相談
「こんにちは。戸隠さんいます?」
多嘉良が戸隠を尋ねると、丁度狸族の穂高と
カラス天狗族の愛鷹が来ていた。
「よう、兄弟」 「兄弟いうなっ」
「腹の出具合が兄弟」にこにこと、お腹を指さす穂高だった。
「はいはい。そこは否定しません」
「いらっしゃい。何かありました?」
戸隠が陶器に入った、できたての甘酒を持って奥から出てきた。
戸隠は穂高と村の人々と共に、小規模だが酒を造っている。
国の許可は…。この村に日本国憲法や法律は通じない。
「おーい」と和室の戸が開いて、村の老人が手を挙げる。
「源太さんも。お茶会ですか?」
「甘酒の味見会です。どうぞ。味見してください」
戸隠は多嘉良に甘酒を差し出した。
「おおー。いつもありがとうございます。
実は聞きたいことがありまして…」
*
「狐族の末裔が…。美和嬢が狙われている?」
狐族の末裔と聞いて戸惑う戸隠だった。
「美和ならそこらの男には負けないくらいに鍛えてあるぞ」
愛鷹が驚くことを多嘉良に告げた。
「はぁ?一体いつ?誰が?」
多嘉良がヘンな声を出した。
「藤子に頼まれて6つくらいの時から、戸隠が」
「愛鷹が」
お互いに指さす愛鷹と戸隠だった。
「わしもー」と、源太じいさんが楽しそうに手を振る。
「源さんもかっ」
「愛鷹の剣に戸隠さんの鉄扇に、おまけに旧海軍仕込みの合気道とか。
…犯人、可哀想」多嘉良がぶははっと笑う。
「だが美和には実戦経験がない。
あってもせいぜい痴漢撃退くらいだ」
愛鷹が問題を指摘する。
「あ、それはまずいかもな」多嘉良の顔が一瞬、真剣になる。
「それで、わたしにお話しが?」戸隠はいつも丁寧だ。
「そうだ。藤子さんの話によると、相手は耳と嗅覚がいいらしい。
身体能力は不明。他に狐族の特徴で気を付ける事はありますか?」
「そうですね、我々は遠くの音が聴こえますが、地下の音も聴こえるんです。
地面の下にも耳が効きます。トンネルとか、地下街に隠れてもわかります。
あとは妖術が人間に継がれるのはまれです。
わかっているのは安部晴明さんくらいでしょうか」
「わかりました。そう伝えます。ありがとう」
去って行く多嘉良を見送って
「狐族か…」とつぶやく戸隠。
「美和が心配か?」
「まあ…。狐の末裔とやらに興味はある」
山の向こうを見ながら戸隠は答えた。
*
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
お菓子屋さんでのバイトを終えて、美和は店を出た。
お菓子におつまみに、お年寄り用に羊羹も買ったし
行動食も安く買えたし、バイト割引万歳~。
夏休みのうちにもう一回村へ行こうかな。
そう思って、ほくほくしながら夜道を歩いて行った。
首から下げた母のお守りのガラス玉が揺れる。
坂を上ると広い公園の近くに出る。
午後8時半。街灯の明かりが植え込みを照らしている。
住宅地でもあるのだが、人通りはない。
…ペタ …ペタ ペタ。
何者かが美和の後をつけてくる。
その足音が不気味に響いていた。
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