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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
3章 壱ノ異変 ~Malice and Cursed Masquerade~
36/106

36.少年の覚悟


「ほう......面白い術を使うんだね。《天星剣》と......博麗の巫女だっけ?」


ヴェルディウスはわざとらしく両手を上げる素振りを見せた。


その挑発じみた態度と言動に、霊夢が眉を寄せる。


「......あんた、本当にムカつくわね。いちいち言動が鼻に付くというか......レンの言っていた“魔族”って皆こんな風に外見も中身も醜悪なのかしら?」


「一応これでも私は魔族の中でも“貴族”と呼ばれる高貴な身分なのだが......まあ自分よりも身分が上の者に対する口の聞き方も知らない哀れな下民には多少の無礼も許容してあげよう。私の狙いは取るに足らないような君じゃなくて《天星剣》一人だ。」


むきーっ、と地団駄を踏む霊夢。


どおどお、落ち着け落ち着け。


「......ヴェルディウス。一つだけ聞きたいことがある。」


「何だね?《天星剣》の名に免じて答えてやろう。」


「西行妖の封印を解いたのは......お前なのか?」


「西行妖?何だそれは?悪いが、知らないことを聞かれても答えることは出来ない。」


「そうか......。」


嘘を吐いている可能性も否定はしきれないが、嘘だと断定することもできない。


どの道これ以上何を聞いても有益な情報は得られないだろう。


「さて......」


ヴェルディウスはレンの方へと指を突き付けた。


「何故陛下は君をあれほどまで恐れていらっしゃるのか私にはよく分からないが......直々に御命令を受けた故、その命令に背くわけにはいかない。尻尾を巻いて逃げた負け犬に止めを刺すのも気が引けるが、死んでもらおう。」


「......戯れ言を。吐いたことを後悔させてやる。」


剣を構え直し、低い声で返す。


その様子を見たヴェルディウスはパチリと親指を鳴らした。


すると次の瞬間彼の手の中に翡翠色の長杖が現れる。


柄に取り付けられた同じく翡翠色の水晶......。決して華美な装飾が施されているわけでは無いが、見た目の美しい杖だった。


ーーあの杖はただの杖じゃない。


直感的にそう思った。


同じ空間にいるだけで肌がピリピリするほど強大な魔力を放っている。あの杖が出現した瞬間霊夢が張った結界が軋み始めた。


「では改めて。私は”《智月杖》ミレコス“のムル=ヴェルディウス。又の名を“仮面の呪伯爵”。勝負だ、《天星剣》。」


......神器持ち(レガリアル)か。


ーー“《智月杖》ミレコス”。


星王ヴァハムートと偽りの神ハグネの戦いーーマクヴェリア戦役においてヴァハムートと共に戦った者達の一人、“賢者イグネル”が用いたと言われる“伝承神器”である。


古代に神々が月の力を凝縮させて精製したものから削り出して作られたと伝えられておりその魔力吸収力を超える杖は未来永劫作成不可能であると謳われるほどの性能を誇る。


ーー何故そんな杖を神魔軍の将が持っているのだろうか。


レンは頭の中に湧いて出た思考を切り捨て、ヴェルディウスへと突進する。


あの杖は神器。レンの”《天星剣》アルテマ“とほぼ同格であることは間違いない。


彼に遠距離から好き勝手魔法を撃たせてはいけないと考え、彼は先手を切って近接戦闘に持ち込むことにした。


「フゥッ!!」


初手ーーヴェルディウスの右腕を狙った神速の突き。


ーー杖で弾かれる。


神器と神器が衝突して青白い火花が飛び散った。


そらされた剣先を引き戻して同時に腰を捻った。遠心力を利用した左から右への横薙ぎ払い、袈裟斬り、切り上げ。


同じく全て弾かれてしまう。


次なる攻撃へ移ろうと剣を振りかぶった瞬間、ヴェルディウスの杖が輝いた。


「......ッ!?」


「エストレア。」


ヴェルディウスの冷たく無機質な詠唱の声が響き渡る。


刹那巨大な岩塊が飛来し、レンに衝突。


「あっ......!!」


霊夢はボロ切れのように吹き飛ぶレンを見て思わず声が出るが、直後彼が受け身を取るのを見て胸を撫で下ろす。


反射的に剣を盾にしていたようだ。


「ぐっ......。」


ーー危なかった。


反射的に剣を盾にしたため浅い傷で済んだが、反応できていなければどうなっていたことやら。


杖の性能もあるが流石神魔軍将というだけのことはある。


呪文の威力が凄まじい。


戦慄するレンが視線を前に戻すと、ヴェルディウスはもう次なる魔法攻撃に向けて詠唱を始めていた。


「インフェルノ......パラレル・ユニット、インパルス。」


ヴェルディウスの詠唱と同時に悍しい数の火球が頭上から、そしてヴェルディウスの持つ智月杖からは高電圧の電の弾が曲線を描いてレンと霊夢の方へ飛来する。


ーー並行詠唱......!?


