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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
5章 弐ノ異変 ~The phantasmagoria marvel ~
75/106

75.〈幕間④)楽園の小さな巫女・2




霖之助が作業部屋に入ってから小一時間程が経過しただろうか。


霖之助は仕立て直しが終わった巫女服を抱えて作業部屋から出て来た。


「霊夢、一応完成したよ。サイズの具合を見たいから早速着てみてくれないかな。」


「はーい、ご苦労様。」


そう労って霊夢は巫女服を受け取り、いそいそと隣の部屋へと入っていった。


「絶対入ってこないでよね!」


「......僕もレンも君の着替えなんか覗いたりしないよ。」


「......。」


気を悪くしたのか、勢い良く音を立てて霊夢は扉を閉めた。


......覗いて欲しいのか覗いて欲しく無いのかどっちなんだよ。


もしかして“なんか”とか言ったから気を悪くしたのだろうか?


いずれにしても僕には覗く度胸なんて無いけど。


なぜ霊夢が気を悪くしたのか分からない、とでも言いたげに隣できょとんとした顔をしているレンをちらりと見て霖之助は溜め息を吐いた。


数分後ーー。


着替え終わった霊夢が扉から出て来た。


「ふう......やっぱりいつものこの服が一番落ち着くわね。どう?似合ってるかしら?」


「いいじゃん。やっぱり霊夢は巫女服着ている方がしっくりくるなぁ。」


「えへへ......そう?」


うんうん、と頷くレン。


霊夢は嬉しそうにくるくる回って見せた。


巫女様ご満悦の様子。


サイズ感もバッチリのようだ。


いつもと同じ服を着ているのでまんま普段の霊夢のミニチュアって感じ。


......可愛いな。


「サイズも大丈夫みたいだね。」


「ええ、ありがとう霖之助さん。これでもうだぼだぼの寝巻きのままで生活しなくて済むわ。」


「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。」


「ほつれがひどくなったりしたらまた来るわね!」


「......今度はちゃんとお代を用意してお客として来て欲しいな。」


そりゃそうだ。


お代をあやふやにして踏み倒した挙句好き勝手煎餅を食べたりお茶を飲んだりして帰っていくのだから。


霖之助にとって霊夢は“客”ではなく“はた迷惑な奴”でしかない。


溜め息を吐きながらそう呟く霖之助を見て、レンは苦笑した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



香霖堂を後にしたのち、人里で少し買い物をしてから神社へと帰って来た。


のんびり縁側に座ってお茶を啜り、ほへっと息を漏らす霊夢。


「......ちっちゃくなってもすることは普段と変わらないのな。」


「別にのんびりしたっていいじゃないの。」


「あーあ、お茶飲んで縁側でごろごろして......境内の掃除とかしなくていいのか?」


「身体の大きさが元に戻ったらするわよ。この身体じゃ何やってもしんどいし。......そうだ、レンがやってくれればいいのよ。」


「何でだよ......少しぐらい自分で巫女のお仕事したらどうだ?」


「私箸より重い物持てないの......。」


「お前は富裕貴族の令嬢か!!」


「ねー、おねが〜い。」


「そんな上目遣いで頼んでも駄目!」


霊夢は胸の前で組んだ手を解いてちっ、と小さく舌打ちした。


......おいコラ舌打ち聞こえてんぞ。


「......まったく、しょうがないな。」


代わりに境内の掃き掃除くらいは代わりにやってやるか、と立ち上がったその時だった。


たたたっ、と軽い足音が鳥居の方から聞こえて来る。


「......ん?」


刹那。


背後から、腰のあたりに凄まじい衝撃。


「ぬわっ!?」


体幹を崩され、うつ伏せに倒れるすんでのところで右足を踏み出して耐える。


「お・に・い・さ・まーー!!驚いた?」


次いで耳に入ったのは元気な声。


「フ、フランか......驚いた。」


レンが優しく頭を撫でると、フランは嬉しそうにはにかんだ。


「ちょっとフラン、日傘も差さないで急に走り出したりしないの!今は曇っているからいいけど、急に晴れたりしたらどうするのよ?」


「まあまあ、お嬢様。妹様も久しぶりのお出掛けで気分が舞い上がっておいでなのでしょう。」


遅れてレミリアと咲夜も鳥居をくぐって境内へと入って来た。


「うわっ、めんどくさいのが来たわね。」


とか口では言いつつも満更ではない様子の霊夢。


その小さな姿を見て、吸血鬼姉妹とそのメイドは目を丸くした。


「わー、可愛い!ちっちゃい霊夢だ!」


「本当、霊夢そっくりですね。」


「まさか......霊夢に子供がいたとはねぇ。」


「......。」


説明するのも面倒くさいのでお前が説明しろ、と言わんばかりにこちらに視線を送って来る霊夢。


