表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方星剣異聞  作者: くぅすけ
5章 弐ノ異変 ~The phantasmagoria marvel ~
69/106

69.腐心と憎悪



背後から凄まじい爆発音が聞こえたが、レンは振り返らない。


脇目も振らずに真っ直ぐ天魔の楼閣へ。


入り口は一階にあるようだがわざわざ下に降りてそこから上に階段で上がるのもじれったいし、見張りの天狗と鉢合わせる可能性もある。


レンは高度を上げ、楼閣の最上階の窓を蹴破った。


甲高い音を立てて飛び散る硝子の破片と共に楼内へ飛び込んで受け身を取る。


刹那、巨大な玉座に座っている天狗と目が合った。


肘掛に肘をつき、その手に顎を預けている。


長い黒髪、同じく黒く切れ長の瞳にしゅとしていて整った鼻、そして形の良い唇。


一言でまとめれば“容姿端麗”といった印象。


背中には烏天狗達と同じような大きな黒い翼が生えている。


「......貴方が“天魔”か?」


「いかにも。私がこの妖怪の山の天狗達の棟梁、天魔さ。」


「単刀直入に問おう。貴方はこの里を源流とする川に流されている毒について......何か知っているな?」


「......さぁ、どうかな。」


「しらばっくれるな。山の神社の巫女である早苗を襲わせるなんていよいよおかしい。あんた、天魔じゃないだろう?姿は誤魔化せてもその身体から出ている魔物特有の魔力のおかげでバレバレだ。本物の天魔を何処へやった?お前は何を目的にこんなことをした?答えろ。」


「矢継ぎ早に問いを浴びせて......失礼な奴だね。そんなに知りたいのなら力ずくで吐かせてみるがいい。......出来たらの話だが。」


「っ!?」


ニヤリと笑った天魔の表情に嫌な予感を覚えて腰の剣を抜こうとした刹那。


背中に何か冷たいものが押し付けられた。


ーー剣先だ。


「剣を手放して床に置け。そのままゆっくり両手を上げろ。」


続いて背後から聞こえてくる無機質な感情を感じさせない声。


気配からして他にも何人かいるようだ。


ーーしまった。


側近の者が近くに潜んでいたのか。


先程白峯天狗は”八天狗“なる者達の存在を語っていた。


つまりは彼の他にもあと七人、同格の強さの天狗がいるわけだ。


そのうちの何人かが天魔の近くに警備兵としていてもおかしくない。


寧ろ強い者を要人の側に置くのは当然だろう。


迂闊だった。


ーーどうする?


反撃しても良いが、先程の白峯天狗クラスの者複数を相手にここで戦って勝てるだろうか?


第一今自分は背中に剣先をあてがわれているのだ。


挙動一つでも誤れば文字通り串刺しである。


ここはひとまず相手の要求に従って霊夢達の助けを待つべきか。


「......。」


レンは剣の鞘を剣帯から外し、静かに床に置いた。


「天魔様、この者の処罰は如何致しましょう?」


「生かしたまま牢に入れておいて後で抜け出されても面倒だ。殺せ。」


「っ、しかし......聞けばこの者、同胞達を一人足りとも殺傷していないとか。何か特別な理由があって山に入ってきたのでしょうし、話ぐらいは聞いてやっても......」


