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狐と死神

狐火が飛び、同時に、分身の攻撃が華院に襲い掛かる。

 しかし、その全ては華院が無造作に放った炎でかき消された。

「おいおい、さっきからつまんねーな。そんなんじゃ」

 姿を消して後ろから殴りかかった分身が、同じく見えない鎌に貫かれる。

「俺には勝てねーなあ!!」

 華院は歯をむき出しにして笑いながら、鎌を振り回す。

 幻影も分身も関係ない。

 触れたものは全て切り裂かれた。



 その様子を少し離れた場所から見ていた陣は唇を噛んだ。

 自分の役目は時間稼ぎだ。

それを考えれば、自分は役目を果たせている。しかし

「(あと何体、分身作れるかわかんなくなってきたな……)」

 次々と屠られていく分身を見ながら、陣は心の中で毒づいた。

 分身は作った後に動かすための魔力は少なくて済む。

 だが、分身一体を作るためには相当な量の魔力を消費するのだ。しかも、麗子の術を掛けるために狐火の大技も使ってしまった。

「(とにかく見つからないように……)」

 深呼吸して幻影を生み出そうとした陣の頭上で

バチバチと電撃が爆ぜた。

「なっ!?」

 間一髪で転がるように電撃を避ける。

 素早く立ち上がった陣の目にこちらを見て笑う華院の姿が映った。

「ば、ばれたのか!? 何で…」

 いや、考えている暇は無い。

 幻術を発動させて姿を眩ませた陣はそのまま別の隠れ場所を探そうとした。

「甘めーんだよ」

 しかし、一瞬で距離を詰めた華院が陣の前に立ちふさがった。

「(まだ、幻術は効いてるはず……!!)」

 陣はがむしゃらに殴り掛かりたいのを抑えて、距離を取ることに専念する。

 そんな陣をあざ笑うように、華院が放った回し蹴りが陣のわき腹にめり込んだ。

「うぐっ!?」

 ドッ!!と鈍い音を立てて陣の体は地面に投げ飛ばされた

 痛みと混乱で陣の幻術が解けてしまう。

 あたりを照らしていた狐火も主の制御が利かなくなり、散り散りになって消えてしまった。

「かっはっ!! な、何で……」

 月が背後にあるせいで、華院の表情は影になって陣には見えなかった。

 それでも、真紅に光る目は自分をたたえているように、陣は感じた。

「ただのガキにしちゃ頑張ったと思うぜ? 幻影の中に分身の攻撃を混ぜるってアイデアも中々のモンだ。だけどな……本体のお前は魔力が駄々漏れなんだよ。そいつで全部台無しだ」

 魔力が、駄々漏れ?

 陣は華院の言う意味が最初は分からなかった。

「な、どう、いう……」

 それに、分かろうが、分かるまいがそんな事はどうでもいい。

 時間を稼がなければ、自分はここで死ぬ。

 生き残るために、陣は必死に口を動かした。

「だからよ、お前の幻も、分身も、だーいぶ貧弱な魔力しか持ってないわけよ。それに比べてお前の方はどうよ? 並みの魔術師よりも強大な魔力を垂れ流してる。見つけるのは簡単だったぜ? 普通、幻術とか使う奴は漏れ出る魔力の制御くらい習得してるんだが……ま、そこがプロと素人の格の違いって奴だ」

「な……」

 確かに、密度のある魔力が近くにあると、圧迫感のようなモノは、陣も感じることができる。

 ただそれは、何となくの域をでない、不確かな感覚だ。魔力の位置を感じ取ることなど、陣にはできない。

「ちくしょう……あんた、ホントスゲーっすよ…」

「いやいや、お前も中々のモンだったぜ? そんなお前に敬意を表して見逃してやりたいとこだが……」

 華院が左手を持ち上げた。

 見えないはずの鎌がギラリと光った気がした。

「妹への見せしめが必要なんでな。死んでくれ」

「へ、へへ。ホント、あんたとの力比べは完敗っすよ」

 ゲホゲホと咳き込みながら陣が笑い出す。

 華院はその姿に違和感を覚える。


 ^―――――コイツは死にそうだって時に、何でうれしそうに笑ってやがる?


 その答えはすぐに分かった。

「でも、勝負は俺の、いや俺たちの勝ちだな……」

「っ!!!!」

 間一髪のところで華院は自分の体を貫かんとする刃を左に飛んでかわした。

 自己加速の魔術を使い、距離を取る。

 右手をついて、どうにか体勢を整えた華院は闇の中に溶け込むように立つ新手に目を向けた。

「テメーは……」

 闇の中に浮かぶ人影は右手にあの小太刀を携えていた。

 華院の腕を切り飛ばしたあの妖刀を。


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