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第いってんごの人生  作者: 楽haku
第1転
3/9

人は見かけによったりよらなかったり

 コケコッコー。

 玄関から出た途端、今日の目覚まし時計となった鶏が鳴いた。そういえば、学校からは少し離れた所にあるこの下宿先『えがおの(みやこ)』には、鶏がいたり畑があったりすると、説明会のときに聞いた覚えがある。ありがたいことにここは3食付きで、材料はほぼ自家栽培。住人が当番制で動植物の世話をするという条件により、家賃は格安である。こんな大事な話を勇美は「資料貰ったしいっか」と適当に聞いていた。当然、説明会の時にいた人々など覚えていない。先程来た龍二のこともだ。それより、彼は自分のことを覚えていなかったのか、と疑問に思った。が、眼鏡を掛けていないし、地味だから当然か、と、やや自虐的な理由で落ち着くことにした。

 徒歩5分はあっという間である。学校は目前だ。今日はやけに時間が早く感じる。早起きは三文の徳なんてことわざを考えたのは誰だろう。早起きなんて三文の……何だろう。校門をくぐったところで考えるのをやめた。


 「おはよぉ、勇美くんっ!」

 背後から聞き覚えのある声がした。突然の呼び掛けに肩を跳ね上がらせ、歩みを止めて振り向いた。龍二だ。同じ制服を身にまとい、満面の笑みを浮かべていた。

 「お……うん。はよ」

 正しく挨拶ができなかった気がするが、それを聞くと龍二は勇美の隣に並んだ。勇美が歩き出すと彼もついてきた。今朝に恥ずかしい場面を見せてしまったのでなるべく会いたくなかったのだが、今更どうにもできなかった。無言で二人きりというのは大変気まずいものであるが、男子と並んで歩くなんてことが久し振り過ぎて気まずさよりも緊張が勝っていた。

 「へー、勇美くん眼鏡なんだね。あ、今朝も言ったと思うけど、同じクラスだといいね?」

 沈黙に耐えれられなかったのか、ただ話したいから話し掛けたのか、龍二が問うてきた。

 「あ……そうだね」

 「えへへー、もしかして人見知りなの?」

 図星を突かれ、苦笑いを返す。龍二もつられて苦笑い。こいつと同じクラス……。フレンドリーな人は嫌いではない。男になってしまったわけだし、最初に龍二に出会えて良かったのかもしれない。

 「ほら、あそこにクラスが張り出されてるよ!行こ?」

 昇降口に大きな紙が、何枚か見えた。ちらほらと生徒や保護者の姿も見える。勇美は頷き、クラス表の前に立った。全5クラス。名前はすぐに見つかった。

 「2組か……」

 「え、ほんと!?僕も2組だよぉ!やったぁ、ほんとに同じクラスになれたね?」

 同じ背丈の彼は、こちらを向くとちょうど視線が合う。

 「そだね。よかった」

 感情のこもっていない声に、笑顔が作れない顔であるが、内心、勇美はとてもホッとしているし嬉しくもあった。男子が苦手な上にこの体になってしまった以上、学校生活は孤独なものになるだろうと思っていた。龍二のおかげで、どうにかぼっちは避けられそうであった。二人は受付で新入生に向けた資料を受け取り、上履きに履き替えて教室へ向かった。


 教室に入ると、数人の生徒が既に来ていた。勇美がすぐに自分の机に向かおうとするが、それは叶わなかった。龍二に引っ張られ、女生徒の所まで一直線である。

 「ちょ、龍二くん?どうしたの」

 「え?女の子とは早く仲良くなっといたほうがいいでしょ?」

 先程までの無邪気な笑顔とは違う。目が光っていた、気がした。勇美はこの体になってから女子と関わるのは初めてになる。初対面の人と接することも苦手であるが、今は別の緊張でいっぱいいっぱいだ。二人は、会話を楽しんでいた女子二人の前までやってきた。

