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第いってんごの人生  作者: 楽haku
第1転
2/9

明晰夢→正夢

 ほぼ毎日、寝覚めは悪い。しかし今日はどうだろう、目覚まし時計よりも早かった。鶏の鳴き声で起きるとは、どこぞのドラマだよ、てかなんで鶏いるんだよ、など思いつつ、勇美は布団からはい出た。こんなに早く目覚めたのは、慣れない環境だからか、今日が入学式だからか、……妙な夢を見たからか。


 まぁ、ばあちゃんが入学を祝福してくれたしいいか、と深く考えずに洗面台へ向かった。化粧品は化粧水と保湿リップしか持っていない。乾燥肌だけは気になって習慣になっているというだけで、オシャレのためとは微塵も思っていない。寝起きの顔を水道水で引き締めた。眼鏡を掛けていないためまだ視界がぼんやりとしている。タオルで水分を拭き取り、鏡の中の自分と目を合わせた。

 「…………ん?」

 思わず声が漏れた。違和感。鏡の中に、違和感を感じた。ショートカットの黒髪はいつもの寝起き通りもさもさになっている。違和感はどこだ?視線を頭から顔、顔から胸へと移す。

 あの邪魔な膨らみが、ナイ。女性特有の、あの膨らみ。勇美はまず喜んだ。世間の一部で貧乳っ子が悩んでステータスだとか言われていたが、勇美は胸があることが鬱陶しかった。大変恨まれそうな悩みである。別に貧乳になって萌えられたいワケではない。単に邪魔だった。その邪魔物がナイということに、ありえねぇ!と驚愕するよりも喜びが先立ってしまった。彼女がありえねぇ!と驚愕するのはこのあと。


 「マジか」


 ……ことごとく前述と噛み合わなかった上にリアクションが薄いが、勇美はようやく焦り始めた。寝巻きのジャージの上と、タンクトップを脱いだ。鏡を見る。ナイ。俯いてみる。ナイ。トイレへ駆け込む。

 「わわあ!?ってええ!!」

 さすがに叫んでしまった。そして壁に頭突きを食らわした。体が女ではなくなっている。男だ、これは……。静かにトイレから出て、着替えをしようとタンスに手を掛けた。

 「……しまった」

 今日は高校の入学式である。勇美が入学する『緑山高校(みどりやまこうこう)』は、私服登校が認可されている。しかし、入学式は制服での参加だ。確実に、勇美が購入した制服は女子用である。この体で女子制服を着るのは、色々と問題な気がした。顔も元々男っぽいし、と心の中でつぶやく。    立ち上がり、タンスの横に掛かっている制服を取った。ここでまた、違和感。スカートが長い?紺色のブレザーに灰色のチェック柄の……スカートのはずだった。今勇美が手に取っているのは、同じ柄の、男子制服である。ここで、夢の中のキンキラキンばあちゃんの言葉が頭をよぎった。


 『なら願いを叶えてあげましょ。大丈夫、都合のいいように細工するから』


 「これかよ!」

 思わずツッコミを入れてしまった。

 ピンポーン。ツッコミが正解、という効果音ではなく、この部屋のインターホンが鳴ったようだ。はははい!と慌てて返事をして玄関へと向かった。そっと扉を開くと、小柄な少年が立っていた。黒髪短髪で、『可愛い』といった感じの印象を受けた。

 少年は勇美と目が合うと、少し目を見開いた。どうしたのだろう、と首を傾げるが、自分が上半身裸であることを思い出した。気づくと同時に両腕で胸を隠すと、少年は吹き出した。

 「僕男だから気にすることないのに!」

 クスクスと笑われ顔が熱くなっていく。どうやら自分は紛れもなく男になったようだ。新鮮な気持ちにニヤけそうになるが、冷静さを取り戻して何の要件で来たのかを尋ねた。


 「あ、うん、ごめんごめん。なんか叫び声とか鈍い音とかしたから、心配になっちゃって。……大丈夫?」

 「あっ……だ、大丈夫、です」

 男との会話が慣れていない勇美は口ごもりながら答えた。それを聞くと少年は安心したように笑った。

 「えへ、よかった。僕は白川龍二(しらかわりゅうじ)!今日から緑山高校の1年生なんだ」

 「あ、わ……オレは神田勇美。オレも今日、入学式」

 「そっか、同じクラスだといいね!じゃ、また学校で」

 龍二は、まだ胸を隠していた勇美の腕を剥がし、握手をし、走り去ってしまった。されるがままの勇美は時計を見た。ぼやけてよく見えないけど、そろそろ朝食を食べなきゃなぁ。制服を汚すわけにはいかないので、タンクトップと床に落ちていたTシャツを着て朝食の準備を始めた。


 祖母はどこまで都合のいいようにしてくれたのだろう。友人や両親の顔が頭に浮かぶ。しかし、ここは幸いにも地元から遠い場所だ。しばらくはどうにかなるだろう、と考えることを放棄した。朝から疲れることばかりで、入学式どころではない。自分の受け入れることの早さには驚いたが、人生が変わったという実感はないのだ。というよりも、予想がつかなかった。ごちゃごちゃと考えている間に、朝食は食べ終わり、登校の準備まで終わってしまった。とりあえず行くしかない。リュックを背負い、学校への道を歩き始めた。

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