「ならぬ、殺せ。八天狗の一人だからと言って思い上がるなよ。楯突くならばお前も殺すぞ。」


「......承知しました。」


天狗は感情を押し殺すような声でそう答え、剣を振り上げた。


まずい。


このままでは霊夢達が来る前に殺されてしまう。


どうにかして天狗の斬撃を躱して剣を取り戻さなければ、と思っていたそのときだった。


天狗は剣を振りかぶったまま目にも止まらぬ速さで天魔の元へと迫り、剣を振り下ろした。


天魔はその斬撃を見切り、余裕を持って躱す。


「......なんの真似だ?」


「決まっているじゃないですか。“侵入者の排除”、ですよ。」


「侵入者は私ではなくあの小僧だろう?」


「確かに彼も侵入者ですが、貴方の方が優先的に排除するべき侵入者ですよ。我らが天魔様に扮して里を混乱に貶めた不届き者。」


「な、何を言っている!?私が正真正銘本物の天魔だっ!!あまり適当なことをぬかしていると本当に殺すぞ!」


「貴方のこの数日間の豹変ぶりに、先刻の山の巫女様への仕打ち、そして今しがたの若者の言葉で確信しました。貴方.......いや、お前は天魔様ではない。」


「貴様......ッ!無礼も大概にしろ!!私ではなくこの侵入者の言葉を信じると言うのか!?」


「お前こそ天魔様に扮してこの里を混乱に陥れようなどと無礼も笑止千万!その命を以って悔い改めるがいい!!」


天狗達のうちの一人がそう叫ぶと、皆剣を構えた。


それを見て天魔(?)は両手を上げて見せながら舌打ちをした。


「キヒヒヒッ......どいつもこいつも役に立たないねぇ。天魔の犬らしく従順にしていれば良いものを。」


次の瞬間。


天魔(?)が右手を振ると、すぐに広間中に禍々しい気を宿らせている濃紫の霧が立ち込め始めた。


霧は蠢きながら徐々に固まっていって、醜悪な姿の生物へと姿を変えた。


ーー魔物だ。


現れたのはグールやリビングデッド、リビングアーマーやスケルトン等のアンデッド系。


ざっと数えただけでも軽く二十はいる。


天魔(?)は薄気味悪い笑みを浮かべたまま、レンが先刻蹴破った窓から出ていった。


「待てっ!!」


その後ろ姿を追おうとするが、アンデッド達が唸り声を上げながら行手を阻む。


「くそ......っ!!」


レンがもどかしさに歯を食いしばった刹那。


幾重もの軌跡が閃き、アンデッド達を両断していく。


見事な剣の扱いを見せているのは......天狗達だ。


「人間、ここは私たちに任せてあんたは奴を追え!必ず討ち取って来い!!」


天狗達のうちの一人がそう叫び、レンの方へ先程没収したアルテマを投げた。


レンはそれを片手で受け止め、頷き返してから走り出す。


窓から空へ飛び立ち、偽の天魔の向かった方を追った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





木々の間を縫い、小高い山を超え。


偽天魔はまだ飛び続ける。


レンも全速力で飛ばしているので距離的に引き剥がされることはないが、一向に追いつけない。


どちらが先に飛ぶのを止めるかの我慢比べといったところか。


もしかすればこちらの魔力を枯渇させる為に持久戦を強いてきているのかもしれない。


まあそうなったらそうなったで魔法が使えなくなるので少し戦闘がきつくなるが、剣で戦えば良い話だ。


それよりも先程から気になっているのは......この辺りに立ち込めている歪な魔力だ。


非常に穢れているというか邪悪な質の魔力で、少し息苦しい。


しかも偽天魔を追って進むうちにどんどんその濃度が濃くなっている。


嫌な予感がする。


そう思った矢先、偽天魔は山肌にぽっかりと口を開けている洞窟へと入っていった。


レンもそれを追って洞窟内へ入る。


洞窟内は真っ暗だった。


中まで外の光が届かず、草木はおろか苔すら生えていない。


かなり深いところまで続いているようだ。


光魔法で明かりを灯し、偽天魔を追って自らも洞窟の奥の方へと進もうとしたその時。


暗がりから悍しい呻き声が聞こえてきた。


一体や二体ではなく、相当な数が暗闇で蠢いている。


刹那、飛びかかってくる影が一つ。


相手とすれ違うような形で躱し、振り向きざまの抜き打ちの一閃。


剣は“影”の頭部を貫いた。


腐った肉を断ち、妙に柔らかい骨を砕くような鈍くて不快な感触。


“影”は地面に崩れ落ち、絶命する。


否、()()()()()()()()のだ。


地面に横たわっている屍。


その腐り切った頭部から地面へとぶちまけられた脳漿を見て、レンは思わずえずいてしまった。


「うっ......。」


ーーリビングデッド。


生ける屍である。


......偽天魔の使い魔か。


毒といい使役する使い魔といい、趣味の悪い奴だ。


リビングデッドやらリビングアーマーやらアンデッド系の魔物が次から次へと押し寄せて来る。


「くそっ......急いでいるのに!!」


レンは剣を正眼に構えて、魔物の群れへと突っ込んでいった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーどれ程の数の敵を斬っただろうか。