レンはレミリア達に霊夢が小さくなってしまった経緯を説明した。


説明を聞くなり吹き出したのはレミリアだ。


「何笑ってんのよ!」


「ふふ......だって。いくら寝惚けていたからって自分で置いておいた薬を飲むなんて......ねぇ?」


「うんうん......はっきり言って間抜けだよな。あっ......。」


気付けどももはや時既に遅し。


レミリアの相槌を打つと同時に思わず口走ってしまった。


オイオイオイ、死ぬわアイツ......みたいな目で咲夜がこちらを見ている。


「何ですって?今ちょっとよく聞こえなかったからもっぺん言ってみて欲しいんだけど♡」


巫女様にっこり満面の笑み。


やばい、悪寒が......。


「う、嘘嘘嘘!やだなぁ、本気で間抜けだなんて思ってるわけないじゃん!!」


慌てて訂正したが、霊夢の震えはおさまらない。


俺の命が危ない。


......三十六計逃げるに如かず。


逃走を試みようと踵の方向を180度転換した刹那......。


霊夢はフシャーッ、と飛びかかってきた。


レンに掴みかかり、ぽこぽこ殴る。


流石に小さな身体では思いっきり殴ったり胸ぐらを掴んだりは出来ないみたいだが......。


地味に痛い。


「痛い痛い!悪かったってば!本当ごめんて!勘弁して下さい!!」


必死に許しを乞うも、巫女様の怒りはおさまらない。


「まぁまぁまぁ、レンにも悪気はなかったんだし許してあげなさい霊夢。」


見かねたレミリアが間に割って入った。


「あんたがそれ言う!?」


「レンも事実を言ったまででしょう?......ぷぷっww」


「......ぶっ殺すわよ?」


「そんなにカリカリしないの。折角ちっちゃくなって可愛いのが台無しよ?」


そう言って霊夢の頭を撫でるレミリア。


「気安く触んな!!」


ぷりぷり怒る霊夢をレミリアは面白がってさらにうりゃうりゃ、と撫でる。


「......。」


なんだか一人取り残されたような心境のレン。


見れば、こちらのやり取りを見ているのに飽きたのか、フランと咲夜は何やら境内の隅に生えている植物をしゃがみこんで眺めている。


「ねえねえ咲夜、秋なのにつくしが生えてるよ!」


「それはスギナですよ、妹様。見た目は似ていますが、つくしは春のみ生えるのに対してスギナは秋でも元気に茂るんです。」


「へぇ......かわいいね。」


......あっちは平和だなぁ。


お茶でも淹れるついでに、巫女様のお怒りの熱りが覚めるまで避難しとこ。


レンは逃げるように台所へ向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




お茶を淹れて戻ってくると、さっきの霊夢の怒りは何処へやら。


霊夢はレミリアと楽しそうに談笑していた。


何はともあれ良かったと思いながらレンもその隣に座る。


お茶を飲みながらふう、と弛緩し切った息を漏らしていると。


フランが何やらじーっと霊夢の方を見つめている。


「ど、どうしたのフラン?」


「霊夢ちっちゃくてかわいいなって。今はフランの方がおっきいからフランの方がお姉ちゃんだね!」


「ふふ......そうね。」


ちっちゃい二人の会話を聞いていて、微笑ましくて思わず聞いていたレンも小さく笑ってしまった。


「ねえねえ、霊夢。」


「なぁに?」


「一回だけでいいからさ、フランのことお姉ちゃんって呼んでみて?」


「え、えぇ......?」


困惑する霊夢。


「フランねぇ、お姉ちゃんになるのが夢だったの。」


それを聞いて今度はレミリアと咲夜がくすくす笑う。


......微笑ましいなぁ。


「じゃあ、ええっと......フランお姉、ちゃん?」


霊夢はちょっと顔を赤くしてもじもじしながらフランのことをお姉ちゃん、と呼んだ。


「えへへ、はーい。」


呼ばれたフランは心底嬉しそうに霊夢を抱き締める。


......尊い。


その様子を見ていた三人は思わず両手で顔を覆った。


「仲が良いわねあの子達......ねぇ、レン?」


「だな。見ていて微笑ましいよ。」


頷くレン。


レミリアはくくく、と悪戯っぽく笑うと、何を思ったのか突然レンの膝の上にふわりと座った。


「ちょ......。」


「いいじゃない、別にこのくらい。フランだって貴方の膝の上に座ったりするでしょ?」


「まあそうだけれども......」


「私は駄目なの?」


そう言ってレミリアは上目遣いでこちらを見る。


うっ......その表情狡いぞ。


「べ、別にそんなことはないさ。全然構わないよ。」


うむうむ、と満足そうに頷くとレミリアは前に向き直って足をぶらぶらさせながら鼻歌を歌い始めた。


.....可愛いな。


ただなんか咲夜さんが物凄い形相でこちらを睨んでいる気がするのは気のせいかな。


「チッ......そこ代われ...........このロリコンが。」


とかぶつぶつ言っているのが聞こえて来るんだけど。


咲夜さん怖いよ!?


