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33 お嬢様、感心した

 

「おはようございます、リディアお嬢様っ」

「おはよう、ニーナ。おて」

「はいっ! うふふ、今日も調子が良いですわ」


  それは羨ましい。わたしは昨日の夕食を抜いたせいで、なんとなく力が出ない。うーん、やっぱり眠くても食べるべきだった。

  わたしって、おやつを抜くとお腹が凄くうるさく主張するのだけれど、ご飯を抜くと逆に静かになるのよね。

  お腹さま、グーグー言う力も無いほどに弱っているのかしら。全く鳴らないのも、嵐の前の静けさって感じで怖いのだけれど。お腹さまが反乱を起こす前に、しっかりと食べてこなくちゃ。




  朝食を終えて、部屋に戻る。

  お花の様子を見ると、なかなか良い感じの紫になっていた。

  これなら、お兄さまとのお茶の時間に渡せそう! さて、暇な時間は何をしよう。

  ここ最近は結構忙しかったから、部屋でのんびりしたい気分なんだけれど。

  室内で出来ること……わたし、今までこの部屋で何をして過ごしていたっけ?

  普段は屋敷をぶらぶらと歩いて、使用人たちに遊んでもらっているから、この部屋に日中いる事ってあんまりない気がする。

  よく考えれば、この部屋ではおやつを食べるか、なにか考え事をするか、絵本を読むくらいしかしていないわ。


  おやつの時間には早すぎるし。考え事も今はないわ。絵本も同じものを繰り返し読んだら飽きてしまった。

  ……そういえば、わざわざ絵本を選ばなくても、もう字が読めるから普通の本も選べるんだった。

  なにか、新しい本を読んでみたいかも。


  よし! そうと決まれば、屋敷の中を冒険だ! 素敵な本を見つけちゃおう!


  扉を開けて一歩踏み出して、ふと思った。

  わたし、部屋でのんびりするんじゃなかったっけ? それがどうして、屋敷の中を冒険する事になるんだろう。

  部屋の前で考え込むわたしの目に、廊下を歩く執事さんが映った。ふむ?


「おはよう、しつじさん!」

「おはようございます、リディアお嬢様」

「ねぇ、いま時間ある? おねがいがあるのだけれど」

「はい。何なりとお申し付けください」

「あのね、本が読みたいの。それで、おすすめとかあったら、もってきてほしいな」

「かしこまりました。すぐにお持ち致します」

「ありがとう!」


  綺麗に一礼して立ち去る執事さんを見送って、部屋へと戻る。ふふ、完ぺき。これでわたしは部屋でのんびりしながら、本が届くのを待てばいい。

  いつもとりあえず行動! と思っていたけれど、頭を使えば楽もできるんだわ。




「失礼します、リディアお嬢様。本を持って参りました」

「しつじさん! ありがとう、早いね」

「いえ、お待たせしました。使用人たちの愛読書を借りて来ましたが、気に入ったものが無ければ別のものをご用意致しますので」


  みんなのお気に入りの本! 楽しみだなぁ。

  それにしても、10冊くらいあるのだけれど。執事さん、お仕事速いのね。


「皆、リディアお嬢様に愛読書を読んでもらうのを楽しみにしていました。もしご趣味が合えば、感想などお話になってください。喜びます」


  本の感想を言い合うとか、した事ない! 凄く楽しみになってきた。どれから読もうかな……えっと……


  『料理人の極意〜お湯の沸かし方から、魚の捌き方まで〜』


「これ、グレおじさんの本?」

「いえ、こちらはメイドのマリーの本ですね」


  マリー、料理の勉強しているの? もしかして料理人さんのためかしら。これは後回しでいいかな。



  『世界のおやつ大辞典』


「これがグレおじさんだ」

「はい、正解です」


  非常に興味深い。けれど、開いたが最後、書いてあるおやつを全て食べたくなってしまうかもしれない。とりあえず、今は読まないでおこう。



  『幸せな毎日』


  ほほう? どんなお話だろう。適当に開いた頁を読んでみる。


『木の上に天使が居た。眩しい太陽の光に照らされて、蜂蜜よりも甘く輝く髪を揺らし、しなやかに腕を伸ばして笑う。陶然と見つめる私の耳に、胸を震わす音が届いた。愛らしい天使の笑い声には、どんな歌姫も敵わないーー』


「ふうん、天使さまとであうお話かぁ」

「あ、すみません。それは私の日記です」

「しつじさん、天使さまとあったことあるの!?」

「はい、毎日。今も私の前に居ますし」


  よし、聞かなかったことにしよう。



  『ひつじのリンダの大冒険』


  ん? これなんか良いんじゃない? どれどれ……


  『ひつじのリンダは勇ましい。ある日彼女は考えた。自慢の毛を、どうして人間共にくれてやらねばならんのだ? リンダを中心として立ち上がるひつじたち。今、人間とひつじの長い戦乱の時代が始まるーー』


「ひつじこわい!」

「それはメイド長のものですね」

「マヌエラ、こんなもの読んでいるの!?」

「詳しくは存じませんが、感動の超大作だそうですよ。羊と人間の仲立ちをして戦を止めた毛織物職人が亡くなってしまう所が、最高に泣けると言っていました」


  えぇー。そんなお話なの? ……名作なのかもしれないけれど、今の気分じゃないなぁ。次の本は……



  『いぬの気持ち』


  あ、ニーナだ。次。



  『緑の地〜植物は生きている〜』


  庭師さんかな。興味はあるけれど、ちょっと内容が難しそうだ。今度お庭で一緒に読んでもらおう。次。



  『ドジっ子をやめる500の方法』


  あ、料理人さんだ。次。



  『訪問時のマナー』


  ふむ? これは誰だろう。


「しつじさん、この本は……?」

「それは執事長が選んだ本ですね。愛読書ではないですが、今度お嬢様がお出かけになる際に必要だと考えたのでしょう」


  なるほど。確かに必要だ。

  こういう細かな気配りができるというのが、プラトナム公爵家の使用人たちを纏めている執事長のデイヴィスなのである。うーん、流石。

  ニーナがデイヴィスに憧れる気持ちがちょっと分かったかもしれない。

  お兄さまとのお茶の時間まで、この本を読んでマナーの勉強をしておこう。




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