32.作戦会議
白黒の魔法少女は鬱蒼と生茂る木々の間を歩いていた。
「うへぇ......相変わらずこの辺は湿気が強いな。髪型が崩れるから不快だぜ。」
癖っ毛の前髪を弄りつつひたすら森の道を進んでいくと、ようやく御目当ての場所が見えて来た。
魔法の森にひっそりと佇む一戸建ての洋館。八角塔屋の付いた、お洒落なデザインだ。
ドアをこんこん、と軽く叩いて友人の名を呼ぶ。
「おーい、アリス?いるかぁー?」
数秒置いて家の中から足音が聞こえた後、ドアが開けられる。
「あら魔理沙じゃない。」
「おう!久しぶりだな。ちょっとお前に聞きたいことがあってさ......」
「話なら中で聞くわ。ほら、上がりなさいな。」
ドアの横からひょっこり顔を出したのは青い瞳に金髪の少女。青いスリープの上に白いケープを羽織っている。
彼女の名はアリス=マーガトロイド。
魔理沙と同じく魔法の森に住んでいる魔法使いだが光弾や熱魔法を扱う魔理沙とは異なり、主に自製の人形を操る魔法を扱う。
アリスに促されて魔理沙は家へ上がり、リビングの椅子に腰掛けた。
「......で?今日は一体どういう用件で来たの?ただ遊びにきたって感じでは無いわね。」
そう言いながらアリスは紅茶の入ったカップを魔理沙の前に置いた。
温かい湯気を放つそれを啜る魔理沙。
「ああ。実は今、人里が大変なことになっててな。」
彼女は今人里で何が起こっているのかを全てアリスに説明した。
「人里で死人!?結構深刻な事態じゃないの。霊夢は何やっているのよ?」
「人里で情報を集めてる。主犯への手掛かりが全く無くてな......。」
「それで貴方はその呪術について相談するために私のところに来たわけね。」
「ご名答だぜ。」
アリスは一つ大きなため息を吐いた後、机に頬杖をついて思案する。
正直、ここで有力な情報を得られなかったら紅魔館の魔法使いの元へ行くしか無いのだが......
ーーあいつに顔を合わせるや否や、本を返せってうるさいからなぁ......。
「正直、呪術は私の専門分野じゃ無いしちょっとかじったことがある程度だからよくわかんないけど......。」
「けど?」
「呪術で妖怪を操っているなら術者の魔力が妖怪にも宿っているはず。その魔力を辿っていけば簡単に術者の居場所ぐらい割り出せるわよ。」
「お前、簡単って......そんな魔力感知なんて高等魔法、使える奴なんてそうそういないぜ?」
多分レンでも使えない......よな?
「まぁ、私でも魔法薬を使ったりしない限りはできないけどね。」
「魔法薬......その手があったか!」
こんな簡単なことにも気が付かなかったなんて。
魔法が使えなければ、同等の効果を持つ魔法薬を作って補えばいい。
ただ、肝心なのは......
「どうやって作るのか知らないどころか、材料すら集まるか分からないな......。」
やっぱ無理か、とこの方法は潔く諦めて別の方法を考えるべく頭を切り替えようとしたその時だった。
頬杖をつきながらなにやら思案していたアリスがふいに顔を上げた。
「......材料ならうちにあるわよ。幸い、作り方も私が知ってるわ。仕方がない......今回の件は人里の人達の命もかかっているんだし、作ってあげる。」
「うおっ、マジかよ!さっすがアリスだぜ!そうと決まれば早速......「ただし!!」
興奮気味の魔理沙の言葉をアリスが遮った。
燦然と目を輝かせる魔理沙の前に人差し指を立てて見せる。
「完成までに三日ほどかかるわよ。」
「三日!?そんなにかかるのかよ?それじゃあ霊夢達に先越されちゃうかもしれないぜ!?」
「むしろ越してくれればありがたいじゃないの。大切なのは貴方が黒幕を退治することじゃなくて、一刻も早く人里に安全がもたらされることよ?」
「それは分かってるけど......」
「あの魔法薬の調合は結構難しい上に複雑なのよ。分かったら、三日間は大人しく待っていなさい。」
「ちぇっ、分かったよ。ミニ八卦路のメンテナンスでもして過ごすことにするぜ。」
「よろしい。」
アリスは拗ねた様子で髪の毛を弄る魔理沙を見てふっ、と
微笑んだ。
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「ぶえっくしょいッ!」
ーー何でだろう。さっきからくしゃみが止まらない。
「......で?あんたの見解は?」
「え?見解?」
「異変の主犯が何処にいるのかについての見解に決まっているでしょ?」
稗田邸の一室。
運ばれて来た茶を啜りながら二人は異変解決に向けての話し合いをしていた。
いつの間にかお茶と一緒に茶菓子まで出されている。ほんと阿求さんの気遣いには頭が上がらない。
「あんたも一応魔法使いの端くれなんでしょ?だから一応頼りにしてやってんのよ。」
何で頼る側なのに上から目線なんだよ!?
「端くれって何だよ、端くれって......しかも俺は魔法使いじゃなくて魔導師だ。ここ重要。」
「んなもん私から言わせれば同じようなもんよ。で?あんたの魔法で術者の居場所を割り出したりできないの?」
そう言いながら、茶菓子の大福を幸せそうに頬張る霊夢。
甘い物好きなのか。なんだ、意外と女の子なところもあるんだな。
「うーん......何かの魔法を応用すれば不可能ではないかもしれないけど、どの魔法を応用すればいいのか検討もつかないな。」
「何よ......使えないわね。」
「使えない奴で悪かったな!」
さて、未だ主犯への手掛かりさえ掴めていないわけだが......。
「うーん、今回の異変解決はなかなかスムーズに進まないわね......。人里で起こる騒動が主だし、毎回妖怪の群れが何処から現れるのか見当もつかないし......」
「妖怪や人間を遠隔的に操るような能力を持つ妖怪とかいないのか?」
「探せばいなくは無いだろうけど、私が知っている限りではね......。それに、実際に多勢の死人が出るほどまでっていうのは幾ら何でもやりすぎよ。本来掟で里の中では妖怪は人間に手を出してはいけないことになってるし。妖怪は人間を喰うけど、あまり人間を減らしすぎても幻想郷の妖怪達にとってメリットにならないのよ。っていうか今回の場合ただ人や妖怪を使役して殺してるだけというのも何がしたいのか分からないしおかしな話よ。」
尤もだ。
「主犯は.....幻想郷の人物では無い可能性が高い、ということか?」
「まぁ結局のところそうなるわね。」
ーー主犯は幻想郷の外の人物である可能性が高い......。
ランセルグレアから来た偽りの神の手下だろうか。
彼は背筋が凍りつくような悪寒を覚えた。
もう侵略を始めたのか?
いや、そんなはずはない。
侵略するならこんな風にわざわざ何回も分けて襲撃させるようなやり方はしないだろうし、魔物の類は一切見なかった。
何より紫は彼らの侵略が始まるまでまだ猶予があると言っていた。
一体何のためにこんなことを......。
「ん?どうしたのよ、急に顔真っ青にして......」
「あっ、いや......別に何でもない。」
ーー大丈夫、落ち着け。
そんなことは主犯を見つけ出して聞けばいい。それよりも今はとにかくこの異変を終わらせることだけを考えなければ。
レンは心を落ち着かせる為に、自分の湯呑みに残っていたお茶を一気に口へ流し込んだ。




