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3 僕と裏表とちーたん

人は誰しも、知られたくない過去を持っている。


忘れたい過去。

思い出したくない過去。

そして、思い出すことのできない過去。


ちーたんの中にいる”もう一人”は何者なのか。


その答えに近づくほど、僕は違和感を覚え始める。


それが過去からの警告だとも知らずに。


第3章どうぞお楽しみください。

 雨はいつの間にか弱くなっていた。


 街灯の光が濡れた道路を照らし、静かな夜が広がっている。


 僕は目の前に立つ青年を見つめた。


 つい数秒前まで、まるで別人だった。


 低い声。


 獣のような目。


 そして理解不能な言葉。


 だが今の彼は違う。


「えっと……」


 青年は困ったように頭をかいた。


「何かありました?」


 何も覚えていない。


 少なくとも演技には見えなかった。


「お前、本当に覚えてないのか」


「はい……」


 青年は申し訳なさそうに俯く。


「気が付いたら知らない場所にいることがよくあるんです」


「よくある?」


「はい」


 その言葉に僕は眉をひそめた。


 青年は震える声で続ける。


「服に血が付いていたこともあります」


 心臓が嫌な音を立てた。


「でも、何も思い出せないんです」


 青年は自分の手を見つめる。


「だから怖いんです」


 その表情は本物だった。


 もし嘘なら大した役者だ。


 だが僕にはそうは思えなかった。


「……名前は」


「分かりません」


「じゃあ、ちーたんって呼ばれていたことは?」


「それはあります」


 青年は少し考え込む。


「時々夢の中で聞こえるんです」


「夢?」


「誰かが僕をそう呼ぶんです」


 僕は黙った。


 彼の言葉はどれも曖昧だ。


 だが不思議と嘘には聞こえない。


 しばらく沈黙が続く。


 やがて青年が口を開いた。


「警察の人ですよね」


「ああ」


「僕を捕まえないんですか」


 真っ直ぐな視線だった。


 その質問に僕は答えられなかった。


 本来なら今すぐ応援を呼ぶべきだ。


 それが正しい。


 警察官として。


 だが。


 目の前の青年は、本当に凶悪犯なのだろうか。


 もし彼の言葉が本当なら。


 もし彼も被害者だったなら。


 僕は何を選ぶべきなのだろう。


「少しだけだ」


「え?」


「少しだけ話を聞く」


 自分でも驚くほど自然にその言葉が出た。


 青年は目を丸くする。


「ありがとうございます」


 その笑顔を見た瞬間だった。


 胸の奥がざわついた。


 初めて会ったはずなのに。


 どこかで見た気がする。


 遠い昔。


 思い出せないほど昔に。


 だが、そんなはずはない。


 僕と彼は今日初めて会ったのだから。


 そう自分に言い聞かせる。


 しかし違和感は消えなかった。


 むしろ大きくなるばかりだった。


 あの青年を見ると、懐かしさと嫌悪感が込み上げてくる。


 その理由を、僕はまだ知らない。

第3章を読んでいただき、ありがとうございました。


ちーたんの記憶喪失は本物なのか。


彼の中にいる”もう一人”は敵なのか、それとも味方なのか。


少しずつ謎が見え始めましたが、真実はまだ深い闇の中にあります。


そして主人公が抱いた、懐かしさと嫌悪感。


その感情には、まだ誰も知らない過去が隠されています。


これから先、二人の運命はさらに複雑に絡み合っていくことになるでしょう。


もし少しでも続きが気になったら、次章も読んでいただけると嬉しいです。


感想や評価も励みになります。


それでは、第4章でお会いしましょう。

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