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東方星剣異聞  作者: くぅすけ
3章 壱ノ異変 ~Malice and Cursed Masquerade~
33/106

33.神魔軍将



翌日も、そのまた次の日も里では妖怪達の群れと傀儡にされた人々による騒動が起こった。


幸いな事に、連日起こる騒動のせいか里を出歩く人々が少なかったため大勢死人が出ることは無かった。


だが一人、また一人と少人数ずつではあるが着実に犠牲者は増えていく。


そんな状況に痺れを切らした霊夢は遂にレンと共に里を飛び出し、己の勘の赴くままに進むのだった。


「お、おい霊夢......本当にこの先に黒幕がいるのか?」


「うっさいわね!私の勘ではこっちなのよ!」


そう言って霊夢は鬱蒼と生茂る木々の間をズンズン進んでいく。


人里から見て丁度西側に位置する、魔法の森とはまた別の森の中を二人は歩いていた。


日の光が全く差し込んでこないため、昼間でも結構暗くて視界も悪い。


それに、そこら中から妖怪達の視線を感じる。


霊夢は自分の勘に余程の自信があるらしく、歩を緩めるつもりは全くないようだ。


仕方が無い。警戒を緩めないように心がけながら進もう、と霊夢の後についてただひたすら歩いていると。


「ッ!何だあれ!?」


道の真ん中を、黒い球状の塊が塞いでいた。


黒い塊というよりも虚無、というべきか。あたかもそこの空間だけぽっかり穴が開いているかのように一切の光の透過を許さない“存在”がそこにはあった。


「......妖怪みたいね。あそこを避けては通れないし......力づくでもどいてもらうしか無いわ。」


霊夢の言葉に頷きで答え、彼が剣の柄を握った刹那。


「わはー。」


闇の中から可愛らしい声が聞こえてきた。


「この声は......」


「ん?そこにいるのはだあれ?」


闇から出てきたのは金色の髪に緋色の瞳。


黒い服を着た幼い少女。


「「ルーミア!?」」


二人は揃えて素っ頓狂な声を上げる。


「うひゃ、霊夢と......あっ、レン久しぶりだね〜。」


霊夢を見てギョッとした後レンの方を見てニコッと笑い、手を振るルーミア。


「あんたは闇を操れるんだったわね。忘れてたわ。......っていうか何よその反応の差。気に食わないわ......。」


ルーミアは霊夢のことが怖いようで、レンの後ろに隠れている。


「あんた達、いつの間に知り合いになったのよ?」


「レンが前にあった時空腹だった私に食べ物をくれたのだ〜。」


「ふーん。餌付けしたのね......。」


「な、なんでそんな軽蔑するような目をこっちに向けるんだよ!?しかも餌付けなんて失礼だな!」


ジト目でこちらを睨め付ける霊夢、ちょっと怖い。


「二人とも、なんでこんなところにいるの?」


「ああ。里が今少し大変な事になっていてね。霊夢の勘によればこの辺りにその騒動の主犯がいるらしいから探しているんだけど......」


「黒いフード被って杖持ってる怪しいお兄さんならさっきこの森で見たよ。」


「ッ!!」


霊夢と顔を見合わせ、頷く。


こんな人里離れた危険な森の中を、しかも里で死人が出るほどの異変が起こっているというのにたった一人で出歩いているというのはあまりにも不審すぎる。


黒幕の可能性が高い。


「多分そいつだ。どの辺で見たか覚えているか?」


「うん、覚えてるよ。」


「頼む、そこへ連れてってくれないか?」


「いいよ。レンには恩があるしね。その人を見たところまで連れて行ってあげる。ついて来て。」


ルーミアはそう答えて踵を返すと、ふよふよと浮遊しながら森のさらに奥の方へと進んでいく。


「よし、行くぞ。」


「うん。」


その後に続いて二人も歩き出した。



※※※



一方その頃魔理沙もまた、里の西に位置するこの森の中を歩いていた。


「む......こっちだな。」


魔法薬の効果で一時的に手に入れた感覚を頼りに森の中を進んでいく。


......近い、近いぞ!


ようやくアリスに頼んでいた魔法役が完成し、それを飲んであの仮面と同じ質の魔力を追っていたらこの森に辿り着いたというわけだ。


「流石はアリス。これで霊夢達を出し抜けるぜ!あいつら、私が異変を解決したら腰抜かしちまうかもな!」


くっくっく。


想像するとニヤニヤが止まらない。


とーー。


「......おっ、主犯のお出ましかな?」


茂みの向こう側に何者かのの気配を感じた。


懐からミニ八卦路を取り出して構え、忍び足で茂みへと近づいていく。


妖怪か人間かは気配だけでは分からないが、茂みの向こうに二人。


ーー相手は二人組か。


少々分が悪いが、今が奇襲のチャンス。


飛び出してすぐにマスタースパークを撃てば......!


