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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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厄介な案件

 突如現れたセサミに困惑を隠せないスライストだが、彼もまた公爵家嫡男として教育を受け、感情を隠すスキルを持ち合わせていた。


 それに今は、(スライスト)こそが当主である。



 気持ちを整え、遅れて応接室を潜るスライストに、セサミは座して珈琲を手に持ったまま微笑んだ。



「今日は王室からの話しを持ってきたのだ。聞いてくれ」



 セサミは、スライストを責めることはしなかった。

 だが……息子(スライスト)の体調を尋ねるでもなく、コロネ達だけにワッサンモフ公爵家を預け、放置していたことを謝罪する言葉もなかった。


 淡々と今まで何もなかったように話すその態度に、(ああ。この人は今も僕を当主として扱う気はなく、昔のまま手駒だと考えている)と悟ってしまう。


 けれどその事に反応すれば会話が進まなくなることは分かりきっていた為、あえて先に内容だけを確認することにした。



 昔ならどこまでも譲る気のない父と諦める息子の図。それを当然と思うセサミは、もう従順な息子はいないと気付いていない。



「国王がコロネの活躍と資産に目をつけたようだ。順当にいけばコロネが次期公爵だろう? その婿に第三王子のミントジュレはどうかと推薦された。国王直々に」


「そんな……国王の推薦なんて」


「そうだ、殆ど断れない推薦だ。それにコロネは仮婚約もなくなり、今は婚約者もいないからな」


「くっ。ですが、そこまでコロネに執着していたなら、仮婚約くらいであれば意味をなさなかったでしょう。王家にしてみれば」


「まあ、そうだ。だが考える時間くらい、稼げたかもしれないがな」




 息子(スライスト)の悔しげな顔に、僅か口角を上げるセサミ。隠しきれない愉悦は、他人よりも気を許している息子だからなのだろうか?




「ミントジュレは、愚かではない。それどころか狡猾で人当たりも良い。暴力も振るわないぞ。ただ……好きな女がいるだけで。少しだけ目を瞑れば、ワッサンモフ公爵家は今後も安泰だろう。ふふっ」



 セサミの言葉に(神経を逆なでする言葉を選ぶセンスは随一だな)と、表情を変えず聞き続けるスライスト。





◇◇◇

 ミントジュレ王子は16歳で、10歳になったコロネとの年は少し離れている。

 15歳で学園に入る前は物静かな秀才と評価されており、何れ他国の王女の元へ婿入りが考えられていたのだが、ある女生徒との交際が発覚した。


 (ミントジュレ)の自称運命の相手が、同級生で男爵令嬢のモモ・コンポートナだと言う。


 桃色の髪と赤い瞳のうさぎのような、小さくて華奢な可愛い系だ。周囲の男子生徒は騙されているが、小動物は所詮動物。こっそりと牙を隠しているものなのだ。


 同じ女性達は気付いているが、ミントジュレもそれを見逃した。恋愛フィルターのせいかもしれない。


 

