秋のはじまり
九月に入って少し経ち、大学での後期講義が始まった。大学の施設の姿は変わらないのに、混在する自然の姿が秋に備えているようで、なんとなく寂しく感じられる風景に模様替えしていた。
午前中の講義が終わり、お腹が空いたので学食に向かうことにする。学食にいくためには一旦外に出なくてはいけないのだが、日差しが弱まっているので億劫ではない。これが秋か。
学食で豚牛丼を頼み、隅の方に陣取る。まだピークを迎える前というのもあって、食堂の中は閑散としていた。久しぶりのジャンクな味付けは心が踊る。思い切りかき込んだ。
例年よりも今年の秋は辛くない。と、食後のジンジャーエールを飲みながら考える。
「今年の夏は楽しかったからな。」
そう呟くと、後ろから肩を叩かれた。
「相席いいかな。藤咲。」
「もちろん。」
声の主は小林だった。丸いメガネのツルをつまんで掛け直しながら、対面にハンバーグ定食を置いた。
「時和は?」
「さあ。大方、彼女とよろしくやってるんだろ。」
「あ、彼女いたんだよね。」
「ああ。そういや小林はどうなの?」
彼は、口元をひきつらせながらも何も言わなかった。対面の椅子に静かに座り、いちご牛乳パックにストローを刺した。唐突に彼の口が開く。
「実は、君より先に彼女ができるかもしれない。」
「え?」
「いや、できないかもしれない。現時点においては、できるというふうに言ってしまうのは早計だと思うんだけども。でも、見過ごすことのできない事実が眼前に迫っていて、にっちもさっちもいかないし、いや、いってるのかもしれない。」
「落ち着け。」
「落ち着いた。実は、結衣ちゃんが、僕にあからさまに好意を持っているようなんだ。」
「いつから?」
「プールの時に助けてから。」
ああ、結衣ちゃんがプールで溺れかけて、助けたときか。
「へー。どうするの?告白されたらつき合うの?それとも、告白するの?」
「正直、まんざらでもない。彼女は可愛い。僕を純粋に慕ってくれるし。気が合う。こんな機会二度とないかもしれないし。祭りのときにわざとはぐれさせたのも彼女だし、二人で回ったときも楽しかった。でも。」
「でも?」
「彼女、未成年じゃないか。」
「……確かに。」
「二十一歳が十七歳に手を出したら、犯罪だよ。」
「結衣ちゃんが、大学生になるまで待てば?」
「そのころには僕、卒業してるよ。」
「ああ、そっか。」
「じゃ、留……。」
「計画留年?それとも大学院?さすがに、両親に罪悪感、感じるよ。」
「だよね。……大変だな。」
「大変だよ。」
小林は頭を抱えて、がっくりとうなだれた。




