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憑いてる少女

「えっと、じゃあ霧上さんは異能をもってるんですか?」

「そう」

「それで幽霊の居場所が分かったんですね」

「そう」

「さっきの方は何てお名前なんですか?」

「分からない。本人も覚えていない」

「……ええっと、何で私達を助けてくれたんですか?」

「……特に理由は無い」

緋志と陣と舞は依頼の報告の為に事務所に戻り、ルミは霧上を連れて駅前の喫茶店を訪れていた。勿論、霧上から話を聞くためだ。

もう日も暮れようとしている時間の為か店内にいる客はルミと霧上だけだった。

「……そちらばかり質問するのは、不公平」

「へ? あ、そ、そうです、ね……」

ルミとしては他にも聞きたい事がいくつかあるのだが、霧上は座った瞳でこちらを見つめて来る。

メンタルの弱いルミが耐えられるはずも無かった。

「では、聞きたい。何故、幽霊退治を引き受けようと思った?」

「え? ええっと緋志から頼まれて……」

「でも、断る事も出来た。違う?」

「それは、そうですけど……」

ルミが困った様な表情を浮かべると、霧上はため息を吐き、運ばれてきた時より体積の増えた紅茶を一口啜った。

「(あれ、スッゴク甘いんだろうなあ……)」

「……紅道」

「は、ハイ!」

「私はお前を討伐するという任務を受けてここにやって来た」

「!?」

「安心しろ。今の私はお前を狩ろうとは考えていない」

「(よ、良かったあ……)」

ルミが大げさに胸をなで下ろしたのを見て、霧上は眉を顰めると

「お前、まさか私が普通では無いと気づいていなかったのか?」

質問の意味が一瞬分からなかったルミだったが、数秒かけて理解し、慌てて答えた。

「そ、その異能を持ってるとか、私を狙ってるとか、全然気付きませんでした……」

その答えに霧上は呆れた表情を顕にした。

普段、感情表情が薄い彼女にしてはかなり大きなリアクションだ。

「山田と、今野とあと北条だったか? あいつらは気づいていたぞ」

「え!? そ、そうなんですか?」

「………」

何か、残念なモノを見るような霧上の視線が痛かった。

ルミは劣勢をどうにかしようと、よく考えずに取り敢えず口を動かした。

「あの、どうして直ぐに私を、その殺そうとしなかったんですか?」

「それを、自分で聞くか……」

ますます霧上の目がやる気を失っていく。

先程までのシリアスな空気はもはや微塵も残っていなかった。

「まあ、いい。私が即座にお前を討伐しなかったのはタイミングを見計らっていたからだ。お前、なかなか一人にならなかったからな」

「(そ、それって一人になってたら殺されてたって事じゃ……)」

ゾワッと鳥肌が立つルミだったが、あまり深くは考えないようにしようと心に決めた。

「……まさか、お前に、その……友人がいるとは思わなかったんだ

だ」

グサッ!と何かがルミの心を抉った。

ルミは目を潤ませると、震える声で言った。

「そ、そうですよね。私みたいな愛想も無くて、常識知らずで、……」

「!? お、おい待て! 勘違いをするな! 私は、お前が吸血鬼と人間のハーフだと、聞かされていたから、てっきり人と積極的に関わっているとは思わなかっただけだ」

「へ? あ、ああ、なるほど……」

ルミは霧上が慌てる様に説明するのを聞き、ようやく落ち着いた。かと思うと突然クスクスと笑い出した。

霧上が怪訝な顔になったのを見ると、今度は笑いをこらえながらルミが説明を始めた。

「ご、ごめんなさい。霧上さんが慌ててるの初めて見たから。何だか可愛くて」

「な!?」

可愛い、と言われたのが恥ずかしかったのか大げさに頬を赤らめた霧上を見てルミはますます相貌を崩すのだった。

「(何だか新鮮な気分だなあ)」

ルミがしみじみと、そんな事を考えていると、ゴホン!と霧上がわざとらしい咳払いをした。

どうやら、話を戻したいらしい。

「あ、ご、ごめんなさい……」

「……私は」

「?」

「お前を狙う内に分からなくなったんだ」

「何が、ですか……?」

スウッと霧上の周りの温度が下がった様にルミは感じた。

抑揚の無い声で彼女は話す。

「私は今まで何体も魔族を狩って来た。そいつらは全て人に仇をなす存在だった。でも、お前は違う。そもそも、半分は人間だ。それに、人に危害を加えている様には見えないし、あまつさえ幽霊を退治しようとするような奴だ……」

霧上はそこまで言うと俯き、か細い声で続けた。

「お前は。魔族なのか?人なのか?人だとして……お前は存在してはいけないのか?」

霧上には分からなくなってきたのだ、何故ルミを狩らなくてはいけないのか?何故、自分はこんな事を、しているのか?