 「あっ、はじめましてー!!あたし、平山雪乃(ひらやまゆきの)でーす!」

 二人の姿に気づき、元気よく自己紹介をした彼女は、黒髪のポニーテールで、肌は健康的に焼けている。そして、とてもスポーツをしやすそうな体型であった。勇美にとっては羨ましい限りだ。立ち上がって龍二とハイタッチまでしてしまうノリノリな彼女とは対照的に、先程二人が近づく前に雪乃と会話をしていたもう一人の女子は、椅子に座ったままこの光景を大人しく見つめていた。肩まで伸びた黒い髪の毛を耳に掛ける仕草は大人っぽいものであるが、顔は幼く、純朴な女子高生といった感じで好印象を受けた。

 「えーとぉ、君は?お名前教えてよ!僕は白川龍二っていうんだ」

 椅子に座っていた彼女は話し掛けられると思っていなかったのか、問われると肩を跳ね上がらせて立ち上がった。勇美はこの反応にデジャヴを感じたが、なるほど、自分だった。

 「私は……あの……足立晴夏(あだちはるか)、です。よろしくね……」

 龍二は、か細い声で答えた彼女の手を取り握手を交わした。本当にフレンドリーだな、と勇美は感心した。握手を終えた龍二は、勇美のほうを見つめてきた。一瞬、なんだお前と思ったが、自分だけ自己紹介をしていなかったことに気づいた。

 「オレは神田勇美。まぁ、仲良くやっていこうね」

 引きつった笑顔で自己紹介をし、二人と握手をするという下りを終えて勇美は小さく溜め息をついた。違和感は感じられていないようだ。少し複雑な気持ちになったが、そのうち慣れるだろうと前向きに考えた。


 そのあとおしゃべりをしていた四人だが、いつの間にか教室は人が増え賑やかになっていた。チャイムが鳴り、生徒は席に着き始めた。四人も会話を中断し、それぞれの席へ向かった。勇美は一番後ろの席だ。ラッキーと思いながら着席した。男女混合の名簿順で、目の前に座るのは男子だ。自分の席に座る前に見たのだが、第一印象は、俗に言う『チャラい』。目の前の茶髪は嫌でも視界に入る。目も切れ長で怖そうだったし、チャラいのは苦手だし、せっかくいい席になったのになんか席替えしたい、と勇美は落ち着かないでいた。


 「なあ、ティッシュ持ってねぇ?」

 「へい?」

 思わず間抜けな声を上げてしまった。茶髪くんが、鼻を手で覆い体をこちらに向けていた。片手はこちらに差し出されている。数秒かかって状況を理解した勇美はポケットティッシュを彼の手に乗せた。「ども」と短くお礼を言うと、彼は前に向き直って鼻をかんだ。呆然としていると、教室前方の戸が開かれた。

 「フン、ちゃんと席着いてるじゃないか。新入生の割には落ち着いているな」

 教壇に立った男は、スーツであることから教師であることがわかった。しかし、やたら前髪が長いし、何かおかしいと思ったらネクタイをしていない。そしてこの流れで来ると当然、勇美の目の前の男子に劣らない茶髪だった。なんとも若々しい先生である。

 「今日からお前らの担任になる新塚優弥(にいづかゆうや)だ。ま、普段は私服OKな自由な校風だが、こういうところはしっかりしてほしいものだな。常着よしの晴着なし。幸い式典の時は立派な制服がある学校だが、普段の私服にまであまり金を掛けないことだな。そういうことはデートに使え。せいぜい健全な青春を送ってくれ」

 言ってはいけないと思うが、出で立ち、口調を含めホスト臭がした。女子がざわついている。

 「こら、今から今後の流れを話すから俺に注目してくれ」

 うぜぇ。と、少し思ってしまった。


 新塚の話が終わったところで、茶髪くんがこちらを向いて先程貸したティッシュを差し出した。勇美は受け取ろうとティッシュを持つが、彼は手を離してくれない。怪訝そうな顔をして彼を見た。

 「名前教えて」

 「へ、は、神田勇美」

 「そう、ありがとな神田」

 彼はティッシュから手を離し、席を立った。また、彼の名前を聞きそびれたことに気づく。いや、聞かなくても、そういえば、と貰った資料の中からクラス表を探そうとしたが、体育館へ入場するようにと新塚の声が掛かった。また後で聞こうとクラス表捜索を諦め、体育館シューズに履き替えた。

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