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幻術

「ねえ、晃一。ねえってば。起きて」

その声に目を開けると、そこに優香が立っていた。


「ひっ!!」

声にならない声を上げて、座ったまま後ずさりをする晃一に

「どうしてわたしを殺したの?」と

彼の髪を掴んで引き寄せた。


「一生恨んで。ついて行くわ」

白目のない黒い目が晃一の顔を覗き込んだ。


「わあああああああっ」

悲鳴を上げて周りを見ると、シーンと静まり返った公園の前の通りだった。

「夢…」


晃一はそのままふらふらと繁華街まで歩いた。


黒い霧のようなモノから解放された優香は、冷静さを取り戻して

晃一の後ろからついて行った。


彼は自首するだろうか?それが知りたかった。



ネオンの街は遅い夕食を取ろうとする人々で賑わっていた。

晃一の目にはその人々が、時おり優香に見える。

「うあ、 うあぁ」と叫びながら歩く晃一を

みんな危ない人だと避けて通った。


優香は通りの向こうに、食事を終えた奥村唯が

母親と共に歩いていることに気が付いた。

晃一の行動を不思議に思っていた優香だが、

「この状態を利用してやろう」

優香はすかさず唯の前に立ち、「こっちよ。こっちへ来て」と手招きした。


優香の誘いが効いたのか、唯は晃一の方へ進んで行く。


「あ、城田さん。お母さま、この方がさっきお話した城田晃一さん」

唯は嬉しそうに母親に紹介した。

「よかったらお茶でもご一緒にどうですか?」

誘う唯の顔が、晃一にはブレて見える。


「え…。え…優香…何だよ…」

晃一の目に、唯とかぶって優香の顔が見えた。


「ふざけるなー。いい加減にしろ!お前は死んだんだ」と

殴りかかった。


「きゃあああぁぁぁ。娘がー。誰か…誰かーっ」

母親の悲鳴が響く。


「女の子が襲われているぞー」

「警察よんで!」

「救急車も」


通行人に抑えられて我に返った晃一は、

恐怖の目で自分を見る唯に気が付いて、

放心状態で座り込んだ。


全てを見ていた優香は、満足してその場を離れた。



戸隠とがくしを村まで送るために、美和の母は車を出していた。

高速に入って、スピードが上がる。

戸隠は後ろの席に深く腰掛けて、酸素缶の酸素を吸っている。


運転席の母と助手席の美和の間に、優香が現れた。

「優香さん」

美和が横を向いて優香を見る。


「お世話になりました。

晃一が幻を見たみたいで、奥村さんをわたしと間違えて殴って

そのまま逮捕されました。 やがて殺人も自供するでしょう。

彼女は可哀想でしたが、気が晴れました」


「では、あの世に行くのね?永介に手伝ってもらう?」

美和の母が安心したように聞いた。

「一人で大丈夫です。美和さんには我を忘れて真っ黒になりかけたのに、

助けてくださってありがとうございました。」


「優香さん、あの人は学生の頃、友達がいなかったって。本当に?」

「それはどうかしら?友達は多かったって言ってたわ。

特に大学では」

そう言って、優香は静かに消えて行った。


「騙された。ちょっと同情して損した」美和が頬をふくらませる。

「まだまだ青いっ。でも子供ならそれでいい」


「…優香さん、あの男が幻を見たって言ってたよね?」美和が不思議そうに聞く。

「幻術かしら。戸隠くん、犯人に何かした?」

「少し。…彼女がいたんですか?」

「ええ。納得して消えたわ」


「ねえお母さん、アヤカシの血が濃く出ている人間って他にもいるのかな?」

「そうね。途中で覚醒みたいに出る人間とかいるかもね。

それにもし会っても、村の人たちみたいに穏やかで

今回みたいな悪人とは限らないから、その時考えればいいじゃない」

「うん、そうだね」


美和は次々と過ぎていく高速の明かりを、ぼんやりと見ていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

引き続き、楽しんでいただけますと嬉しいです。

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