何故、自分はルミの事を、舞の事を助けたいと思ったのか……



「おい、ホントに大丈夫なのかよ……」

「殺すつもりなら、わざわざ助けたりしないだろ。それに」

緋志はチラリと舞を見ると彼女にも聞こえるように

「霧上は悪い奴じゃないよ」

「……」

舞は何も言わなかったが、彼女が緋志の意見に同意しているのが、二人には伝わった。

陣も、それ以上意見つもりは無いらしく、そこで引き下がった。

事務所に時計の音だけが存在する。

三人は麗子の事務所で待機している最中だった。

事務所まで来てみたが、麗子も依頼を遂行中らしく、事務所の何処にも姿が見当たらなかったのだ。

「……なあ、麗子さん戻って来るかどうか分からなくねーか?」

「それもそうだな……時間も遅いし」

緋志は僅かに思案すると、陣に提案した。

「陣は舞を送って帰っといてくれ」

「お前はどうすんだ?」

「もう待ってみるよ……舞、今日は助かったよ。ありがとう」

緋志が礼を言うと舞は首を振り

「気にしないで。結局、あんまり役に立てなかったし……」

そう言うと舞は立ち上がり陣を促して事務所を後にした。

恐らく、この後が陣にとっては山場だろうが、緋志は親友を信じる事にして携帯を取り出した。

「(さっき掛けた時は繋がらなかったけど……)」

もう一度試してみようと電話帳を開いた所で、着信音と共に緋志の手の中でケータイが震えた。

画面には見知らぬ番号が映っている。

「誰だ?」

取り敢えず出てみる事にして、緋志は通話ボタンを押して、ケータイを耳に当てた。

「はい、今野です」

「よお、クソガキ。俺だ」

「なっ!?」

電話口から聞こえてきたのはルミの兄である紅道華院の声だった。

緋志は思わず叫びそうになってしまってから、深呼吸をして心を落ち着かせた。

「ふうー……どうして俺の番号を知っているんですか?」

「お前の雇い主から聞いたんだよ」

「麗子さんからですか?」

「ああ、何でも手が離せないから代わりに用件を聞いといて欲しいんだと」

よく、あの華院が麗子の頼みを聞いたものだ……と半分感心、半分驚愕しながら緋志は考えてから、ある事に疑問を感じた。

「? という事は華院さんは今麗子さんと一緒に居るんですか?」

「あ? ああ、まあ、お前とやり合った時の事ネタにされて対魔課の糞野郎共に協力しろって言われちまってな……仕方なく言われた場所に来てみたらお前の雇い主も呼ばれてたってワケだ」

「な、なるほど……凄い偶然ですね」

「って、んなこたーどうだっていいんだよ!! それよりとっととそっちの要件言え」

「あ、はい」

緋志が、一通りの経緯を説明し、幽霊の退治を終えた事、幽霊は一体では無く六体で、恐らく生前は山賊だったらしき事を伝えて欲しいと頼むと、華院が静かな声で問いかけた。

「おい、クソガキ……ルミに怪我とかねえだろうな?」

「はい、大丈夫です」

「……あいつも金を稼がねーと生きていけねーってのは分かるが、テメーは依頼中でもしっかりルミを守りやがれ、いいな?」

「言われなくても、当然そのつもりです」

「相変わらず口の減らねえガキだ……まあいい。そっちの要件は以上だな?」

「あ、あと霧上恵と接触した事も伝えておいて頂けると助かります」

「ちっ! わーったよ……」

心の底から嫌そうに舌打ちをしながらも華院は承諾してくれた。

本人には言えないが、かなり面倒くさい。

「すいません、ありがとうございます」

「んじゃあまあ、最後に俺からも一つだ」

「?」

「この前伝え忘れてたんだがよ、あの丸薬一日に何回も使うじゃねえぞ。下手したら死ぬ」

「そんな大事な事伝え忘れないで下さいよ!!」

「うるせえな、怒鳴るんじゃねえよ。んじゃ、そろそろ切るぞ。あとルミに何かあったら……」

「お疲れ様でしたー」

緋志は割込むようにそう言うと、返事も聞かずに通話を切ってしまった。

何だか、幽霊退治の時よりも疲れた気がするのは気の所為だろうか?

「……ルミの様子、見に行くか」

緋志はそう呟くと、ゆっくりと立ち上がった。

早く帰ってゆっくり寝たい。

それが、彼の今持っている一番の願いだった。

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