同時に二つの魔法を操って見せるヴェルディウス。対する二人は頭上から落ちて来る火球と横薙ぎに飛んでくる雷弾の僅かな隙間を縫って避けていく。


ーー大丈夫、私ならやれる。


この程度の弾幕これまでに何度も避けきってきたんだから。


時折魔法が服を掠っていく感覚に柄にも無く冷たい汗をかきつつも心を落ち着かせることに努めて回避に徹する霊夢。


......あいつは大丈夫かしらーー。


ーーすぐ隣で自分と同じく弾幕を避けているはずの少年の安否が気になり、そちらへ一瞬目を向けた瞬間だった。


「ラファーガ。」


突然ヴェルディウスが放った風魔法が霊夢の方へ飛んでくる。


「......ッ!!」


ーーしまった。


避けようにも弾幕の密度が高すぎて少しでも今いる位置から動けば火球と雷弾が容赦なく彼女の身体を穿つ。


そんな彼女を嘲笑うかの様に鋭利な風の刃が彼女の元へと一直線に迫る。


弾幕の隙間から一瞬見えたヴェルディウスの顔には悪意に満ちた歪んだ笑みが浮かんでいた。


ーー畜生......あいつ......。


直撃を免れられない、と目を瞑った霊夢。


刹那。


「霊夢危ないッ!!」


弾幕の嵐の中を突っ切ってきたレンが霊夢を地面に押し倒し、彼女の上に覆い被さる。


直後、その背中を容赦なく数々の弾幕が抉った。


ーーえ......?


「ぐッ......。」


「ちょ、あんた......」


「......大丈夫だ。こんな傷、すぐに治る。」


彼はすぐに立ち上がって自らの背中に治癒魔法を施そうとしたが、足が全く言うことを聞かないようで片膝をついてしまった。


「全然大丈夫じゃないでしょ!!何でそんな無茶をするのよ!?私なんか放って置けばよかったじゃない!!」


「霊夢こそ怪我は無いか?」


「......。」


ーー何故?


私は貴方に酷いことを沢山言ってきたのに。


こんなにふてぶてしい態度を取っているのに。


どうしてそれでも貴方は私を庇ってくれるの......?


「ククク......愚かだね、《天星剣》。わざわざその娘を庇わなくたって君が魔法弾を全て避け切れば反撃ぐらいはできていただろうに。」


レンを愚かだと嘲笑するヴェルディウス。


「るって......たん...だ。」


「ん?」


「......守るって誓ったんだ。自分が死ぬよりも、誰かを失う方がもっと苦しい。もうあんな思いは二度としたくない。お前達に......この地を、人々を、幻想を。これ以上傷付けさせたりはしない。」


少年の覚悟を聞いて、霊夢は息を呑んだ。


自分が死ぬよりも誰かを失う方がもっと苦しい。


少年は今そう言った。


まるで誰かを失った上に自分も死ぬという体験をした事があるみたいな言い方だ。


だが彼がそんな経験をしたわけがない、と割り切ってしまうことができない程に彼の瞳は真剣だった。


レンは剣を地面に突き立て、それを支えにして立ち上がった。


「霊夢。」


「......なに?」


「ヴェルディウスは攻撃魔法の扱いは見ての通りだがそれ故の自負があるからなのか結界魔法の類を一切自身の体に張っていない。これはどう言うことか分かるか?」


「攻撃することに関しては得意だけど攻撃を一度でも食らってしまったら脆いってことかしら。」



「その通りだ。いくら魔族であろうと生身の身体で弾幕を受ければただじゃ済まないはず。俺が身を挺してでも奴の隙を作るから、霊夢はあいつにとどめを刺してやれ。」


「......。」


レンの身体が満身創痍なのは火を見るよりも明らかだ。ましてや自分を庇うために傷だらけになった彼を囮にするわけにもいかない。


「俺はこの怪我だし、どうせもうまともに剣も振れない。それに奴にとどめを刺せるほどまで強力な魔法を撃つ魔力も残されていない。」


「そんなことをしたらあんたが......。」


「大丈夫。身を呈すって言っても最悪の場合の話だ。まだ相殺するための魔法を何発か放つぐらいの魔力だったら残ってる。素直にやられる気はさらさら無いよ。」


彼はそう言ってにかっ、と笑って見せた。


ーー嘘だ。


あれほどの数の魔法を相殺するだけの魔法を撃つ魔力も本当はもう残されていない。文字通り身を呈してでも彼の隙を作ることになる。だがこうでも言わない限り彼女は自分が囮を引き受けると言って聞かないだろう。


その言葉を聞いて安心したのか或いは彼の覚悟を汲み取ったのか。


彼女は首を縦に振った。


「十秒で隙を作る。ヴェルディウスに通用するかは分からないから一か八かの賭けになるけど......これぐらいしか策が思いつかない。いいか?俺が地面を飛び立ってからきっかり十秒間、霊夢は俺を信じてここで目を瞑っていてくれ。十秒数えたら目を開けて、霊夢が使えるうちで最高火力のスペルカードを奴に叩き込むんだ。」


