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13 お嬢様、公爵家を窮地に追い込む6

 

「つまり、リディはジョンに会ったことはなく、話を聞いて会いたいと思いを寄せたわけでもないと。ただ、屋敷で働く者以外の誰かに会ってみたくて、仕事もしていないジョンなら予定も合わせやすいだろうと、それだけの理由でジョンを選んだということだね? 決して、ジョンにこだわっているわけではないと。間違いないね?」

「は、はい」


  本当は、外に知り合いが欲しいんじゃなくて、1人でご飯が食べたくなかっただけなんだけど。きっとそう言うと、お父さまが無理してお仕事を切り上げそうな気がして、言わなかった。お兄さまの愛がこれ以上深まっても困るし。


「そうか……私は、愛するリディが誑かされてしまったのかと思ったよ。勘違いで本当に良かった。……ふむ、良い機会かな。リディ、これから起こる事をしっかりと見ているんだよ」


  お父さまは、私を抱き抱えてホールへと連れて行った。

  いつの間に呼んだのか、お母さまとお兄さまが居るし、執事長とメイド長を筆頭とした屋敷の使用人たちも並んでいる。かなりの人数だ。

  もしかして、使用人を全員集めたの? この時間に? 何が始まるというのだろう。

  とりあえず、お母さまとお兄さまに手を振っておく。2人とも笑顔で返してくれた。

  使用人たちは緊急集会に、少し緊張しているようだ。猫耳……という騒めきもあちこちから聞こえる。


「急に呼び立ててしまってすまない。が、大事な要件だ」


  お父さまが重苦しい声で話し始める。

  大事な要件とはなんだろう? 家族に対するとき以外にほとんど表情を変えないお父さまの、珍しく厳しい顔に、使用人たちの緊張感がさらに高まる。


「まずは、リディを見てほしい」


  お父さまはそう言って私を頭上に掲げる。

  家族と使用人たちの熱い視線を一身に受けているこの状況に、わたしは混乱した。わたしが混乱していい方向に向かったことは、この4年間に皆無だというのに。

  なんでこんな状況になっているの?

  もしかして、お父さま、わたしが猫耳おかしくないよ運動を世論に訴えかけていることを知っていた? それで、どうせなら一気に広めちゃいなよ、みたいな、そんな感じ?

  よし、それならば、いざ尋常に勝負!


「こんばんにゃー!」

 

  わたしは渾身の猫ちゃんポーズをお見舞いした。

  使用人たちは震えている。わたしも訳の分からない状況に震えている。抱えるお父さまの手も震えているのはなんでだろう。


「……いいか、この、リディに。気になる人ができたそうだ」


  お父さまが震える声で、宣言した。


  ホールに絶叫が走った。

  お兄さまは頭を抱え、ニーナは床に座り込み、グレおじさんは拳を握りしめ、マヌエラは近くのメイドたちになにやら指示をし始める。

  お母さまは清楚に微笑んでいる。


  お父さまは淡々と語りつづける。


「相手は、どこぞの馬の骨とも知らぬ、風来坊だ。いいか、この、リディが! そいつのためならピーマンを食べられると言った! 働きもせず、ふらふらしている男のために!」


  ホールに怒号が満ちている。

  お兄さまは頭を掻きむしり、ニーナは床を叩き始め、グレおじさんは歯をギリギリと言わせ、マヌエラとメイドたちは複雑なハンドサインを飛び交わす。

  お母さまは清楚に微笑んでいる。


  わたしは恐怖に慄いていた。

  なんだ、この状況は。お父さまは何を思ってこの状況を作り出したんだろう。そして、ただ清楚に微笑んでいるだけのお母さまが、いちばん恐ろしく見えるのはなんでだろう。


  お父さまが、わたしを下ろして優しく頭を撫でる。そして、にっこりと笑った。


「わかったかい、リディ? これからは、軽い気持ちで男に会いたいなんて言ってはいけないよ」



  その後、わたしはみんなの誤解を解くために、

  気になる人ができたら、まずお母さまに言うこと、

  全ての分野において、お兄さまより優れた人以外好きにはならないということ、

  グレおじさんの新作ピーマン料理を試食すること、

  マヌエラの気がすむまで撫でくりまわされること、

  毎朝おてをすることを約束して、必死に機嫌をとるはめになったのだった。


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