! って訴える。ねぇ、お兄さま、わたし、新しいお花作っちゃったんだけれど。どう? どう? 流石リディちゃんって感じ?
お兄さまは両手で顔を覆って、うずくまっていた。あれ? 褒めてくれないの……?
どうすればいいか分からなくなってしまったわたしに、お兄さまの震える声が届いた。
「花言葉は……?」
「えっ! えっと……『かっこよくて頭が良くて優しい、わたしの大好きな自慢のお兄さま大好き!』だよ」
あれ、大好きがひとつ多かったかな? ま、いいや。お兄さまの事は、大好きを100個くらい付け足しても足りないくらいに大好きなのだ。
「リディ……」
お兄さまは未だにしゃがみ込んでいる。もしかして、感動のあまりに泣いちゃっているの? なんて罪作りな女だろう、わたしって。いいよ、ここには他に誰も居ないから。思う存分泣いてくれ。
なんとなく男前の気分になったわたしは、お兄さまの肩をぽん、と叩いた。
「お兄さま……がまんしなくていいんだよ」
お兄さまが泣くところ、初めて見る! わーい!
ちょっとわくわくしているわたしの前で、お兄さまが肩をびくりと揺らして、ゆっくりと顔を上げた。
潤んだ目で、頬を染めて、泣きそうな顔で微笑むお兄さまを見た瞬間、わたしの胸にトキメキの矢が突き刺さった。
「リディ……僕のために頑張ってくれて、ありがとう。想像以上に嬉しかった」
心臓がぎゅーっと掴まれたような気分。ときめきすぎて息がしづらい。お兄さま、なんて顔をするの。
今までお兄さまはとろけそうな笑顔がいちばんだと思っていたけれど、それを上回る威力だった。テーブルの上のおやつを見ても、別のことを考えようとしても、さっきの表情が焼き付いてしまって平常心に戻れない。
「あの……お兄さま、だいすき」
「うん」
「ほんとうにだいすきなんだよ」
「うん、ありがとう」
バラをジッと見つめ続けるお兄さまを見て、なんだか胸がいっぱいになってしまった。わたしがあげたお花で、こんなに喜んでくれるなんて。
結局、お茶会は開かずに終わった。そんな気分じゃなくなったから。
わたしとお兄さまは、テーブルの上にユーリディ・パープルローズを飾って、2人でのんびりと眺めていたのだった。
お兄さまの膝の上でぽつぽつと話していると、部屋にお母さまが来た。
「ユーリウス、リディ……もう夕食の支度ができているわ。どうしたの?」
え、もうそんな時間? まったりしていたから、時計も見ていなかった。
「ちょっとのんびりしてたの! お母さま、またせてごめんなさい」
「大丈夫よ。あら……綺麗な薔薇ね。これだけ深い紫色は見たことがないわ」
「ふふ、母さま。リディが僕にくれたんです」
「リディが? そういえば、目の色そっくり……私も、貰ってもいいかしら。アーヴィンが喜びそうだわ」
少し照れくさそうに言うお母さまには申し訳ないけれど。お兄さまとわたしは、顔を見合わせて笑い、ハッキリと言った。
「だめっ」
「だめ、です。母さま、ごめんなさい。これはリディと僕の花だから」
そう、これはユーリディ・パープルローズ。わたしとお兄さまだけのお花なのだ。
だけど、お母さまが羨ましそうにしているから。今度は白いデンファレをもらって、紫に染めてあげようかな。




