第1話︎:働きたくない俺、異世界に落とされる
働きたくない。
それが、俺の人生のすべてだった。
朝起きるのも面倒。
仕事に行くのもだるい。
できることなら、一日中布団でごろごろしながらゲームでもして過ごしたい――そんな奴だ。
――そんな俺は、あっさり死んだ。
理由?
正直よく覚えていない。
強いて言えば、ゲームのやりすぎで寝落ちしたか、通り魔に遭遇したか……まあ、どうでもいい。
死ぬって、こういうもんだろう。
気づけば、真っ白な空間にいた。
空も床も、どこまで続いているのか分からない。
光も影もなく、ただ“白”だけが広がっている。
現実の世界ではありえない光景だが、妙に意識ははっきりしている。
「……ここは?」
耳を澄ませても、自分の呼吸音しか聞こえない。
どこかに出口があるわけでもなく、ただただ白い。
完全に、無の世界――だが、奇妙な安心感がある。
その時、突然声がした。
「よう、死んだな」
振り向くと、そこには――
ジャージ姿で、手にポテチを持った男が立っていた。
どう見ても神様には見えない。
「……誰だよ」
「神だけど?」
軽すぎる。
俺は一瞬、目をこすった。
「……神? 本当に?」
男は肩をすくめてポテチをかじる。
「まあ、そんなもんだ。暇だから、お前を異世界に送ることにした」
俺は思わず吹き出すところだった。
“暇つぶしに転移”? どんな神様だよ。
「……で、俺はどうすればいいんだ?」
神は、無造作に手をひらひらさせた。
「選べ。ここで消えるか、異世界に行くか」
「消える……?」
神はうなずく。
一瞬、俺は迷った。
このまま何もせずに終わるのも、案外楽かもしれない。
しかし思い直す。
「いや、待てよ。異世界って、なんか面白そうじゃん。剣とか魔法とか……」
でも心の奥底はこう言っていた――働きたくない、と。
だから答えは簡単だ。
「……行きたくない。働きたくないし」
神はしばらく沈黙した後、目を細めた。
「……は?」
「働かなくていいなら、行く」
「お前、ブレねぇな……」
ため息をつき、神は小さく笑った。
「ま、いいや。じゃあ特別にスキルをやろう」
突然、手をひらひらと動かす。
頭に何かが流れ込む感覚――
体中がビリビリと痺れたような感覚と同時に、情報が一気に入ってくる。
「……な、なにこれ?」
神は、まるで当たり前のように言った。
「お前に与えるのは“創造”スキルだ。理解しているものなら、何でも作れる。材料もいらないし、理屈も簡単。考えるだけで物ができる」
「……材料いらない? 理解してるだけで?」
「そうだ。能力の限界はお前の理解力次第。失敗もするけど、まあ慣れれば無双できる」
俺は頭の中でいくつか思い浮かべた。
ライター、石鹸、保存食……
すぐに作れるイメージが湧く。
「これ……俺、働かなくても生きていけるんじゃね?」
神は小さく笑った。
「その通りだ。下手すりゃ世界ごと支配できるぞ」
「……じゃあそれでいい」
即答だった。
働かない人生、最高だ。
神は少し考え込むと、最後に言った。
「一応忠告しておくが、そのスキルは本来人間に渡すもんじゃない。変なことしたら、責任は取れないぞ」
「気にしない。俺、働かないことだけは決めてるから」
視界が揺れ、意識が落ちる感覚。
次に目を開けたとき、俺は見知らぬ森の中に立っていた。
「……ここが異世界か」
静寂。
遠くで獣の鳴き声。
異世界の空気を吸い込むと、不思議とワクワクがこみ上げてくる。
そして手を開く。
頭の中のスキルでイメージしたライター――
指で弾くと、ポッと火が灯った。
「……マジでできた」
笑いがこぼれる。
働かずに生きる方法を、俺は手に入れたらしい。




