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魔法というもの

「あの、先輩。僕に構わず何か頼んでもいいんですよ?」


洋風ではあるものの中世……と言うにはまだ拙い街並みの一角にあるごく普通の飲食店に鈴鹿たちはいた。

件の女神から拒否されてから何故かまた明日も来て欲しい(意訳)と言われ、渋々撤退しての事だった。

眉間に皺を寄せて何やら深刻そうな顔をしているアースレイに流石に気まずくなった鈴鹿がメニューを勧める。

勿論鈴鹿の前には何も置かれていない。

その様子をチラリと見遣ったアースレイは視線を外すと「いや、遠慮しておく。」と答えてメニュー表を元に戻した。


「それに、俺も君と同じで一応神だからな。別に食事は必要ない。気にしなくていい。」


苦笑しながら胸元から取り出した煙草を口にもっていこうとして……慌ててぐしゃりと潰す。

そのままガシガシと頭を掻いて鈴鹿へと視線を戻した。


「……っと失礼。とっとと本題に入ろう。まずあの女神の事だが……。」

「ああ、それならバックアップはとってあり……記録は取っておいてあります。」


鈴鹿が慌てて言いかえる。

鈴鹿自身がこの世界、向こうの世界を経由してきた存在が故に忘れてしまいがちだが、この世界はまだまだあちらの世界と比べると発展途上、更に言うと魔法があるが故か化学などがそんなに進んでいない。

神たちの中にはあちらの世界からの「転生者」とかいう存在が多数いると師匠は言っていたが一応言い方には気を付けなくてはならないだろう。お互いに置いてきぼりにでもなったら大変だ。

そんなことを考えながら懐から綺麗に折り畳まれた大判の紙を取り出す。

真っ白なそれは見る者が見れば一目で最高級の品質であることがわかるであろう代物であり、この飲食店には似つかわしくないものであった。


そんな紙に躊躇うことなく、鈴鹿は先程解析したニーグメージュの情報を焼き付けていく。

そこには氏名、身長、体重から始まり、出生から現在。前世での出来事などありとあらゆる情報が記載されていた。ダイジェストの方はまるでその記載そのものがプロジェクタにでもなったかのように紙の上に立体となって現われている。


「すみません。もう少し話していればこの先の分岐まで読めたんですけど……。」

「いや、ここまであれば充分……待て、君は未来まで読めるのか?」

「はあ、まあ細かい分岐となると時間がかかりますが大体の大きな流れなら少し話せば……。」


肝心の話が始まる前にガシャンという音とともに店内に怒号が響き渡った。

どうやら喧嘩が始まったらしい。

渦中の人物は片方が顔立ちの整った青年で、重厚な鎧は冒険者と言うよりは兵士、騎士のように見える。

もう片方はかなり酔っている冒険者風の軽装の男だ。

周囲から止められている所を見るに後者が無理な要求をしているか、前者の地位が高いのだろう。

解析をしようか迷っている鈴鹿をアースレイが片手で軽く制する。


「丁度良い。君はあのクソジ、いや、師匠から神と人の魔法形式の違いは習ったか?」

「いえ、違うと聞いたことはありますが具体的なことは何も。」


「そうか……。」と一瞬鋭い眼光になったアースレイだったが、すぐに元の頼れる兄弟子の顔に戻ると制していた手を戻す。


「なら良い勉強になるだろうからしっかり見ていなさい。」

「?はい。」


そうこうしている内に向こうは佳境に差し掛かった様で、丁度重装備の青年の仲間である少女が魔法を発動しようとしているところだった。


『紅き炎よ、浄化の火よ。我が身の災いを焼き払いたまえ!!』


詠唱とでもいうのだろうか、まるで歌うかのように紡がれた言葉に合わせて少女の周囲に何か粒子の様なモノが集まっていく。と、それは一直線に男の方へと向かっていく。

爆風とともに肉の焦げる匂いと絶叫が響き渡った。


少し遅れて周囲の人間がその倒れた男の元に駆け付け、どこぞへと運ばれていく。

周囲は騒然となっているものの野次馬に紛れ込むようにしながら二人……否、双方ともに神なので二柱とすべきだろうか、は会話を続ける。


「さて、神になってから初めて人の魔法を見た感想は?」

「……丁寧なのに滅茶苦茶、でしょうか。」


言いながら、鈴鹿は自身の記憶を手繰り寄せる。


(確か、前の……プリシラだった頃の魔法は詠唱部分が何言ってるかわからないし、あんな長い文面でもなかった……はず)