「......分かった。」


霊夢の返事に、今度はレンが頷いた。


「さぁ、話は終わったかな。《天星剣》、君の覚悟がどれ程のものなのか見せてもらおうか。」


ヴェルディウスが杖を掲げると、今度は闇の波動が数えるのも億劫になる程の数生成された。


それを見て、レンは剣を鞘に納めた。


「......何の真似だ?」


ヴェルディウスの問いに少年は答えない。


ただただ強い輝きを湛えた瞳で、真っ直ぐにヴェルディウスを見据えてそこに立っていた。


ヴェルディウスはその姿を見て舌打ちをする。


「君のその瞳が気に入らない。何故絶望しない?何故光を失わない?......忌々しい。」


「絶望なんてする訳ないだろう?だって......負ける気はさらさら無いんだから。」


そう答え、満身創痍の身体を鞭打って彼は地面を飛び立った。


ーー10、9......。


身体中が悲鳴を上げる。まだ血の止まっていない傷口から血が滲み出す。それでも彼はヴェルディウスの元へと真っ直ぐに飛んでいく。


何としても隙を作って見せる。


「重ね重ね愚かな。そんなに死にたいのなら......いいだろう。この世に別れを告げるがいい。」


ーー8、7......。


生成されたまま静止していた闇の波動が一斉にレンの方へと飛来する。


それに対しレンは手を掲げ。


「トランスファー......ルミナス!」


闇と対極属性である光魔法を変形魔法で形状変化。盾状に変形させた光粒子を構え、弾幕の嵐へと突っ込む。


「ぐっ......!!」


理不尽な量の弾幕が、”光の盾“を貫通して彼の身体を抉っていく。


ーー6、5......。


その様子を見てニヤリと口の端を上げて嗜虐的な笑みを浮かべるヴェルディウス。


ーー4、3......。


だが次の瞬間。


「......解放(バースト)ッ!!」


少年は“光の盾”を放り投げ、光の素因を”解放“した。


「なっ......!?」


ヴェルディウスは少年が起こした予想外の行動に絶句した。すぐさま光魔法を相殺するべく、闇属性の魔法を放とうとするがもう遅い。


解放された光の粒子は爆発的に飛散、レン諸共周囲の闇魔法を飲み込んで相殺し、世界から色を奪う。


「ぐあぁッ!?」


少年の方を直視していたヴェルディウスもまたその光に目を焼かれて視界を失った。


ーー2、1......!!


霊夢が目を開けた時、視界に入ったのは目を押さえて悲鳴を上げるヴェルディウスと......力なく四肢を投げ出して落下して行くレンの姿。


「レンッ!?」


ーー霊夢が初めて彼を名前で呼んだ瞬間だった。


だが。


落下するレンの方へ霊夢が駆け出そうとした刹那、レンは余力を振り絞って叫ぶ。


「霊夢......やれぇッ!!」


その悲痛な叫びを聞いて、彼女は踏み止まった。


最早力も尽きかけ、地面との衝突を待つだけというような状況下においても見開かれた彼の瞳は光を失っていなかった。


ーー俺に構うな。


奴にとどめを刺してこの戦いに終止符を撃ってくれ。


その瞳は彼女にそう訴えかけていた。



ーー駄目だ。彼が身を賭して作り出したこのチャンスをふいにしてはいけない。


踏みとどまった足先の方向をヴェルディウスの方へと変え、再び駆け出す。


「小癪なぁぁッ!!」


激昂するヴェルディウスが、未だ視力が戻らない目を押さえながら自身に防御結界を張るために智月杖を振りかざす。


「ウォレスt......」


「遅い!!」


呪文を詠唱しようとするヴェルディウスへ強烈な蹴りの一撃。


ヴェルディウスは衝撃で突き飛ばされ、その手から杖が離れる。


「がっ......」


すかさず彼女は自らの取っておきのスペルカードを宣言。


「レンを傷つけ、私を馬鹿にした罪......その身を持って償いなさい!!」


ーー霊符「夢想封印」。


放たれた色鮮やかな大光弾と札が弧を描いて飛び、ヴェルディウスへと炸裂する。


悲鳴を上げながら眩い光に包まれーーその身体は完全に消滅した。


それを見届けた霊夢は。


地面に倒れたまま動かないレンの元へと再び駆け出した。



※※※


時を同じくして。


離れたところで戦っていた魔理沙は、霊夢達が張った結界の方から眩い光が立ち昇るのを見た。


「おっ......?」


数秒前まで戦っていたはずの傀儡達が消滅していく。その様子を見ていたのか、人里の方から男達の歓声が聞こえてきた。感極まって抱き合う者や、その場にへたり込んで号泣する者。


人々は自分達の勝利を喜んでいた。


「やったか......。」


ぽつりと一言呟き、魔理沙はそばに落ちているボロボロになってしまったとんがり帽子を拾い上げた。


その汚れを叩いて落とし、頭に乗せる。


「あいつ、いっつもぜーんぶ美味しいとこ持ってっちゃうんだよなぁ。」


と言って霊夢とレンを探していると......。


離れたところに倒れているレンと、その横で今にも泣き出しそうになっている霊夢が視界に入った。


「やれやれ......まだ落ち着ける状況じゃないみたいだな。」


ボロボロのとんがり帽子をかぶり直し、魔理沙は霊夢達の元へと走った。






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