揃った親子
フルーツパーラー『エクラ』の個室を借りて、変装しているミカヌレとスライスト、そしてコロネは再会した。
ここに来る前に母といろいろな話をして、父が生きていることを知ったコロネ。
複雑な状況があったのは承知なのだが、生死だけでも教えて欲しかったところである。
「でも、まあ。もう良いです。生きていてくれたのだから」
その言葉に「ごめんね……」と、涙が溢れ再びコロネを抱きしめるミカヌレ。瞼を閉じ、その体温をじんわりと嬉しく感じるコロネ。
『二度とこんなことは起きない』と両親の生存を半ば諦めていた彼女にすれば、まさに奇跡だった。
そんなコロネだから、父に会う前は少し緊張していた。かなりの大怪我で、暫くは起き上がれなかったと聞いていたから。
けれど顔を合わせた時、元気そうな顔を見て不安は吹き飛んだ。
「お父様、お体はもう良いのですか?」
「ああ、もうすっかり元気だよ。……コロネ、ごめんな。ずっと一人にして、辛かっただろ?」
「ううん、そんなことない。アンナもレイアーもメロアンも、みんなで支えてくれたから。また会えて、嬉しいです、ぐすっ」
「コロネ……。ごめんなぁ」
言葉にならずコロネを抱きしめる、スライストの背に彼女も静かに手をまわした。諦めていたもう一つの体温が戻って来た嬉しさと、母を何より大事にする父の存在を感じて。
コロネはずっと考えていた。
母が駆け落ちしたと聞いた父は、執務も放り出して捜索を続けていた。1日ごとに母との距離ができる不安の中、嵐の日も馬を走らせて転落する程に。
父はきっと、母が本当に浮気をしても、相手から奪い去る気持ちだったのだろう。それくらいの愛情をコロネは父から感じていた。
最早、執着と読んでも良いくらいの。
だからこそ父は父であるが、何よりも母の夫であるのだと実感できた。
それは尊い夫婦愛であると共に、子である自分は次点の存在である線引き。
捜索時の父を見ていれば、誰にも分かることだ。父と同様に不安だったコロネに、父は声もかけぬほど必死だったから。
けれど今のコロネには、両親不在時に興した事業や人の関わりがある。その中で見てきた、複雑な人間関係なども。
だからこそ『自分は恵まれている』と、実感できていた。だから寂しいけれど、恨んではいないのだ。
その後テーブルの席に着き、奮発してチェルシーハニーのプディングを食べる親子。
「これを考えたのはコロネなんでしょ? すごく美味しいわ。お祝いの席にぴったりね」
「ええ、贅沢なお味です。私も久しぶりに食べました」
「利益優先で頑張ってくれたんだな。利益確定している商品なら、おいそれと自分では食せない。それに、かなりの節約していると聞いたよ」
プディングと果物がテーブルを飾っている風景は、コロネからすると本当にひさびさに見るものだった。
目を輝かせ、甘味の美味しさを全身で感じていた。
たぶんレイアーから報告を受けていると思い、詳細は省いて話すコロネ。
「まあ、チェルシーハニーの件は……。(過去の)フォカッチャー公爵のチェルシー様への淫らな執着を、お祖父様が邪魔したお陰で得られたようなものです。フォカッチャー公爵の(部下の)目の付けた、チェルシーハニーの養蜂計画は悪くないものでしたからね。
孤児院の買収ではなく、今回のように共存したのなら、既に事業は彼らのものでした」
「そうだな、確かに。でもその情報は僕でも知らなかったよ。孤児院にチェルシー・シャインの花が咲いていることさえ、知らなかったな」
「それはわざとですわ。目立たぬように、孤児院の裏手に咲いていましたので。日当たりが良くて、山の方に続くその場所は、関係者以外は通らないですから」
「チェルシー・シャインは育成が難しい花なのに、チェルシーはすごいですね。きっと清らかな彼女の気持ちが神に通じたのね」
ミカヌレの言葉にコロネも頷く。
「本当に素晴らしい方ですわ。その方にお母様が関わってくれていたので、今回の事業に繋がりました。ありがとうございますね」
「私の力など微々たるものでした。知識と人材や資金が合わさり、事業に繋がったのですから。実際に私は何年も孤児院に通いましたが、養蜂をしようと思ったこともないですしね。資金も……自分のアクセサリーを売ったと聞きました。辛い選択だったでしょ?」
「それは……でも、あの時はそれが最良だと思いました。お祖父様に頼らずに捻出できる物は、私には少ないですから」
「そうか。僕達が不在の時に、頑張ってくれたんだね。でも、どうして父上は、家のこと全てをコロネに任せることにしたのだろう? 碌に指示も出さずに」
暫し沈黙する空間に、レイアーのバリトンボイスが響いた。
「爺の嫌がらせ、いや暇潰しですよ。真面目で純真なコロネ様に、ギャフンと言わせたかったのでしょう。若しくは頼られたかったとか、くだらない理由です!」
憤る家令に、苦笑いを浮かべるスライストとミカヌレ。
(そうかも。あの人ならやるかもしれない。コロネにチェスで負けても、くやしそうにしていたもの)
(なるほどな。我が父ならば、孫にも容赦しなさそうだ。ただでさえコロネは、幼き時から神童だと言われ、父のようだと褒められていたから。
でもなあ、競うにしても年が違うだろ? 50歳過ぎの大人が、7歳(当時は5歳)になったばかりの子供に突っ掛かるなんて。酷いな)
「そうなのね」
「そうか」
「お祖父様が、そんな風に考えていたなんて(何だか納得したわ。私で遊んでいたのね)」
親子での、セサミへの認識が一致した瞬間だった。もう配慮とかはいらないなと。
コロネ達は、自由に活動を続けることにした。