迫りくる屍共を次々と斬り伏せ、肉体を持たぬ鎧の魔物達は魔法で吹き飛ばすか力任せに鎧ごと打ち砕く。


狭い道を塞ぐ魔物達を片っ端から駆逐して突き進んでいく。


斬れども斬れども敵は湧いて来る。


袈裟掛け、下段薙ぎ、後手構えからの突き。回し蹴りを挟んで一歩前へ踏み込み、空斬り上げへと繋げる。


洞窟内には血なまぐさい臭いと肉の腐ったような異臭が充満している。


あれほどの数いた魔物達も気付けばもう最後の一体。


それでもなお怯むことなく呻き声を上げながら飛びかかって来る。


勇猛果敢というよりかは恐怖を感じる知性すら残されていない故の暴走だろう。


首元を狙って一閃。


胴と頭が呆気なく分断される。


胴はその場に崩れ落ち、頭は壁に衝突して潰れた。


刀身にべっとりと付着した血や体液を振り落とし、レンは剣を鞘に納める。


先刻まで煩かった呻き声が嘘だったかのように消え去り、耳が痛い程の静寂が訪れた。


辺りに転がっている屍や鎧の残骸を一瞥してから、レンは洞窟の奥へと進んだ。



※※※



暫く洞窟内を進むと、やがて広い空間に出た。


洞窟の最深部だろうか。


そこに立っている一つの人影。


その姿を見た時、レンは思わず息を呑んだ。


偽天魔はもはや麗しい天魔の姿ではなく、醜悪な姿に変わっていた。


見ていてゾッとする程青白い肌に真紅の瞳。身体の所々は腐り落ちたかのように肉がなく、骨が剥き出しになっている。


まさにゾンビのような、生きた屍がそこには立っていた。


「キヒヒヒッ!あ〜あ、変化魔法が解けちゃったよ。あの姿案外気に入ってたんだけどな。」


「お前は......」


「僕は“神魔軍将”ヴィネ=ノルーヌム。やっと会えたね、《天星剣》。」


ーーやはり神魔軍将か。


先刻魔物を使役していたので薄々勘付いてはいたが。


まあ神器持ち(レガリアル)ではないだけまだましだとするべきか。


「君、今神器持ち(レガリアル)じゃないからって僕を見縊ったでしょ?」


「......。」


「もう気付いているだろうけど、僕はあらゆる毒を使役することができる。」


ヴィネが指をぱちりと鳴らすと、天井の岩肌に巨大な魔法陣が現れた。


刹那、レンは心臓を圧迫されているかのような苦痛に襲われた。


「うぐっ......!?」


「あははっ、苦しいだろう?呼吸器に直接負担をかけて身体機能を低下させる魔法毒の魔法陣をあらかじめここに敷いて置いたんだ。あと何分持つかなぁ?」


胸を押さえながら辛うじて地面に伏すまいと負荷に耐えるレンを見てヴィネはにやにや笑っている。


「君のせいで僕の計画は台無しだ。あのまま川に毒を流し続ければもう少しであの里を滅ぼせたのに。しぶとい奴らだよ、本当。」


「お......のれ............っ!!」


「まあいい。使えない天狗共の棟梁なんかやめて、直接里を滅ぼしにいく。だが......その前に君を処刑しなきゃね。このヴィネ様の手を煩わせるようなことしちゃってさ!!」