ふいにこちらへ振り向き、じーっと見つめてくるレミリア。


「......どうした?」


「......。」


「えーっと、その......」


「......。」


ーー近い近い、顔近いってば!!


文字通り目と鼻の先まで急接近されて顔を赤くするレン。


その様子を見て、レミリアはくすくす笑った。


......完全に弄ばれてるぞ、コレ。


なんだか気恥ずかしくて目を逸らすが、レミリアの真紅の瞳がそれを逃がさない。


視線を今度は左に移して逃げようとしたその時。


霊夢が両手を腰にあてて、むぅ......と頬を膨らませながらこちらを睨んでいるのに気がつく。


レンはそれを見てぎょっとした。


......なんか俺怒られるようなことしたかな?


何を言われるのかと内心びくびくするレン。


だが霊夢は特に何も言わず、レンの横にちょこんと座ると彼の手を握ってぐいっと引っ張った。


「れ、霊夢?」


「なんでレミリアが座ってんのよ......そこは私のポジションなんだけど。」


そっぽを向きながら霊夢はぼそっとそう呟いた。


顔が真っ赤になっているのを悟られまいとしているようだが、耳まで赤くなっているのでバレバレだ。


「なぁに?霊夢、妬いてるのかしら?」


そんな霊夢の仕草を見てレミリアが面白がるようにニヤリとした表情になる。


「べ、別にそんなんじゃないし!!」


「じゃあ私が座ってても別にいいじゃないの。ねぇ、レン?」


そう言ってレミリアはその華奢な腕をレンの背中に回した。


「お、おいレミリア?」


「ぐぬぬ......あんたそれ、私を挑発するつもりでわざとやってるでしょ!?」


「なんのことかしらねぇ〜。」


「ちょっと!良い加減レンから離れなさいよ!」


途端始まる幼稚な口喧嘩。


口喧嘩といっても霊夢が一方的にぎゃーぎゃー騒ぎ立て、レミリアがそれを軽くいなすような形。


「えぇ......。」


なんだか急に霊夢がレミリアに突っ掛かるし、咲夜は睨んでくるしでレンは困惑するしかなかったのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後、レンは口論する二人から逃げるように離れて暫くフランと神社裏の森で遊んだ。


そして神社へ帰ってくると、またもやいつの間にか霊夢とレミリアは和解してお茶を飲みながら再び縁側で楽しそうに談笑していた。


お前ら仲が良いのか悪いのかどっちなんだよ......。




やがて日も沈み掛ける頃、レミリア達は紅魔館へと帰って行った。


燃えるように赤い夕日が地平線へと沈んでいくのを見つめてほぅ、と溜息を吐くレン。


不意に霊夢が、レンの服の裾をくいくいと引っ張った。


「ねぇねぇレン、今日は私が夕飯当番なんだけど......」


「分かってるよ。その身体じゃ料理するのも一苦労だろうし、霊夢の身体が元に戻るまではご飯は俺が毎日作るよ。」


「......ありがと。なんか悪いし、私も手伝いくらいだったらするわ。」


「ああ、頼む。......少し休んだら準備に取り掛かろうかな。」


レンは一つ大きな欠伸をした。


その横に霊夢が腰掛ける。


「......。」


徐にレンは霊夢のその小さな頭をぽんぽんと撫でた。


「な、何よ?」


「いや、特に意味はない。」


「小さいからってあんま子供扱いしないでよね!」


「わ、悪かったよ。」


「......まあ別に嫌じゃないけど。」


ぷいっとそっぽを向いて、頻りに前髪を弄り出す霊夢。


「えっと......どゆこと?」


「うっさいうっさい!そんなこと聞くな!!」


「えぇ......?」


急に怒られて困惑するレン。


その様子がよっぽどおかしかったのか、霊夢はくすっと笑った。


そしてそっぽを向いたまま、


「......ばーか。」


と一言だけ呟いた。




ーー霊夢が元の身体に戻ったのは五日程後のことだった。





















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