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第6話 初実習

ドラグーン出現から約一か月。


世界中は依然として厳戒態勢を維持していた。


終焉の龍・ドラグーンは、あの日以来一度も姿を現していない。


しかし、その出現を境に各地のゲート活動は活発化し、モンスターの出現件数は明らかに増加していた。


IAMDAは世界中へ部隊を派遣し、日本対モンスター討伐隊『ZERO FORCE』も休む間もなく出撃を続けている。


国立能力者養成機関でも、それに対応するため訓練内容が変更されていた。


朝。


一年A組は校舎裏の広大な演習場へ集められていた。


大型モニターには日本各地の地図が映し出され、その上には無数の赤い印が表示されている。


ざわつく生徒たち。


桐谷教官は腕を組みながら前へ出た。


「静かにしろ。」


一瞬で空気が張り詰める。


「今日からお前たちは実習を始める。」


「だが、その前に知っておかなければならないことがある。」


教官はモニターを切り替えた。


映し出されたのは一つの巨大な裂け目。


「これがゲートだ。」


「モンスターはすべて、このゲートから現れる。」


画面が次々と切り替わる。


封鎖された市街地。


避難する住民。


展開する討伐隊。


「ゲート発生と同時に、IAMDAは直ちに討伐隊を派遣する。」


「同時に半径五キロ以上を封鎖し、住民を避難させる。」


「モンスターを外へ逃がさないためでもあり、一般人を守るためでもある。」


生徒たちは真剣な表情で聞いている。


「勘違いするな。」


「討伐隊はゲートへ入るわけじゃない。」


教官はそう言うと、画面に人体模型を映した。


「ゲート内部には超高密度のモンスターエネルギーが充満している。」


「人間が侵入すれば、その圧力に耐えられず肉体は内側から崩壊する。」


「能力者でも例外じゃない。」


教室が静まり返る。


「そのため調査は、第4部隊が特殊素材で作られた調査ドローンを使用して行う。」


「さらに特殊任務では、第4部隊の精鋭がリミットベルト装着者と同行し、入口付近まで接近することもある。」


画面が再び切り替わる。


ゲートから飛び出すモンスターの映像。


「興味深いことに、モンスターは必ず自らゲートの外へ出てくる。」


「だから俺たちは外で迎え撃つ。」


「討伐後、第4部隊が周辺を捜索し、生き残りがいないことを確認すれば任務終了だ。」


一人の生徒が手を挙げた。青木だ。


「教官!ゲートは勝手に閉じることはできないんですか?」


桐谷教官は首を横に振る。


「できない。」


「現在の人類には、その技術が存在しない。」


モニターには数値が表示される。


ゲート内のモンスター全滅からの存続期間


最短──七日。


最長──三〇〇年。


教室がざわつく。


「ゲートは自然に消滅する。」


「短いものは一週間。」


「長いものは三百年近く残り続ける。」


「だから世界中には、今も数え切れないほどのゲートが存在している。」


教官は一度言葉を切り、画面を切り替えた。


そこに映ったのは、世界地図に表示された八つの黒い印だった。


「だが、例外がある。」


「災厄級始祖種オリジンが出現した八つのゲートだ。」


生徒たちの表情が変わる。


「三百年前に確認されて以来、一度も閉じていない。」


「しかし、新たなモンスターが現れた記録も一切ない。」


「理由は、IAMDAでも分かっていない。」


静寂が流れる。


「だからこそ、お前たちは学ぶ。」


「分からないものを恐れろ。」


「そして、生きて帰れ。」


そう言って桐谷教官は木刀を肩に担いだ。


「説明は終わりだ。」


その一言で、生徒たちの空気が変わる。


「これより校外実習を行う。」


生徒たちがざわついた。


「マジか!」


林翔太が思わず立ち上がる。


「本物のモンスターを見るのか?」


大沢健吾も興奮した様子で拳を握る。


伊藤美咲は少し緊張した表情を浮かべた。


桐谷教官は静かに続ける。


「勘違いするな。」


「討伐が目的ではない。」


「現場を知ること。」


「能力者は敵を知らなければ戦えない。」


全員が真剣な表情で頷いた。


悠真も静かに席を立つ。


―――


訓練用バスに揺られること約一時間。


目的地は山間部にある管理区域。


周囲にはIAMDAの車両が並び、討伐隊員たちが警戒を続けていた。


「ここが実際の討伐区域……。」


木村彩花が小さく呟く。


焦げた木々。


巨大な爪痕。


えぐられた地面。


戦いの跡が、生々しく残っていた。


その光景に教室で騒いでいた林でさえ口を閉ざす。


桐谷教官が前へ立つ。


「今回確認されているのはE級モンスター。」


「ロックボア。」


モニターへ映し出されたのは、岩のような外皮を持つ巨大な猪だった。


「知能は低い。」


「しかし突進力は高い。」


「油断すれば能力者でも負傷する。」


その時だった。


森の奥から木々が倒れる音が響く。


ドォン!!


