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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第二章 花嫁修業1 伝説の卵

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おへそが気になりますわ

「大いなる光よ、集え! 闇を祓いて、その身を浄めよ!」


 リオナの両手の間に、ゆっくりと光が集まっていく。

 それは、朝日よりも柔らかく、月明かりよりも優しい光だった。


「ギ、シャアァァァ!」


 その間も、フェニックスは激しく暴れ続ける。


「くっ……!」


 アリアーゼは、剣の柄を強く握り締めた。

 黒い炎をまとった巨体が暴れるたび、地面が揺れ、剣が軋む。それでもアリアーゼは、一歩も退かない。全身の力を込め、フェニックスを大地へ縫い留め続けた。


 リオナは、深く息を吸い込んだ。


 そして。


「浄化――!」


 叫ぶと同時に、両手の間に集まっていた光が、まばゆい光の玉となって放たれた。


「はあっ!」


 アリアーゼは、その瞬間を見逃さなかった。剣を引き抜き、大きく後方へ跳ぶ。


 アリアーゼとすれ違うように、光の玉がフェニックスを捉えた。

 光が、フェニックスを包み込む。


「グ、グオォォ! おのれ、おのれぇ!」


 黒い炎が、じゅ、と音を立てて、光の中に溶けていく。

 闇が、少しずつ、少しずつ、薄れていった。

 光の粒が、風に舞う花びらのように、あたりに散っていく。


 フェニックスの身体は、光の玉に完全に包み込まれた。

 やがて、その光は、みるみるうちに、小さく、小さくなっていき――


 ――ぽんっ。


 軽い音とともに、光が消えた。


 そして、そこに残っていたのは――


 黒い炎をまとった巨大な鳥、ではなく、抱えられるほどの大きさの、丸っこい、小さな鳥だった。

 

  ふっくらと丸い体。短く愛らしいくちばし。白と茶がまだらに混じった柔らかな羽毛に包まれ、岩場を歩くためだろうか、足は驚くほど太く、しっかりとしている。


 その小さな鳥は、きょろきょろと辺りを見回すと、こてん、と首をかしげた。

 つぶらな黒い瞳が、アリアーゼとリオナを順番に見つめる。


 とても、つい先ほどまで山を揺るがす咆哮を放ち、黒い炎をまとって暴れていた聖獣と、同じ存在には見えなかった。


「……え?」


 リオナが、ぽかんと、口を開ける。


 その、丸まった鳥のくちばしが、小さく開いた。


「あー……なんだかわからんけど、助かったっす」


 それは、あまりにも、気の抜けた声だった。

 先ほどまでの、あの、地の底から響くような、恐ろしい声は、もう、どこにもなかった。


 アリアーゼは、剣を鞘に収めながら、その丸い鳥を見つめていた。


「まあ……可愛らしいこと」


「い、いや、待ってください。さっきまでの、あの威圧感は、いったい……」


 リオナが、戸惑いながら、鳥に近づくと、鳥は再び口を開いた。


「あー、あれっすか。闇の力に呑まれてる間、なんだかテンションがおかしかったっす。思い出すと、恥ずかしいっす。黒歴史っすね。闇の力だけに」


 鳥は、ケタケタと笑った。


「…………」


 二人は、顔を見合わせた。


 この山を、ここまで、荒れ果てさせていた、あの脅威。

 その正体が、まさか、こんなにも、拍子抜けするような存在だったとは。


「あの、それより」


 リオナが、気を取り直して、尋ねる。


「山が、あんなに、枯れていたのは」


「うちが、闇に呑まれてたからっすね。うちの力って、この山の恵みと、繋がってるみたいで」


 丸い鳥は、こてん、と、もう一度、首をかしげた。


「でも、もう、大丈夫っす。おかげさまで」


 その言葉どおり、心なしか、周囲の空気が、先ほどよりも、澄んでいるように感じ

られた。


「ところで、お二人はなんでうちを助けてくれたんすか? 誰かの依頼っすか?」


「あ、そうでしたわ。わたくし、あなたにお願いがあってここまで来ましたの」


 アリアーゼが、ぽんっと手を叩いた。


「最高の卵を、わけてほしいのですわ」


「……え? それが理由っすか?」


 鳥は、怪訝そうな声で言った。

 リオナが慌てて言葉を重ねる。


「ち、違います! それだけじゃありません! 山が枯れていると聞いて、アリアーゼ様は、困っている者を放っておけなかったんです」


「へぇー……ほんとっすかね?」


 鳥が目を細める。


「まあ、それは卵のついで、ですわ」


 アリアーゼがこともなげに言った。


「ちょっと! アリアーゼ様!」


 リオナは泣きそうだった。しかし。


「あっははは。正直でいいっすね」


 鳥は笑いながら言った。


「いいっすよ。助けてもらったお礼もしたいし。なんなら、毎日一個ずつ、卵を産んであげるっす」


「まあ!」


 アリアーゼの目が、輝く。

 そして、間髪入れずに、続けた。


「できれば、毎日、二個には、なりませんかしら?」


「アリアーゼ様! いいかげんにしてください!」


 リオナが、思わず、声を上げた。あまりにも図々しい。

 鳥は、ちょっと考えるそぶりをみせた。


「そうっすね。美人のお願いだし、聞いてあげてもいいっす。ただし条件があるっす」


「まあ、なんでしょうか?」


 アリアーゼは、身を乗り出した。


「うち、まだ本調子じゃないんで。うちを養ってくれるなら、そのお願い聞いてあげてもいいっすよ」


 あまりにも軽い口調。伝説の聖獣とは思えないほど、気安い条件である。

 アリアーゼは、にっこりと微笑んだ。


「わかりました。交渉成立ですわ」


 即答だった。


「ちょ、ちょっと待って。ええ……」


 勝手に話がまとまってしまい、リオナは、天を仰いだ。


「よし。そうと決まれば、お二人の姿に合わせるっす」


 鳥は、ぴょん、と飛び上がった。


「よっと!」


 ぼわんっ。


 柔らかな光に包まれたかと思うと、そこに立っていたのは、一人の少女だった。


 丈の短い上着からは、健康的なおへそがのぞいている。動きやすそうな短パン姿。赤髪のショートヘアーで、どこか陽気な雰囲気だ。


「きゃっ! ひ、人になりました!」


 リオナが思わず声を上げる。

 少女は、くるりと一回転した。


「うちは、フェニックスの化身。名前は、アッチムと言いまっす。よろしくっす」


 アッチムは、ペコリと頭を下げた。

 アリアーゼは、感心したように頷いた。


「まあ、まあ、まあ」


 一歩近づいて、アッチムをじっと眺める。


「鳥さんなのに、おへそがありますのね?」


「そこ、重要ですか!?」


 リオナの声が山頂に響いた。


 こうして、聖獣フェニックスの化身――アッチムと名乗ったその少女は、二人と一緒に、暮らすことになった。

新たな仲間・アッチムが加わり、二人の花嫁修業はさらに賑やかに!

次回、新生活はますます大騒ぎです。

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