ヴィネは地面を蹴り、疾走。凄まじい速さでレンに肉薄する。


「っ!!」


殴打を辛うじて躱し、後ろへと飛び退る......が脚に力が入らず、着地に失敗しそのまま地面に転倒してしまった。


ヴィネは薄気味悪い笑いをたたえながらこちらへ歩いてくる。


身体中から力が抜け、上手く立つことができない。


毒による衰弱のせいで剣の柄を掴んでも抜くことすらできない。


「キヒヒヒッ......無様だなぁ。」


地面に転がったまま立ち上がれないでいるレンの腹をヴィネは思いっきり蹴り付けた。


「が...はっ........!?」


衝撃で吹き飛ばされ、岩肌に叩き付けられる。


あまりの激痛に視界が明滅した。


「ほら......立てよッ!!」


ヴィネはレンの胸ぐらを掴み、無理矢理立たせると岩肌に押し付けて何度も何度も殴った。


「うっ.........」


地面に崩れ落ちたレンを再び執拗に蹴り付ける。


「君みたいなの、見てて反吐が出るんだよ!人のためだ何だって知ったこっちゃねえ。他の奴らを助けて何になるんだよ?君はそれで得をするのか!?あ!?」


「......。」


「何だよ、幻想郷を守るって?守ってどうするんだよ?あんなたかが虫けらみたいな人間共、何人死のうが構わねえだろ。自分さえよけりゃそれで良いんだよ!多分他の人間たちだってお前みたいに凄まじい力を持ってたら他人を見捨てて自分のことを守ることしか考えねえだろうさ。甘っちょろい考えしてるからこういう苦しい目に合うんだよ。」


膝蹴りが腹に入り、レンは血を吐いた。


その後も一方的な暴力は続く。


散々に殴り、蹴られる。


血だらけになったレンは地面に投げ出され、そのまま微動だにしなくなった。


「......。」


「......もはや喋る気力も無いか。」


ヴィネがレンの頭を掴み、持ち上げてその鋭い爪で首をかき切ろうとした刹那。


不意にレンの腕が動き、ヴィネの手を振り払った。


「ほう......まだ立つのか。」


「......死ねない。」


「何だって?」


「守るべきものがあるから死ねない。」


「まだそんなことを言うとはね。君はよほどの馬鹿なのかな。」


「お前みたいに自分さえよけりゃ良いみたいな生き方をしている奴には分からないだろう。さっきから黙っていれば“虫けらみたいな人間共”とか“何人死のうが構わない”とか抜かしやがって。巫山戯るなよ。」


「事実を言ったまでだよ。残念だなぁ......君はもう少し賢い人間だと思っていたのだけれど。」


「そんな生き方をする奴が“賢い”ならば俺は永遠に“馬鹿”で良い。自らの望む世界や幸福だけのために罪も無い人々を躊躇無く殺して......お前みたいな奴らを見ているとこちらこそ反吐が出る。殺す。何があってもお前だけは必ず殺す。」


「ほう、威勢の良いことだ。だが君はこの魔法陣がある限り毒を患い続ける。このまま放って置いても死ぬのは時間の問題だ。」


ヴィネはそう言い放ち、レンを小馬鹿にするような薄笑いを浮かべる。


ーーくそっ!!


今すぐにでも剣を抜いて奴の首を撥ねたい。


だが、毒による身体の衰弱のせいで今は立っているだけでやっとだ。


せめて身体がもう少し自由に動けば......。


そう思った時だった。


レンはふと首元から温もりを感じた。


不思議に思い、自分で首元をまさぐる。


熱源はーー


ーー霊夢から貰ったお守りだった。


首から提げていたお守りは仄かに淡い輝きを放ち、熱を帯びている。


「.....,。」


赤の生地に白い刺繍の入ったお守り。


どこか嫌な予感がしていて、こうなることをある程度予測していたから霊夢はお守りを持たせてくれたのだ。


ーー神様、どうかアイツを......レンを守ってやって下さい。


少しぶっきらぼうだけど、レンの安全を願う確かな優しさがそこには込められている。


彼は無意識のうちにそのお守りを握り締めていた。


すると。


どうしたことか、先ほどまでの衰弱が嘘のように身体に感覚が戻って来る。


「......っ!!」


身体が動く。


ーーまったく、今回は霊夢に助けてもらってばっかりだな。


......いや、今回「も」か。


手足を自由に動かせるようになったレンは不意をついて上へと飛び上がった。


「何っ!?」


「ヴォルガノンッ!!」


使える限りで最高威力の炎呪文を魔法陣の敷かれている地面へと撃ち込む。


着弾直後、凄まじい爆発。


辺り一体を熱波が包み込み、盛大に砂埃が舞った。


徐々に砂塵が収まってきて視界が開けていく。


地面にはぽっかりと大きな穴が開いて魔法陣は消滅していた。


レンはそのまま高度を下げて地面へと降り立ち、ヴィネと対峙する。


ヴィネのその顔からはもうあの気味の悪い薄ら笑いは消えていた。


「さあ......仕切り直して正々堂々勝負といこうじゃないか、神魔軍将。可愛い可愛い俺の弟子を苦しめた代償......軽く済むと思うなよ。」


鋭い音を立ててレンは天星剣を抜き放った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