第二十九話 決断の時
________コンコン。
朝早く、1人の侍女が私を起こしに来る、モリスだ。
「おはようございます、マリア様、起きてくださいませ」
「う〜ん、あと少し………………」
私は無意識にこの時間の延長を求めた。
誰しも睡眠をとっている時間が1番幸せなのではなかろうか。少なくとも私はそうだ。
薄れゆく意識の中でモリスの声が聞こえる。
「……あと少しだけですわよ、また起こしに来ますわ。」
あと少しだけ延長してくれるらしい。うちの侍女は優しいのだ…………
____30分後____
______コンコン。
「あれから30分経ちましたわよ、さあ、マリア様起きてくださいませ?」
ああ、また来た…………30分も寝たかしら……?
「うーーん、あと少し……あと少しよ……」
私はまた延長を求めた。あと少し、あと少しだけ……
「本っ当にあと少しですからね、これ以上延ばすと遅刻しますわよ、それか髪の毛ボサボサのままでレオナルド様と対面、学園もそれで行ってもらいますからね、一生の恥ですわよ。」
「うぅ、わかった、わかりましたわ……」
モリスの声、本気だ…………怖い怖い、次は……起きる、起きます…………
____20分後____
______コンコン、ガチャ!
「20分経ちましたわよ、先程わかりましたと言いましたわね?起きてくださいませ!」
「あと少しぃーー、あと少し!」
「なりません!マリア様、時計をご覧下さいませ!出発まであと30分しかありませんのよ!しかも貴方は昨日の夜からもう半日も眠られておりますわ!」
「あと30分!?なんでもっと早く起こしてくれないの!?」
私は出発まであと30分しかないと聞いて飛び起きた。なぜもっと早く起こしてくれないのか…………「私、起こしましたわよね……?何度も……」…………すいません、そうでした。モリスが静かに怒っている……怖いよ。完全に私のせいではあるのだが。
「私がもう少しと延長を求めたんでした……ごめんなさい……。」
「わかればいいのですよ。さあ、早く準備を始めてくださいませ?」
「……はい。」
それから10分後、私は制服をバッチリ着こなしてドレッサーの前にある椅子に腰掛けていた。
レベッカとアニー率いる侍女隊が、素早く私の髪の毛を編み、私は編みやすいように背を伸ばしながら真っ直ぐ前を見て1口大のイチゴジャムパンにかぶりつく。こんなの普通のご令嬢でもありえない光景だろうが、私からするといつも通り……寝坊常習犯の私にぴったりの朝の光景である。
「セットが終わりましたわ、マリア様お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
レベッカが満足げな笑顔でそう言った。
今日は1発で成功したらしい、よかったよかった、調子が悪いと不機嫌になって怖いから…………はは……
「こちらお鞄でございます。」
「こちらお帽子でございます。」
私が廊下の方のドアに向かって一歩踏み出す度に侍女が荷物を手渡してくれる。私はそれを優雅に受け取るだけでいいのだ。こういうのをされていると本当に公爵令嬢に生まれ変わったんだなーなんて実感する。日本の一般家庭とは全く違う、若くして死に無念だった前世も、2度目の人生を貰うチャンスとこの世界を知れたのだから悪くはなかったと思えた。
「みんな、ありがとう。行ってきますわね。」
「行ってらっしゃいませ」
侍女達が同じ向き同じ角度で揃ってお辞儀する姿は迫力がありとっても綺麗だ。
私はにこりと笑い、胸を張って部屋から出た。
「マリア様、門にイブリン様、レオナルド様が到着なされたそうですわ。」
「報告ありがとうモリス。少し急ぐわ。」
私が少し足を早めて玄関ホールに向かおうとした時だった。
「お待ちくださいませ!!これは……忘れ物ではありませんか?机の上に不自然に置かれておりましたが…………」
……?それは……ああ!!忘れてた!!そうだよ、図書館事件の資料持っていかなくちゃいけないんだ……アイザックのせいですっかり忘れていた、じゃあ今日は夢の話と図書館事件の話をしなくちゃいけないわけね……。
「ありがとう、忘れるところだったわ。」
「いえ、よかったです。」
そう言ってにこりと私に資料を手渡した侍女は私の知らない顔だ。大概の侍女の顔と名前は覚えているはずなのだが。
「あなた名前は?」
「リリスと申します」
リリスと名乗る少女はぺこりと頭を下げた。リリス……やはり聞いたことがない、新入りさんかしら……?
