ミカヌレの生い立ち その1
「これからのことを決める前に、みんなに聞いて欲しいことがあるの。私の過去のことと、調査して分かった生まれ故郷のことも含めて」
「話してくれ、ミカヌレ」
「聞かせて、お母様」
ミカヌレの真剣な様子に、コロネとスライストは静かに頷いた。周囲に配置している隠密達も、首肯している。
レイアー達が得ている情報は多いが、ミカヌレが独自に調べた追加情報もあると言う。
ここにいるのは、ミカヌレが信じている家族と隠密達だけなので、隠す必要はない。
「まずは、幼い時のことから順に話すわね」
ミカヌレは紅茶を一口飲んでから、ゆっくりと話し始めた。
◇◇◇
ミカヌレは、2歳の時に孤児院の前に捨てられていた。
特に手がかりになる物も持たず、ただただ親を恋しがり泣いていた彼女。
名前は適当にシスターが名付けた。
ただ着衣や髪の手入れの状態から、やんごとなき家の者ではないかと言われていたが、多くが押し込まれる孤児院なので、いつの間にかそんなことも忘れ去られていた。
その当時は戦争があり、難民になった者達が周辺の国に助けを求め、逃げ出していた。
この国もそのうちの一つだった。
子供は足手まといになると捨てる者も多く、健全と呼べない孤児院は、ますます劣悪な環境に陥っていった時だった。
「おとうしゃま、おかあしゃま、まるちぇいゆ、どこにいったの? ひとりはいやよ、ちゃびしいよ、え~ん、え~ん」
ミカヌレが泣いても慰めてくれる者はおらず、無視ならまだ良い方で、時には「静かにしろ!」と怒鳴られていた。次第に彼女は無口になり、心を閉ざしていく。
いつも不安で心細い気持ちのまま、無情にも時は過ぎていった。
死なない程度の最低限での世話をされ、何とか生き延びることができた。周囲では朝になって動かなくなっている者もいたが、日常過ぎて驚くことさえなくなった。
流行り病などがあったなら、恐らく彼女も天に召されていたことだろう。
そんな劣悪の生活にも、国の情勢が落ち着いたことで援助金が入るようになった。その資金で子供達の生存率があがっていった。
けれど良いことばかりではなく、人権は変わらずないに等しく、物のようにやり取りされていた。
一部の貴族や王族に利権は集中し、貧しい者は奪われ続け、眠るように順に召された方が良かったと思う者もいたくらいで。
そんな生活の中、ミカヌレも容姿の美しさでクルル・ミズーレンの配下に引き取られ、隠密として育てられていく。
そこには同じような年齢の男女が集められ、隠密として生きる為の訓練が行われていた。
生き残り大人になった隠密達の中には、時に残酷な訓練を課してくる者がいた。ストレス発散の為に気に入らない者(出来が良すぎる者・反抗してくる者)をいたぶるように。
優秀な者が減れば、目的の達成率低下に繋がる為、死んだり身体機能に支障をきたさない程度に。
そんな状況を受けたり見ることで、逆らえないと言う心の楔を打ち込まれるのだ。特に幼い心には。
そんな状況でも心をなくさず、幼子の世話をしてくれる者がいた。男性にも女性にも。
でもそんな彼らは新人達を庇い怪我をしたり、亡くなることもあった。逆に任務に忠実で新人など切り捨てる者達は、男女共に長く生き残っていく。
最初は助けてくれない先輩達を酷いと思ったが、任務を熟すうちに気が付く。生き延びる為には、仕方がないこともあることを。
任務の失敗は、ミズーレン伯爵らから担当したチーム全体に罰が下る。鞭で皮膚が裂けるほどの酷いペナルティ。
その衝撃で、時に命を落とす者もいるくらいの折檻だ。
(ああ、どちらが良いとは言えないのだ。命をかけて他人を守ること。心を殺して、チームを守ること。どちらも先輩達の選んだ覚悟。生き残れば、また次の任務が回ってくるのだ)
危険な諜報や暗殺を行っても、私達は報われない。けれど……生きたくても死んでいった者達のことを思えば、生きないと言う選択もできない。
そんな閉塞した状態を、幼いミカヌレは生き延びた。




