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牢屋越しに交渉を

「ぜえええええったいに嫌よ!帰らないったら帰らない!!」

「そうかそうか、そんなにここが気に入ったなら残りの神生は此処で過ごすといい。さあ、帰ろうか浄玻璃鏡。後はこの様子を始末書にまとめて、任務完了だ。」


そんな、牢屋の中で堂々と宣言してふんぞり返っている女性……愛と美の女神ニーグメージュを前にいい笑顔で言い切ったアースレイは腰に佩いた太刀を掴もうとしていた片手を下ろして踵を返す。

あれ?これ主神からの依頼なのに自己判断で勝手に帰っていいのか?と鈴鹿は思ったが兄弟子もこうして言っているし、何よりもこの目の前の女神、滅茶苦茶面倒くさい案件な気がしてならない。


「は?帰る?帰るですって?この妾が此処にいるのに?ここはどうか一つ戻ってきてくださいと頼むところでしょ!?」


(いや、さっき帰らないって言ったじゃん)


さっきの今で何言ってんだこの女神。と若干の疲れを滲ませた顔で鈴鹿はただぼーっと鉄格子越しに囚われている女神を見ていた。隣にいるアースレイに至っては表情は爽やかな笑顔のままだが明確に舌打ちだとわかる様な音量の舌打ちをしている。ついさっき来たばかりなのに既に相当参っているようだ。

勿論それは鈴鹿だって一緒だ。ああいえばこう言うみたいなやり取りが続いて、正直現段階でもかなり面倒くさい。これで他人の空似とかだったらすぐ立ち去れただろうに。


(でも、ちゃんと女神なんだよね……)


浄玻璃鏡の鑑定能力で測定した彼女の文章は確かに彼女が本物の女神ニーグメージュであるという事を如実に証明している。

こんなのが愛と美の女神……と鈴鹿の中で女神像がガラガラと崩れ落ちたが、形はどうあれ保護して天界に届けるまでが自分たちの仕事である。駄目なら駄目でいいがちゃんと理由も考えなければ皆納得しないだろうと思い切って声を上げた。


「……帰りたくないのはわかりました。が、理由などをお聞きしてもよろしいでしょうか。」

「はあ?何よいきなり。というか誰よ貴方。こんな根暗の血生臭い(アースレイ)奴だけでも勘弁なのに今度は下っ端?」

「答えていただければ帰り次第貴方への使いが暫く来ないように交渉することもやぶさかではありませんが?」

「んなっ……ひ!?」


恐らく生意気な口をきいたであろう鈴鹿に何か反論をしたかったのだろうが、それはニーグメージュの喉元にヒタリと添えられた刃によって中断された。

刃を辿っていってみるとそれは鉄格子を文字通り擦り抜けて、アースレイの手に納まっている。

いやあなた、いくら戦闘能力がほぼ無いって言っても妹弟子に過保護過ぎじゃありませんかね?と内心で言う鈴鹿であったがアースレイの迷いのなさが怖くて次何かしでかさないかとハラハラしながらも見ているに留めた。

そうしてそこから視線を逸らすと先程の女神と目が合った。

可憐な顔にはうっすらと涙が浮かび、唇を戦慄かせながら浅い呼吸を繰り返していた。


(……もしかしてこの人、チョロいのでは?)


少し脅したくらいでこの有様である。もしかしたらもしかするかもしれない。

そんな期待を胸に浄玻璃鏡の特権である鑑定の更なる解析を始めた。






「ふむ……世界樹で材料の木材を調達……しようとして世界樹の枝を吹き飛ばしたんですね?で、出禁をくらったと……あれ?貴女冥界からも出禁くらってません?回収拒否リストワースト3堂々の一位なんですが……。」

「……。」

「で、趣味が転生者から勧められた乙女ゲ「あーっあーっあーっあーっ」更に前世は実は夢の付く小「わわわわかった!わかったわよ!いうわよ!!だからそれをやめて!」……。」


言質をとったあたりで読み上げるのをやめてニーグメージュの方を見ると、顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で「お願いします。もうやめてください。」と言うばかりだった。


(チョロい、本当にチョロかったぞこの女神。愛と美とかいう割になんか滅茶苦茶駆け引きとかできなさそうなんですけど!?いいのかそんなんで!?)


まあこの女神も前世は人間だったみたいだし、仕方ないのかもしれない。などと思いつつ抽出した情報をみて疑問に思う節を先に聞いてみる。


「失礼ですが、その、現在交際している男性とかは……。」

「そ、そんなの居ないに決まってるでしょ!というか妾は……もう。」


歯切れ悪く、しどろもどろになってくる口調にアースレイが首に宛てていた刀身を少し押す。


「っ……も、もう、二次元しか愛せないのよ!!」


はー、はーと肩で息をするほどの叫びに思わず鈴鹿とアースレイは固まった。


「「は……?」」

「だ、だって三次元の奴はやれ理想と違うだの(めかけ)になれだのことあるごとに妾を否定してくるんだもの……でもほら、その点二次元ならそんなこと言わずに妾のことちやほやしてくれる!!」


「え、でもさっきは結構喧嘩腰で……。」

「ルールなんだから仕方ないじゃない!本当は妾だってしたくないわよ!ツンデレなんてっ。」



ねえ、女神様……それツンデレ違う!!


(運よく転移直後に牢屋で出会えたと思ったらこれかよ!!)


やっぱりそう簡単に任務は終わらないらしい。



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