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26 お嬢様、にぶかった

 

「ちがあああうっ! にわしさん、ちがあああうっ! デンファレだったー!」


  布団を跳ね除けて飛び起きる。

  頭の中には、もはや、デンファレの一言しかない。ああ、庭師さんがのんびりマイペースなのは、いつもの事なのに……! ついつい、ペースに巻き込まれてしまうんだわ。


「デンファレ……デンファレ……ああ、ぜったいにわすれないようにしないと……」

「おはようございます、リディアお嬢様っ」

「おはよう、ニーナ。おてっ!」

「はいっ! うふふ」

「デンファレッ!」

「はいっ! ……はい?」

「ううん、なんでもないの」


  いけない、いくらニーナでも、デンファレには対応できないわね。

  ああ、もう、忘れるなんてあり得ないわ。早く、早く、朝食より先に、庭師さんに会いに行ってしまいたい!

 

『お嬢様、あんまり慌てちゃいけません。チューリップの球根は、秋植えて、春咲くんですよ』


  慌てるわたしの頭の中で、ふいに庭師さんが、そう言ってくれているような気がした。

  そうだ、わたしはあの時、のんびり頑張るって言ったんだ。慌てたり、焦ったりしちゃいけない。そう、チューリップの球根のように、がまん強い女になるの。


「ニーナ、今日のわたしのかみがたは、チューリップのきゅうこんの形にしてちょうだい」

「えぇっ! すみません、どんな形でしょう?」

「あら、知らない? 玉ねぎとおなじよ! こう、にょきっとした頭にしてちょうだい」

「玉ねぎ頭ですか……ざ、斬新すぎます、リディアお嬢様。申し訳ありませんが、例え私にその腕があったとしても、その髪型にはいたしませんわ」

「えー。いいと思ったのになぁ」


  わたし、形から入るタイプなんだけれどなぁ。




「おはよう! お父さま、お母さま、お兄さま!」

「おはよう、僕のお姫さま。随分とご機嫌だね? なにかあったの?」


  食堂に駆け込み、みんなにおはようのキスをする。ちょっと勢い余って、いつもの倍してしまったけれど、まあいいだろう。


「お兄さま! わたし、昨日とはちがうのよ。あたらしく生まれかわったの。何になったかわかる?」


  そう、実はわたし、玉ねぎ頭はだめだったけれど、耳の上にシニヨンを作ってもらえたのだ!

  お兄さま、ちゃんと球根って気がついてくれるかな?


「今日は変わった髪型だね。もちろん、可愛いけれど……リディはクマさんになったのかなぁ? 合っている?」

「えっ! はずれ! お兄さまが分からないなんて……めずらしいわ」

「外したか……うーん、リディの考えそうなこと……シュークリーム?」

「わたしがいつも、おやつのことばかり考えていると思わないでほしいわ」

「ふふ、ごめんね。うーん、難しいなぁ……リディは確か昨日、長いこと庭に出ていたんだよね? だから……リス……いや、違うな。球根?」

「せいかーい! わたし、チューリップのきゅうこんになりましたー!」


  やっと当ててくれた! お兄さまにしては遅かったけれど、まあいいわ。わたし、着々と、球根に近付いている筈よ!



「アーヴィン……どうしてリディアは球根になりたがっているのかしら」

「さあ? リディはよく分からないところも、可愛いよね」


「あ、お母さま! それはね!」

「僕は分かるよ、リディ。きっと、庭師に何か素敵なお話を聞いたんでしょう? 球根は辛い冬を越えて芽吹くとか、そんな感じの」

「せいかーい! お兄さま、さすが!」

「ユーリウス……私が次に何を食べようとしているか、分かるかしら」

「いいえ、母さま。分かりません」

「じゃあ、リディが何を食べたいかは分かるのかしら?」

「えーっと……ベーコンエッグかな」

「せいかーい! お兄さま、なんでわかるの?」


「アーヴィン……どうしてユーリウスはリディアの心が読めるのかしら」

「うーん……私の息子だから、かな。 セリーナ、君が次に食べようとしていたのは、ヨーグルトで合っている?」

「……ええ。なぜ分かるの?」

「君のことを、今までずっと見てきたからね、私は」

「…………。」

「そんなに照れなくてもいいのに」


「ふふ、リディ、あーん」

「お兄さま! 黄身! 黄身のとこがいい!」

「だーめ。ちゃんと食べて」


「私にも、食べさせてくれる? セリーナ」

「…………。」

「そんな風に睨んでも可愛いだけだって、前にも教えてあげたでしょう……?」

「…………。」

「ふふ、手が震えているよ。よく出来ました」



「こ、こほんっ! 皆さま、お食事はそろそろお済みでしょうか!? もうすぐ、いつものお時間でございます!」



「はぁーい! ……あら? お母さま、お顔がまっかだわ」


  それに、お父さまはとっても嬉しそう。

  さては……さては、2人で息止め競争をして、お母さまが負けたに違いない。うん、きっとそう。……わたしにも、声をかけて欲しかったわ。息止め、得意なのに。



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