そう、本当に人だった頃の彼女から見た魔法はまさしく安孫子鈴鹿の世界の昔からの魔法使いのイメージ。

ああいった詠唱何て言う形式張ったものではなく、呪文一つで、単語一つで全て終わる様なモノだったのだが……。勇者一行のエルフの姫もわざわざ詠唱するのは二流だと言っていた。


それに……とちらりとその炎の魔法を使った少女が困惑と焦燥、驚愕と恐怖をその顔だけでなく、身体で表現していたからであった。


(普通は魔法が使えるとわかった時点で調整を教えられるはず。なのに、彼女の態度はまるで当てる気は無かったみたいな……?)



鈴鹿が考えていると、アースレイがおもむろに説明を始める。


「……君はまだこの世界の理には疎いだろうから根本から教えよう。まず魔法とはこの世界との契約の結果起こる現象の事だ。」


「え?世界との、契約……ですか?」


てっきりエルフの姫と同じ様に個人の素養がどう、精霊が力を貸してくれるなどと言う説明が始まるのだろうなと思っていた鈴鹿は首を傾げる。

その心中を察してか、苦笑しながらアースレイは頷いてみせた。


「君は元々は此方の世界の人間だったからな。きっと魔法は選ばれた者が使えるものだと教えられている事だろうと思った。……それに、案の定あのクソジジイも教えていなかった様だし。」


遂に自らの師匠のことをクソジジイと言い切ったアースレイではあるが、彼に対する師匠の仕打ちを思い出すとそれも仕方ないことだろうと鈴鹿も容認し、頷くことで先を促した。


「その考えは捨てなさい。持っていても何の得にもならない。……エルフ、人間と言った種族の魔法行使は……あー、なんと言ったら良いか。君、我孫子鈴鹿のいた世界の役所の申請と同じ様なものだ。魔法は魔術という形式を行うことで世界に今からこんな結果を出します、と申請する。ソレを世界が許可して初めて魔法という現象になるんだ。実際は呪文も決まっていて、要する魔力量も、別に多くなくとも良い。偶に多いからと言って過剰に注ぎ込んで喜んでいる馬鹿もいるが……あれは威力が上がっているんじゃなく、正しくは暴走させている状態だ。……まあ、自爆したいと言うなら話は別だが。詠唱破棄も同じだ。方向性が定まっていない分此方の方が危険か。」


「それなら、さっきのあれは……。」


「ああ、詠唱の動詞を過剰にしてしまったからあんな火達磨が出来上がったんだろう。……もっとも、先に浄化の、なんて付いたのが幸か不幸か半端な威力にしたんだろうが。魔法はあの人間が詠唱で指示した通りに動いただけだ。……意志の力のみで魔法の行き先を変えるなんていうのはそれこそ素養のある奴でなくては無理だろうに。」


吐き捨てる様に言う兄弟子に思うところが無いわけではないが、このままではこの任務中ずっと兄弟子におんぶに抱っこで負担をかけることを考えて少しでも知識を吸収しようとそのまま先を促した。


「僕ら神は、何もしなくとも魔法が使えているようですが……。」


「神と人を同列に置くのは……いや、いい。俺たち神はこの世界の様々な側面の擬人化の様なものだ。だから申請なんてわざわざ通さなくていい。魔物も意志はあるが、人間よりは自然に寄り添って生きているからこそ本来は人間が多分節詠唱で行う様な魔法もたった一鳴きで完成させたりも出来る。勿論これは亜人種や一部のエルフにも言えることだがな。」


だから、こうやって人間に扮して行動するときは気をつけることだ。と兄弟子は笑った。

何か懐かしいものを見るような、何か喜ばしいものを見るようなその表情に鈴鹿は首を傾げるばかりであった。

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