到着
真子かわいいよ真子
「ここが俺たちの暮らす家か…」
新幹線から電車に乗り換え、さらに船に乗り換えた挙げ句30分ほど歩いてようやく辿り着いた我が家。ぶっちゃけド田舎だった。
朝八時に出たというのに、もう日が傾いている。
「…どうする、真子」
「とりあえず入ってみましょうよ!」
興奮ぎみに真子が答える。でも長い間入ってないんならめっちゃ汚いんじゃないだろうか。
がちゃり。
おもちゃのような鍵を開け、一度躊躇ってからドアを開ける。すると…
「うわ…」
「わあ…」
薄いカーテンから差し込む夕陽。
木製のシックな階段。
整頓されたリビング。
いい部屋だった。ホコリもなぜかそんなに溜まってない。
…でもやっぱり気になるな。
ダッシュして家中の窓を全開にする。これは必要なことだ。長い間放置されてた空気なんて何があるかわかったもんじゃない。
換気扇も回して一安心。していると、真子が色んな所を見てはしゃいでいるのが見えた。
「わ、わ、すごい!いい部屋です!」
やべえすっげえかわいい。
「いい部屋だな」
「はい!ここが私たちの愛の巣になるんですね!」
愛の巣て。
「…そうだな。さて、じゃあ晩メシはどうする?どっか食いに行くか?それとも作るか?ちなみに、俺は家事のスキルは無いぞ」
「もちろん知ってますよ。でもまだガスと電気が復活してないので、食べに行きましょう」
「あ、そうか」
あんなに急に決まったのだ。ライフラインが水道しかない。どうしよう。
「ちょっと待っててくれ」
ポケットから携帯を取りだし、親父に電話をかける。
プルルルルル、プルルルルル、ガチャ。
『もしもし、着いたか?』
「ああ、お陰様で、まだ電気もガスもないこの家に着いたよ」
ピシッ。
空気が凍る音がする。
「大体何日後に復活する?」
『あー…早くて三日後くらいかな』
「そうか、そりゃ大変だ。きちんと準備ができてから送り届けられなかったこの大変さ、親父は分かるか?」
『わ、ワカルゾー』
「そうか分かってくれるか。じゃあ詫びに何をしてくれるのかな?」
『…電気ガス代払います』
「ちょっと足りないな。もっと反省を込めて!」
『…電気ガス水道代払います』
「まだだ!食費もだ!」
『いい加減にしろよクソガキ』
あ、キレた。
「じゃ、電気ガス水道代は頼んだからな」
『待て、まだ言いたいことは…』
プツッ。ツーツーツー。
「…電気ガス水道代は快く引き受けてくれたぞ。俺たちが払うのは食費だけでいいそうだ」
「…亮太くんって結構鬼畜ですよね」
そんなツッコミは聞こえなかった事にした。
「…じゃあまず、必要なもので家に無かったものはあるか?」
夕食後、家に帰ってきた俺たちは、会議を開いていた。議題は『こっちに移ったことの問題点』。ちなみに、風呂は水のシャワーを浴びた。
「特には無かったです。電気とガス以外では」
「じゃあそっちは大丈夫か…ああ、そうだ。こっちの教科書類…まあ、学校で貰うか。じゃあ当面必要なものは無いな。貯金も十万ほどあるし、今月分の食費には充分だろう」
「え、私も払いますよ」
「いや、いい。その代わりと言ってはなんだが、家事全般を頼む。さっきも言ったが、俺は家事のスキルが無い。俺はバイトをするから、家事は任せた」
その俺の発言に、真子はしっかりと悩んでから、「分かりました…」と頷いてくれた。
「よし、じゃあ明日は学校に転校の手続きをしに行くから、今日こそ早く寝るぞ。真子の部屋は向こうだからな。んじゃ、おやすみ」
…と早口で捲し立てて、イベントを回避しようと頑張ってはみたが…
「い、一緒に寝ましょう!」
やっぱり無理なようだった。
「…いや、俺も男なわけだ。正直、お前の無防備な姿が目の前にあったら何をするかわからん」
「大丈夫です!そういう妄想をしながらその…自分で…慰めて…きましたから!」
なぜこうも普通に言うのだろう。
「…それにだな。俺だってお前と同じで自分で慰めることもあるんだ。お前と寝るということは俺もそれができないわけだ」
「私で鎮めればいいじゃないですか!」
「…ぶっちゃけ恥ずかしい」
「私もです!」
だろうね。なんでこうも押しが強いんだろうか。
「…わかったよ。ほら、来なさい」
「わーい♪」
先にベッドに入り、真子に手招きをする。…まあ、こういうのも悪くないか。
真子は喜んでベッドに入り、ぎゅーっとしがみついてきた。
「亮太くんの感触…亮太くんの匂い…亮太くん…亮太くん…♪」
…このちょっと変態だけどかわいい彼女と寝るのは実際幸せだった。
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