土煙を上げながら巨大なロックボアが姿を現した。


「来たぞ!」


桐谷教官が叫ぶ。


「各班、戦闘準備!」


一斉にリミットリングが輝き始める。


「能力解放!」


青木翔の身体へ風が集まる。


「行くぞ!」


風をまとった双剣がロックボアへ迫る。


続いて大沢健吾。


「うおおおっ!」


土の力をまとった大斧が振り下ろされる。


ロックボアは体勢を崩した。


そこへ高橋陽斗が静かに歩き出す。


「終わりだ。」


雷をまとった槍が一直線に突き出される。


バチィィッ!!


雷撃が走り、ロックボアはその場へ倒れ込んだ。


最後は木村彩花。


光の矢が放たれ、モンスターは粒子となって消滅した。


ロックボアの亡骸は青白い粒子となって空へ舞い上がる。


「これが……モンスターエネルギー。」


一年生たちは静かに見上げていた。


「これが……実戦。」


伊藤美咲は息を呑む。


生徒たちから自然と拍手が起こった。


しかし、その輪の中に悠真はいない。


能力を持たない彼は、安全区域で見学することしか許されていなかった。


(やっぱり俺は……。)


拳を握る。


その時。


ガサッ。


茂みが揺れた。


悠真だけが、その音に気付く。


視線を向けると、もう一頭のロックボアが木々の陰から姿を現していた。


「まずい……。」


その先には、立入禁止区域へ迷い込んでしまった幼い少女が座り込んでいた。


足をひねったのか、立ち上がれない。


ロックボアはゆっくりと少女へ近付いていく。


まだ誰も気付いていない。


間に合わない。


悠真は迷わず走り出した。


「神崎!」


桐谷教官の声が響く。


だが止まらない。


能力はない。


リングもない。


それでも――。


父の言葉だけが胸に響く。


『強さは能力じゃない。誰かを守る覚悟だ。』


悠真は少女の前へ飛び込み、木刀を構えた。


ロックボアが咆哮を上げる。


周囲の生徒たちは目を見開いた。


「神崎! 逃げろ!」


青木が叫ぶ。


しかし悠真は一歩も引かない。


「大丈夫。」


少女へ静かに笑いかける。


「俺が守る。」


ロックボアが地面を蹴った。


巨大な身体が一直線に突進する。


その瞬間。


悠真は身体をひねり、紙一重で突進をかわした。


「避けた!?」


斎藤蓮が驚きの声を漏らす。


続けざまに木刀を振り抜く。


狙ったのは頭ではない。


突進で無防備になった前脚の関節。


「はぁぁっ!」


乾いた音が響く。


ロックボアの体勢が崩れた。


「今だ!」


桐谷教官が叫ぶ。


高橋陽斗が雷をまとい飛び出す。


「雷槍――。」


一閃。


ロックボアは討伐された。


静寂が訪れる。


少女は涙ぐみながら悠真を見上げた。


「ありがとう……。」


悠真は照れくさそうに笑う。


「もう大丈夫だ。」


桐谷教官はゆっくり歩み寄る。


「神崎。」


悠真は怒られると思い、頭を下げた。


「申し訳ありません。」


しばらく沈黙が流れる。


そして桐谷教官は静かに口を開いた。


「命令違反だ。」


教室の空気が凍りつく。


「……だが。」


「よく守った。」


その一言だった。


クラスメイトたちは驚きながら悠真を見る。


能力はなくても。


あの状況で誰よりも先に飛び出した少年。


その姿は、全員の胸に強く焼き付いていた。


そして、この出来事を境にこの1年A組で、一つの噂が広まり始める。


「能力はなくても、神崎悠真は本物の能力者より勇気がある。」


その評価が、やがて悠真の運命を大きく変えていくことを――。


この時の彼らは、まだ知る由もなかった。

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