21 お嬢様、熱だった2
「リディ? なんだか食事が進んでいないように見えるのだけれど……どうかしたの?」
お母さまがこちらを心配そうに見る。
大丈夫よ、と言いたいけれど。なんだか体がおかしい。フルーツたっぷりのパンケーキ、大好きなのに。あまり食べたいと思えないのはどうして? 淹れてもらったミルクティーも、飲む気になれない。冷たい水が欲しいわ。
「リディ……? アーヴィン! 医者を呼んで……熱があるわ」
お母さまが額に当てた手が気持ちいい。あら、みんな、どうしてそんなに焦った顔をしているの? ちょっと声がうるさいわ。頭が痛くなってきた。……医者? ねえ、お母さま、今、お医者さまを呼ぶって言ったの?
「お母さま……?」
「リディ、大丈夫よ、すぐに良くなるわ。お医者さまが来るまで、部屋で横になりましょう」
お母さまがわたしを抱き上げて、背中をさする。ああ、お母さま、それ気持ちいい。もっと……じゃなくて。頭が痛いけれど、しっかりしなくちゃ。
よく分からないけれど、わたしは熱を出していて、お医者さまを呼ぶらしい。公爵家が指名するお医者さまなんて、きっと凄い先生に違いない。そう、わたしが何も話さなくても、一目見れば、わたしが中毒症状にあることを見破るだろう。そうなったら……そうなったら、どうなる?
おて中毒に、薬が効くとは思えない。きっと、原因を取り除こうとする筈だ。そう、つまり、おてをするニーナを。
がんがんと痛むわたしの頭の中に、ニーナとの思い出が次から次へと溢れてくる。
わたしが泣くと、それ以上に泣くニーナ。
頭を撫でると、嬉しそうに笑うニーナ。
どんな装飾品より、わたしのおてが欲しいニーナ。
針が怖くて、震えるニーナ。
猫ちゃんが好きで、きゃあきゃあ言うニーナ。
末っ子で、おねだり上手なニーナ。
デイヴィスにうっとりするニーナ。
わたしに、大好きと言ってくれるニーナ。
わたしの、大好きな、ニーナが。
……いなくなる?
ぽろり、と涙が溢れた。
一粒、二粒、三粒……ああ、もう止まらない。
「ああ、どうしましょう、リディ……どこが痛むの?」
「リディ、早く気がつかなくてすまない。……じきに医者が来るから、あと少しのがまんだよ」
「リディ、リディ、泣かないで! 僕にできることはある?」
「ふ、うぇ、やだぁ。にぃなぁ、にーな、ニーナ! うう、ニーナ、そばにいて……」
お母さま、お父さま、お兄さま……大好き。
でもわたし、ニーナが欠けてもだめなんだわ。お願いだから、連れて行かないで欲しいの。
目を開けたときには、窓の外は真っ暗だった。頭がぼんやりする。ずいぶん寝ていたんだわ。
右手に違和感を感じて見てみると、わたしの手を握って椅子に座り、うとうとしているニーナが居た。
「ニーナ……?」
「……むぅ……う、リディアお嬢様? よかった、具合はどうですか? お医者さまが解熱剤を注射してくださったのですが、なかなか熱が下がらなくて心配しました」
「…………。」
「あ、いけない、まずお水をどうぞ。あと、隣の部屋に皆さまが控えていらっしゃいますわ。すぐに呼んでまいります」
「ニーナ。まって」
「はい。どうされましたか?」
「ニーナ。わたしのそばから、いなくならないで。わたし、体もじょうぶにする。にどと、熱はださないわ。だから、おねがいよ」
「リディアお嬢様……ニーナがどれだけお嬢様を大切に思っているか、ご存知でしょう? 私から離れる筈がありませんわ。それに」
「それに……?」
「朝、倒れられた時に、ニーナの名前をずっと呼んでいたと聞きました。不謹慎かもしれないけれど、嬉しかったですわ……リディアお嬢様が、何を心配しているのかは知りませんが。もし、体が丈夫でなくとも、しょっちゅう熱を出しても。私はリディアお嬢様なら、愛しく思うでしょう」
「ニーナ、ほんとう? どこにもいかない? わたしのそばにいる?」
「ええ、もちろん。リディアお嬢様の側におります。……さぁ、アーヴィン様もセリーナ様もユーリウス様も、首を長くしてお待ちですわ! 皆さまを安心させて差し上げましょう」
「うん、わかった!」
わたしのそばにいる、大切な人たち。
いつも、助けてもらうばかりだけれど。
誰かが泣いたら、わたしが慰めるよ。
誰かが病気になったら、一生懸命、看病するよ。
誰かが不安になったら、そばにいるから大丈夫だよって伝えるよ。
そうやって、わたしに出来ることで、恩返しをしていこう。
みんなの事が、大好きだから。




