第四話 黒猫亭の力
「選ばれた、って……」
朔夜は困ったように眉を下げる。
正直、実感なんてなかった。
売上はほとんどない。
店だって潰れかけていた。
そんな自分が、誰かに必要とされるような人間だとは思えない。
「安心しろ」
男は静かな声で言った。
「君へ求めるのは、“戦い”ではない」
その言葉に、朔夜は少しだけ肩の力を抜く。
剣も魔法も使えない。
喧嘩だって得意ではない。
そんな自分に戦えと言われたら、どうしようかと思っていた。
「君には、“黒猫亭を続けるための力”を与える」
男がそう告げた瞬間。
白い光が、ゆっくりと朔夜を包み込んだ。
不思議と熱くはない。
むしろ、温かい。
冬の日に飲むコーヒーみたいな、優しい熱だった。
「まず、君の店は安全地帯となる」
「安全地帯?」
「黒猫亭にいる者は、少しずつ心身を癒やされる」
「疲労、精神疲労、魔力消耗、軽傷……」
「店にいるだけで、ゆっくり回復していく」
朔夜は目を瞬かせた。
「……喫茶店っていうか、回復施設では?」
「似たようなものだ」
真顔で返された。
思わず朔夜は黙る。
「さらに君の料理や飲み物には、癒やしの力が宿る」
「コーヒーは集中力を高め、スープは疲労を和らげる」
「甘味は、心を落ち着かせるだろう」
「いや急にファンタジーですね?」
「異世界だからな」
それはそうだった。
朔夜が微妙な顔をしていると、足元でクロノが小さく鳴く。
「にゃ」
見下ろすと、クロノはなぜか少し得意げだった。
「……お前、絶対なんか分かってるだろ」
黒猫は返事の代わりに尻尾を揺らす。
その姿を見た男は、ほんの少しだけ笑った。
「そして最後に」
空気が変わる。
静かだった白い空間に、わずかな重みが落ちた。
「君には、“店を守る権限”を与える」
男の瞳が、真っ直ぐ朔夜を見つめる。
「黒猫亭へ害意を向ける者は、君が拒絶できる」
「……拒絶?」
「客や店へ危害を加える存在を、排除できるということだ」
その瞬間だけ。
男は、どこか神らしい威圧感を纏っていた。
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