高鳴る鼓動を落ち着かせるために手を胸に当てる。


ーー三つ数えたら飛び出そう。


三、二、一......!


茂みの裏から飛び出して、ミニ八卦路を相手へと向け......


「マスタぁぁ......なっ!?」


飛び出した魔理沙が見たのは、こちらへ向かって身構えている霊夢とレンだった。


「な、なんでこんなところにいるんだぜ!?」


「びっくりした......魔理沙か。なんでって......霊夢の勘?とルーミアっていう妖怪の案内を頼りに異変の黒幕を探していたらここに辿り着いたんだ。」


「マジかよ......おい。」


「魔理沙こそ何でこんなところにいるのよ?」


「私はアリスに頼んで呪いの魔力を逆探知できる魔法薬を作ってもらったんだぜ。その魔法薬の効果で得られる力を頼りにここまで来たんだが......霊夢達は勘で辿り着いたのかよ!?私の苦労は何だったんだよぅ......不公平にも程があるぜ。」


わあ、巫女の勘って改めてえげつねえな。


などとレンが思っていると、霊夢が横から小突いてきた。


「ごふっ!?」


「あんた......やっぱり魔法を使って逆探知する方法あったじゃないの!!」


「わ、悪い悪い。」


実は魔力感知魔法使えるのを忘れてました、っていうのは黙っておこう。そんなこと言ったら俺の命が危ない。


「でも魔理沙の魔法薬を持ってしてもここに辿り着いたんだからこの森に黒幕がいることは間違い無いってことだろ?霊夢の勘は当たってたんだし、結果オーライってやつじゃ......ごふっ!?すみません、マジすみませんでした。調子乗りました。許してください。ごふっ!?」