「リリスは1ヶ月ほど前からうちで働いておりまして、お嬢様付きになったのは昨日からでございます。」
私の心を読んだかのようにモリスが補足してくれる。ああ、そうなの。確かに昨日からだと名前も顔も知らないだろう。それに昨日は寝てしまっていたし……
「そうなの、助かったわ。これからもよろしくね、リリス。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
初日からリリスに助けられたな、これからもお世話になりそうだ。私はいい子が入ったな、なんて思いながら急いで玄関ホールに向かう。
______この時、資料は見つからないよう魔法をかけて引き出しの中に入れていたのになんて事は全く思い出さなかった。
♡◇♤♧
「それでね、前世の私が私に向かってこう言ったの____「マリー、ちょっと……」「なに?レオ、私真剣なのよ、話の邪魔をされたら困るわ」「でも……」
お昼休みになり、やっとエドワード、イブ、レオ、ウラノス、アイテールが揃った。ウラノスとアイテールの2人は学校なので妖精の姿で私たちの周りを飛び回っている。スイは先生に頼まれて植物園に出張中である。
私は早速昨日の夢の話をし始めた。本当に怖かったのだ。それに、あの言葉を信じるとしたら、"わたし"は今もあそこにいる……あの白い街に、ミイラになっても、灰になっても、いつまでも天国へ行けないわたしが。
「でも何よ、本当に時間が無いのよ?」
「マリー、イブとエドワードはマリーの前世の話を聞いたことがあるのかい?マリー、2人に話した?」
「あ。」
すっかり話した気でいた。けどよくよく考えると話してない……てことは?2人はずっと知らない話を聞かされてた?私、妄想女になってた?やっばい、1回黙ろう、深呼吸深呼吸________ふう。
「レオ、ごめんなさい。ありがとう。」
「いいよ、マリーが焦っているのは分かったから」
レオは私があんな態度をとったのにも関わらず、ニコリと笑って許してくれる。やっぱり優しい、この優しさにどこまでも甘えてしまうけれど、私も一歩踏み出すときが来たのだろうか……
最初はレオと仲良くなる為にイブに近づいたけれど、目標を達成した今、私はレオと同じぐらいイブとエドワードが大好きになっている。
「まずは、マリーの前世とやらの話を聞かせていただけますか?アイテールとウラノスがマリーの加護精霊になっている時点で何かあると思ってはおりましたわ。覚悟はできております。」
「僕も何となくわかってたから大丈夫だよ。」
絶対に手離したくない大切な友達、嫌われたとしても本当の事を話すべき……話はそれから。
「じゃあ……話す……ね……」
「はい」
「ああ」
レオが私の手を握ってくれる。大丈夫、私にはレオがついている、安心して口を開きかけたのだが___
「待て、ここで話すことではないと思うよマリア」
「俺もそう思う、誰が聞いてるかわからんやろ」
アイテールとウラノスが私を止めた。確かに言われてみればそうだ、ここは中庭、距離があるとはいえたくさんの人がいるし、護衛だってその辺にいくらでも隠れている。迂闊だった、今日の私は少しおかしい。
「ごめんなさい、考えが甘かったわ。じゃあ、どこで話せばいいかな…………?」
「うーん、そうだな、僕が新しく秘密の部屋を作るよ。これからも大事な会議はそこに集まってしよう。放課後、いいタイミングでキミたちを呼ぶから話はその時に。いいかな?」
「うん、ありがとう。」
それは助かる、アイテールが作るならきっと1番安全だろう、私は放課後までに話の内容をまとめておかないと。
「大丈夫ですわ、ありがとうございます。」
「そんなことも出来るのか……すごいな」
「こういう所だけ神っぽさ出してくるなよ……」
あとの3人も承諾して私の前世についての話は放課後する事になった。昼休みももうすぐ終わりだ、話題を変えて教室へ戻る。
残った問題は2つ、ゲームの設定まで話すかと、イブにレオと仲良くなりたいがために貴方と友達になったの、と打ち明けるかだ。確実に嫌われる未来が見える気がする、それは……嫌だな……
でも、これ以上隠し事をしてしまっていていいのだろうか、この機会に全てうちあけた方が……ああ、どうしよう……
隠し事をするのも嫌、でも嫌われるのも嫌…………
どうしよう、一向に結論が出ない。
隣を見るとイブはいつもと変わらぬ笑顔で歩いている。そんなイブを見て余計に悩む私であった。
ゴールデンウィーク、いかがお過ごしでしょうか?
私は部屋の大掃除と模様替えをして部屋が広くなりました。
とっても快適でございます(*´˘`*)♡