 ユゼフィラン国に留学している者や諜報員からその事実を知れば、該当に上がった国が令嬢の婿候補から外すのは当然のことだった。

 たとえ事実でなく噂であっても、下調べはするのだから。



 経済支援の欲しい国ならば少々の瑕疵持ちでも大歓迎だが、国王が欲しいのは金と権力でありボランティア精神は皆無だ。


 有力な国からの婿入りが不可となり、次に目をつけられたのがワッサンモフ公爵家だった。


 迷惑甚だしいとは、正にこのことである。



 ミントジュレがもし公爵家に婿入りする時は、モモも付いてくる未来は悪夢しかない。


 普通は別れさせるのが筋であるが、(ミントジュレ)がこう言うのだ。


「政略結婚は受け入れますが、その時はモモも一緒でなければ嫌です。でなければ平民となり二人で暮らします」



 他の王子と年を開けて生まれた、末息子のミントジュレを溺愛する王妃は絶叫し倒れた。


「あぁ、平民なんて駄目よ。あんな場所に行けば、汚くてすぐに病で死んじゃうわ」



 王妃を愛する国王は、すかさず彼女を胸に抱きて約束する。


「大丈夫だよ、キヨミ(王妃)。国内の臣下なら王命に逆らえないから! 私に任せておくれ」


「本当なの、ルイボスト(国王)?」


「ああ、夫を信じるのだ」


「それなら安心ね。みんな幸せになれるわ」


「ああ、だから泣くんじゃない」


「ありがとう。大好きよ」





 そんな茶番劇が繰り広げられたらしい。

 元より国を操るのは、フォカッチャー・クロダインで、国王夫妻は傀儡に等しかった。


 王太子ストビーテは両親と違い優秀で、スライストと親友だ。フォカッチャーにとって、ストビーテは邪魔な存在であった。


 けれどもし、ワッサンモフ公爵家にミントジュレが婿入りすれば、スライストの発言力は弱くなるだろう。


 王子(ミントジュレ)を操り、そうする力があると信じて疑わない自信家のフォカッチャー。


 さらにミカヌレが再び公爵家に姿を現したことで、手駒に加えられるとほくそ笑むのだ。





◇◇◇

 そんな思惑が渦巻く婚約の打診。ほぼ決定案件。


 でもその情報は、レイアーに聞いてだいたい知っていたスライスト。


 まさか本当に実行に移すとは思わず、信じられない気持ちでセサミを騙した形だ。いや驚きは隠せず、確認の意味で聞き返していたが正しいのかもしれない。


 セサミはワッサンモフ公爵家を庇わなかった。たぶん反論もせずに、微笑んで受け入れたのだろう。


 それに国王が、前公爵である(セサミ)に婚約打診することにも怒りを覚える。おおよそ予想はつくことだが、宰相のフォカッチャーの入れ知恵だろう。


 未だスライストが、セサミには逆らえないとフォカッチャーに思われているのだ。確かに若い時は、いや崖から落ちる前はそうだったかもしれない。



(クリムの件も含め、父上は切っても良い存在に成り下がったようだ)


 スライストはセサミに見切りを付けた。





 そして最後にもう一つ、セサミに尋ねるのだ。


「父上にお聞きしますが、クリムのことはどうする気ですか? ワッサンモフ公爵家の財産をかなり使い込んでいますが、父上がお支払い下さるのでしょうか?」


「何故、わしが? わしからは『訪問くらいは構わないが、余計な真似はするな』と伝えていたぞ。クリムは政略結婚を蹴ってまで子爵家に婿入りし、既に籍は公爵家にない人間だ」


「では今後も、お支払いはしないと考えて良いのですね」


「無論だ。クリムに請求すれば良い。使った者が使った額を返すのは、当然のことだ」


「……そうですね。当然のことです。それでは今後、僕の決定に異論は挟まないで頂きたい。良いですね?」


「分かった……」




 いつになく強い圧に、セサミも僅かたじろいだ。

(それ程怒っていると言うことか? それとも額が酷いのだろうか?)


 セサミはある程度、クリムの借金のことを知りながら面白がって放置していた。重大な過失があれば、レイアーやバジルから報告が上がるだろうと思い。

 コロネで手に負えなければ手助けしようと考えていたが、いつになっても報告はなく忘れていたくらいだ。



 そんなことより、ペットの豚(マイクロブタ)の研究に力を注いでいた為、借金の額を知らなかった。

 豚は可愛いが食料な彼らは、生後半年で命が消えてしまう。だからと言って、貴重なタンパク質である豚を食べることに反対はしていない。



 セサミはワッサンモフ公爵邸を離れて、豚を飼って暮らしていた。面倒を見るのは殆ど使用人であるが、彼も汚れを嫌わず豚小屋の掃除や給餌を行っていた。


 当然寿命である10年前後まで、世話をし続けていた。

 そこでは豚を、使用人一人として食卓に乗せていない。みんな豚を愛していたからだ。


 セサミは共に暮らせるよう、犬猫と同じように生涯愛らしくて小さい豚を作ることに力を尽くし、成功していた。


 もし豚に生まれても、絶望しないようにと。

 それは勝手なセサミの願い。

 彼は大きく育った豚のことも愛していた。

 世話をした彼に懐き、綺麗好きで物覚えも良い豚達のことを。


 周囲には隠しているが……本心では養豚を中止させたい。野生の豚(恐らく猪に当たる)ならまだ割り切れるのに。


 けれど…………。

 何も知らずに人間を信じて、ある日命を奪われるのは考えるだけで辛いのだ。


 養豚家だって可愛い期間を共に生きて、辛い思いをしているがそれが職業なのだ。生きていく為に仕方がないこと。

 牛や鳥、羊だって同じで、愛情を込めて育てられている。



 けれどセサミは貴族で、養豚家ではないから我が儘が許されているだけで。






◇◇◇

 クリムのことは、ある程度遊べばギャンブルも女も飽きるだろうと考えていたセサミ。だがその目論見は外れ、飽きは来なかったようだ。


 仕事もしていない(クリム)は、半ばそれ(散財)が普通の生活のようになっていた。できてしまったのは、ワッサンモフ公爵家だからでもあったのだが。



 利息は付けていないのに、最早3年以上が経過して天文学的な金額になっていた。返済は無理ゲーに等しい。


 それをセサミは知らない。

 見ようとしないで散財していたクリムとコーラスも怖くて知ろうとせず、事実からのラビリンス(迷宮)を構築していた。



 それを知る彼らの(ブルーベル)が、代償として生涯をコロネに仕えていく決意をしているだけだった。


 

 無論コロネはそれを望んでいないし、師匠のタバサも同様なのだが。儘ならないものだ。






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