セサミの訪問
スライストはセサミからの連絡を待っていたが、その後1か月は書簡での連絡さえなかった。
「クソ親父め。僕が戻ったことを喜ぶまでではなくとも、連絡くらいできるだろうに。もう諸々、勝手に処理して良いかな?」
市井暮らしで逞しさを身に付けた彼は、幼い頃から受けたセサミの洗脳が解け、自分の意思で動けるようになっていた。
今までも彼は自分で決断しているつもりだったが、セサミからの何気ない台詞でかなりの影響を受けていたのだ。それも意識下で。
彼にはクリムのやっていたことが理解できなかった。
婿となりチェロスト子爵家を預かっているのに、仕事を放り投げて生家に入り浸る。
スライストが不在時の、仕事の穴埋めをするならまだ分かるが、公爵家の資金で遊び回っているのは何故なのか?
もしスライストが本当に戻らずに、クリムが公爵になったとしたら、没落一直線だと考えないのだろうか?
当然ながら公爵家と言えど、年間予算は限られている。その中で貴族としての必要経費を捻出し、領地の整備を行い、不作や災害時の積み立てを行う必要がある。
それが…………。
スライストが数枚の請求書に目を通すだけで、眩暈のするような額が目に飛び込んで来るのだ。
「王族でもここまでの浪費はしない。いや向こうは税金だから、監査が入り使えない額だな。あいつはもしかして……公爵家を継げない腹いせに潰す気だったのかな? そう思えば納得できるか…………」
クリムはワッサンモフ公爵家が没落しても、チェロスト子爵家に戻れば良い。だからこそ姪のコロネにも憎しみを抱き、公爵家を掻き回していたのではないのかと。
「愚かな振りをした、強かな策士だったか。ワッサンモフ家の血を引き、ただの愚者な訳がなかった」
スライストは有能過ぎて勘違いした。
クリムは何も考えていないだけなのだ。
「ワッサンモフ公爵家は国の誕生から続く名家だ。金など腐る程あるのだろう。今まで父上に何も言われないのが、何よりの証拠だ」
彼は大事なことを学ばずに暮らしてきたことで、お金がいくらでもあると思ってしまっていた。
尻拭いをしていた、周囲の苦労を何も目に入れることなく。
だから、スライストは思った。
「クリムとコーラスは、コロネとミカヌレの近くに置いておけない。もし害されたら、僕はクリムを生かしておく自信がない」
的外れに有能扱いされたクリムは、知らない間に身の危険が迫っていた。
◇◇◇
そんな時、先触れなくセサミがワッサンモフ公爵邸に現れた。
「おお、久しぶりだな。元気そうじゃないか?」
「…ええ、まあ。父上もお元気そうですね」
突然に訪問に呆気に取られるスライストだが、レイアーが颯爽と現れて、応接室へと案内する。
「いらっしゃいませ、セサミ様。どうぞこちらへ」
「うむ。そうさせて貰おうか、レイアー頼む」
「はい、お任せ下さい。スライスト様、御前失礼致します」
「ああ、頼むよ」
以前と変わらぬ不遜なセサミに、スライストはこめかみを押さえた。
「何故、急に訪れたのだろう? はぁ。取りあえず、一つずつ解決していくしかないな」
連絡をしても音沙汰のなかったセサミ。嫌な胸騒ぎを覚えながらも、父の待つ応接室へと向かった。
◇◇◇
その頃のクリムとコーラスは…………。
話し合いの打診をしても、「不調だから、無理だ!」と部屋に籠って出て来ずに、未だ正式にスライストと顔を合わせていない。
けれど食事は3食完食し、医師の入室は拒んでいた。仮病確定である。
その件も含め、セサミに尋ねるつもりのスライストだった。




