やうと村にて
狐 カラス天狗 河童 鬼 古来より「妖」や「妖怪」といわれた者たち。
かつて、彼らは人間と共に暮らし、人間との間に子孫を遺した。
中でも「比十」と呼ばれ、死者と話し、傷を癒した者たちは人間に近い外見のため
より多くの子孫を遺した。いわゆる霊能者の祖である。これは比十族の末裔の少女の物語。
●登場人物紹介
穂積美和…16歳。アヤカシ・比十族の末裔。死者が視え、死者と話す。
比十は霊能者の祖。
穂積藤子…40歳。美和の母。傷を癒し、まじないをする。
多嘉良永介…40歳。藤子の幼馴染。アヤカシが住むやうと村の神社の宮司。
霊能者。
戸隠…アヤカシ・狐族。外見は人間の20代前半くらい。長身。
銀色の長い髪と金色の瞳。夜はスリット状の茶色の瞳孔になる。
村の責任者。愛鷹とは友人。
愛鷹…アヤカシ・カラス天狗族。隻眼。右目に黒い眼帯。黒髪を総髪にしている。
炭焼きをしていて、炭は高級品で評判がいい。戸隠と同い年。同じ身長。
早瀬と梓…アヤカシ・河童族のコンビ。外見は10歳くらい。
一応将来を約束している。
穂高…狸族のぽっちゃりさん。外見30歳。多嘉良と仲がいい。
手先が器用でなんでも作る。
その他、村にはアヤカシの末裔の人間が暮らしている。
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「どうして?息ができない。助けて!」
スキューバーダイビング中、海中でもがく彼女が最期に見たのは、
水面に上っていく銀色のエアーだった。
*
連休があると母の故郷のここ、やうと村へ来るのが穂積美和の習慣だった。
夏休みに入って、美和はいつもの通りに母の幼馴染─多嘉良永介がいる神社に滞在していた。
白川郷のようなこの村は山の中にあって、
古代から人間と共に暮らしていたアヤカシ─狐、狸、河童、カラス天狗、鬼など、
いわゆる【妖怪】といわれた者たちと、その子孫が住んでいた。
渡来人:なあ、あの山はなんて山だ?
古代日本人:ありゃあ、愛鷹ってアヤカシが住む愛鷹の山さ。
渡来人:へー。愛鷹山っていうのかー。
「…ってなわけで日本の山や川に名前が付いたんだ」
多嘉良が人形とジオラマを使って、小芝居を美和に見せている。
「このジオラマ綺麗。すごいね。多嘉良さんが作ったの?」
「まさか。狸族の穂高さんが作ってくれたんだよ。狸族の器用さは天才的だからな」
アヤカシには部族があって、それぞれ能力を持っていた。
狸族は手先が器用な職人。狐族は嗅覚と聴覚に優れ、妖術を使う。
河童は水に長け、カラス天狗は風を操り空を飛び
鬼はとてつもない力を持っていた。
その中の比十族というアヤカシは、死者と話し迷えるものを導く。
中には傷を癒す者もいる。霊能者の祖である。
美和の母も、母の幼馴染の多嘉良も比十の血を引いている。
しかし、まだ未熟な美和は能力をコントロールできないために
休みを利用して多嘉良が宮司を務める神社に泊まって、
霊能力の使い方を習っているのだった。
「まずは【視えるチャンネルと、そうでないチャンネル】を切り替える練習だ。
滝行しながら切り替えるコツをつかんでごらん」と多嘉良に言われて
美和は神社近くの滝にやってきた。
滝といっても落差は10メートルもないので、初心者の美和はぴったりだった。
目を閉じて滝に全身を打たれる美和だった。
ザアアアア…と、水の落ちる音だけが耳の奥に響く。
スイッチを切り替える…。
目を閉じて集中すると、目の前にチカチカする光りの玉が見えて、
それが一瞬消えて暗闇になった。
そして額の奥の脳に近い場所でカチリと音がしたような気がした。
静かに目を開けるとそこに…。
そこに川から這い上がろうとする、乱れた髪の女性が手を伸ばしていた。
白い部分がない暗黒の瞳。骸骨のような顔で美和に掴みかかろうとしている。
「は…ぐあ…」美和は言葉にならない声を発して固まった。
「助け…て…」絞り出すように女は言葉を発した。
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