霊夢の容赦の無い小突きを喰らって命乞いをするレン。


その時だった。


「......おい二人とも、あれ。」


魔理沙の真剣な声を聞き、指差す方を見やる。


そこには長身の影が立っていた。


全身黒づくめのローブを着ており、フードをかぶっているので顔は見えない。


「......あいつだ、間違いない。ピリピリするくらいの魔力を感じるぜ。」


「ええ。私の勘もあいつが黒幕だと言っているわ。」


場を埋め尽くすような強い魔力。


その迫力に、三人とも思わず寒気を覚える。


「......お前が、人里に妖怪を放った呪術師か?」


レンの問いに、男は答えない。


突然男が手をかざしたかと思うと......。


地面にいつの間にか描かれていた魔法陣から“異形の存在達”がレン達と男の間を阻むようにして現れる。


「な、何なのよあれ......!?」


あれはーー


「魔物!?」


上級竜人(リザード・ロード)と、その取り巻きの犬人(コボルト)が数体。


忘れもしない。あれらはランセルグレアにも生息する魔物だ。


ということはやはり。


黒幕はハグネの手先ということで間違いなさそうだ。


鯉口を切り、一気に抜刀する。


「蹴散らすぞ!」


「えぇ、やるわよ!」 「合点だぜ!」


それぞれの返事を合図に、レンは体重を前に乗せて地面を蹴った。


剣を肩に担ぐようにして振りかぶり、何の細工もない唐竹割りを繰り出す。


何の細工もないが、光の如く疾い神速の一撃。


振るわれる剣の軌跡はさながら一筋の閃光のようだ。


きっと犬人(コボルト)にはその軌跡さえ見えなかっただろう。


その手に握った矛で防ぐ事も叶わず頭から縦一文字に剣で引き裂かれて絶命。


「フゥッ!!」


そのまま振り向きざまに左から右へ水平切り。


ーーヴォルケイノ。


斬撃で体の浮いた犬人(コボルト)に火魔法で追い討ちをかける。


それでも尚怯む事なくレンに飛びかかってきた別の犬人(コボルト)達に霊夢が放った札と、魔理沙の光弾幕が炸裂。


「スターダストレヴァリエ!」


続けて無数の星形の弾幕が犬人(コボルト)達へと降り注ぐ。


背後をちらりと見やると、霊夢が上級竜人(リザード・ロード)を蹴り飛ばすところだった。


「はぁぁぁッ!!」


ーー博麗流格闘術、昇天脚。


宙返りと組み合わさった蹴り上げが空中に見事な弧を描き、相手へと炸裂する。


上級竜人(リザード・ロード)は為す術もなく吹っ飛び、地面に衝突したが最後、動かなくなった。


「さぁ、問いに答えてもらおうか!!」


レンは黒フードの男の方へ向き直って叫んだ。


「ククク......そうだとも。あの集落に、魔物や人間に仮面を付けて放ったのはこの私だ。」


そう言い放った後、男は目深に被っていたフードを右手で後ろへ払い、更にフードの下に付けていたあの奇妙な仮面も外した。


仮面下に隠れていた顔が露わにされた瞬間、霊夢と魔理沙は息を呑んだ。


銀色の長い前髪の下の顔は血色が悪く、所々に血管が浮き出ていた。


その醜悪な容貌を見てレンは顔を顰める。


「......魔族か。」


ーー魔族。


偽りの神によって生成された魔物の種族のうちの一つである。人型でありながら血色が悪く醜悪な容貌であるのが特徴である。


総じて強い魔力と高い知能、戦闘力に残虐な性格を兼ね備えていて魔物の中では相当高位とされる種族だ。彼らに潰された村や街は数え切れない程。無抵抗である女子供までも皆殺しにされると聞く。


「私は〈神魔軍〉軍将、ムル=ヴェルディウス。《天星剣》......よもや本当に生きていたとはね。大事なだ〜いじな幼馴染を救うことすら諦め、結果ハグネ陛下直々の裁きを受けて犬死にした君が......ねぇ?」


「......遺言はそれだけか?今すぐにでもその首跳ね飛ばしてやる。」


何時になく殺気を帯びたレンの言葉に魔理沙はぎょっとした顔でこちらを見やり、魔族の仮面男はわざとらしく両手を上げて見せた。


「おお怖い怖い。陛下から君を殺せと仰せつかっているから、今ここでやりあってもいいんだけど......折角君を殺すために傀儡を集めたんだからね。殺戮は明日へのおあずけってことにしておこう。明日、私が集めた全ての傀儡と私の支配下の魔物をあの集落へと侵攻させるんだ。」


「何だと!?」


「精々今日のうちに君の方こそその首と胴体にお別れの挨拶を済ませておくんだね。では......また明日。じゃあね、()()()()()?」


「待てっ!!」


ヴェルディウスの方へ咄嗟に剣を振るうが、刃が彼を捉えるよりも彼が転移魔法で消滅する方が早い。


標的を失った刃は虚しく空を切る。


怒りの矛先を失ったレンは思わず舌打ちをする。


「......レン、一回落ち着け。瞳孔開いてるぞ。」


魔理沙に言われて数回深呼吸した。


「......ありがとう、少し落ち着いた。」


ーーそうだ。冷静さを失っていては勝てる相手にも勝てない。


だが、どうしても気になるのはヴェルディウスの言っていた〈神魔軍〉という言葉。軍......偽りの神は私有軍隊を創り出したのだろうか。


「レンはあの化け物を見たことあるみたいだな。ヴェルディウス......だっけ?あの偉そうな奴もお前のことを知っているみたいな口ぶりだったが。」


「ヴェルディウスの方は詳しく説明すると長くなるから割愛するがあの化け物は“魔物”といって、俺が元いた世界に生息していた......幻想郷(こっち)でいうところの妖怪みたいなもんだ。」


「あのヴェルなんとかって奴、なんだか気に食わない奴だったわね。声とか思い出しただけで虫唾が走るわ。」


霊夢は何故か少しご立腹の様子である。


「どうすんの?あんたあんな風に言われっぱなしで悔しくないの?あいつは多分本当に明日人里に攻め込んでくるわよ。」


「勿論悔しいさ。それに阿求さんにも人里の護衛として雇われているからな。人里が蹂躙されるのを見過ごす訳にはいかない。霊夢、手伝ってくれるか?」


「ええ。勿論こっちは元からそのつもりよ。博麗の巫女の力、見せつけてやるわ。」


「勿論私も加勢するぜ!こう見えても私も喧嘩っ早い性質(たち)でな。私の友人を侮辱するような奴には......」


「あんたは見るからに喧嘩っ早そうよ。」


自覚がないのか不思議そうな顔をする魔理沙を見て、思わず霊夢とレンは笑い出してしまった。


ひとしきり笑った後、


「決まりね。まずは人里へ戻るわよ。可能な限り里人達を避難させなきゃ。」


霊夢の言葉にレンと魔理沙は頷き、元来た道を引き返し始めた。





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