35.魔砲
一体どれほどの数の敵を葬っただろうか。
四方八方から振り下ろされる蛮刀やら鋭爪やらを剣で受け止め或いは紙一重で掻い潜り。
剣で相手の首を跳ね飛ばし或いは魔法で焼き払う。
開戦から結構な時間が経過した。今のところ戦局は人里勢が若干劣勢といったところか。
当たり前だ。
敵の軍勢の方が数が多い上に、個々の戦闘力も圧倒的に人里の人間達よりも傀儡達の方が高い。
寧ろこの程度の劣勢で済んでいる現状が奇跡に等しいといっても過言では無いだろう。
レンや霊夢、魔理沙のような一騎当千の者たちがこれ以上戦局が神魔軍の方に傾くのを辛うじて阻止しているというような状況である。
「くそっ......このままでは埒が明かない。」
現状のまま戦いが長引けば、最前線で粘る三人の疲労がどんどん溜まっていく。最早三人のうちの誰かが最初に力尽きるのは時間の問題だろう。
そうなれば三人を主体としている防衛前線は脆くも崩れ去り、一気に人里内部に敵が雪崩れ込んでくる。里人達だけではとても対処しきれないだろう。
そうなる前にこの戦いを終わらせるためには......。
兵の無力化よりも将の無力化を優先すべきである。
今回侵攻しに来ている軍は全て傀儡で構成されている。つまりは、傀儡を操っているヴェルディウスさえ倒すことができれば。
そう。大将首を取ればこの戦いは終わるのだ。
だが目の前には途方もないほどの数の傀儡。ここからではヴェルディウスに攻撃することはおろか彼を視認することさえ出来ない。
レン自らが斬り込んでも流石にこの数を突破するのは厳しい。
かといってレン自身ではこの包囲網を貫通できるほどの威力を持つ魔法は使えない。
彼が習得している魔法は剣技と組み合わせたりといった汎用性には秀でているが、その分威力においては特に抜きん出ているわけではない。
ーー弾幕はパワーだぜ!
ふと、魔理沙が豪語していたのを思い出す。
もしかしたら魔理沙なら包囲網ごと貫通できるほどの威力を持つ魔法を使えるかもしれない。
「魔理沙!!聞こえるか!?」
「おう!!聞こえてるぜ!」
レンの呼びかけに、少し離れたところから頼もしい返事が返ってくる。
「ヴェルディウスを討つためにあいつの元へ一気に近付きたいんだが、敵が多過ぎてままならないんだ。どうにかして広範囲の敵を纏めて吹っ飛ばせるような魔法使えないか?」
「そんな魔法は......」
魔理沙は一瞬困ったような顔になったが何か思い当たる節があったのか、すぐにニヤリと笑った。
「......いいや、あるぜ。ど偉いのがな。魔力消費の関係で一発しか打てないが威力は私が保障する。」
「それだ!その魔法をヴェルディウスへ向けて撃ってくれ!」
「撃てと言われても......ヴェルディウスがどの方向にいるのか分からないぜ?」
「あっ......。」
......しまった。
現状ではヴェルディウスが何処に陣を構えているのか分からないんだった。
魔理沙曰く“ど偉い魔法”が撃てるのは一発のみ。
外すことは絶対に許されない。
だが魔力感知の魔法では、傀儡が大勢いるのでヴェルディウスの居場所を割り出すことは難しいだろう。
「......。」
何処にいるんだ?
落ち着いて、よく観察し、考えろ。
自分が将だったら何処に陣取る?兵達をどう操る?
「......あっちだ。」
レンは彼から見て北東の方向を指差した。
「お、おい。一発しか打てないんだぜ?勘で当てるつもりか?霊夢じゃあるまいし......」
「勘じゃないさ。俺を信じてくれ。」
「......分かったぜ。後悔だけはするなよ?」
ミニ八卦路をそちらへ構え、詠唱スペルカード宣言を始める魔理沙。
......彼の考えの根拠は単純。
傀儡達の進軍方向である。
傀儡達の軍は主に右軍と左軍に分かれている。だが、そのどちらの軍も北東の方から進軍して来ているのだ。さらに傀儡達もレン達が立っている位置と北東の方を阻むように戦っている。
以上の理由で、彼は北東の方向に将がいると見た。
「霊夢、魔理沙の魔法で敵の防衛線に穴を開けてもらうから
魔理沙の呪文の詠唱が終わったらヴェルディウスの所まで一気に走り抜けるぞ。」
「直接親玉のところへかち込みに行くのね!良いわよ。その作戦に乗ってあげるわ!」
「かち込むってお前......女の子がそんな言葉使っちゃいけません。」
「うっさいわね!言葉遣いなんてどうでもいいのよ!」
なんて言い合っているうちに。
ーー恋符「マスタースパーク」。
魔理沙のミニ八卦路が極太のレーザーを放った。
瞬間、世界は色を失う。
凄まじい轟音と共に放たれた目を焼くような閃光はレン達の前に立ちはだかる傀儡達を巻き込みーー
ーー十数秒後、世界が色を取り戻した時には傀儡達の防衛線にぽっかりと一筋の大穴が開けられていた。
「うわ、すげぇ......。」
そして大穴の先にはーー
ーーいた!
ヴェルディウスがこちらへ手のひらを向けて立っている。何かの魔法で相殺したのだろうか。
何にせよあれほどの威力の魔法を相殺するなんてヴェルディウスも規格外の強さだ。
「行くわよ!」
「ああ!」
瞬間的に走り出した霊夢に続いてレンもその開けられた一筋の大穴を走り抜けていく。
生き残っている傀儡達が慌ててそれを阻もうとするが、もう遅い。何体かの傀儡が出てきたところで最早防衛線すらきちんと築けていない者達に霊夢とレンを止めることなどできるはずがなかった。
立ちはだかろうとする傀儡達をお札で吹っ飛ばし、或いは剣で斬り伏せ。
遂にヴェルディウスの元へと辿り着いた。
「はぁッ!!」
ーー霊撃。
霊夢が手をぱんっ、と一つ鳴らすとレン達を中心として綺麗な円形型に衝撃波が発生してその範囲内にいた傀儡達が吹っ飛ぶ。
すかさず天へ手を掲げてスペルカード宣言。
ーー夢符「封魔陣」。
掲げた札を地面に付けるとレン、霊夢、ヴェルディウスの三人だけを囲むようにして直径20メートル程の円形の結界が出現した。
「これで暫くの間は外側からは誰も内側に干渉することはできないわよ。さぁ、決戦と行こうじゃないの。」
霊夢はお祓い棒を、レンは魔剣アルテマをヴェルディウスの方へ向けて構える。
武器を向けられて尚、ヴェルディウスは何の武器も持たずに仮面の下からでもわかるぐらいの半笑いを浮かべながら彼らの前に立っていた。




